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第65話 セレスvsメイベル.2

「はぁ、はぁ、きっつぃ……。日頃から鍛えておけばよかったかも……」


 セレスは鬱蒼と枝葉を自由気ままに伸ばす竹林を駆け抜けていて、時折地面を這いまわる竹の根やぽっかりと空いた地面の窪みに足を取られそうになって肝を冷やしながらも、既にキリキリと痛み始めた脇腹を軽く押さえながら走り続ける。

 本音を言えば、枯れ葉や枯れ枝が辺り一面に散らばってはいるが、服が汚れる事など厭わずに地面に寝転がって休息を取りたいのだが、自分の背後からメイベルが追い縋ってきている事を考えると、おちおち寝てもいられない。


「よ、よりにもよって、あ、あんな、強い人と当たるとは思わなかったぁ……」


 セレスは≪純白の聖盾ロイヤル・シールド≫を攻撃手段として行使するすべは身に付けたとはいえ、柊達と比較すると、攻撃力という点では大きく劣る。

 幸いにも、柊達はセレスに前線に立って戦うアタッカーとしての役割ではなく、補助魔法による後方支援や戦闘の流れを好調にするような補助的や役割を求めていたため、火力が今一つなセレスも余計な後ろめたさをしょい込む事はなかったが、今のように単独で戦闘に参加する状況に放り込まれた際には、自分の無力さを噛み締めたくなってくる。


「……やっぱ、悔しいなあぁ」


 セレスは消沈した面持ちで言葉を落とし、軽く視線を落とす。

 水気が抜けて薄茶色に変色した細長い笹の葉が延々と落ちている光景が、疾駆する度に後ろに流れ、また目の前に現れていく代わり映えのしない眺めが視界を流れていく。

 自分にもっと力があれば、メイベルと一対一の勝負においても多少の善戦は出来たのかもしれない。

 しかし、現実では大きく乖離した実力差を見せつけられ、防戦一方の戦いになってしまった。

 自分はまだまだ弱いままだ。


「だ、けど、まだ終わりなんかじゃないっ……!」


 恐らくメイベルは、竹林の中を歩き回って仲間と合流する事はせず、単独で索敵を行い、発見した敵チームの人間を各個撃破する腹積もりのようで、戦闘中に何度か離脱を試みたが、どこまでも追撃を行ってきた。

 今も姿は見えないが、確実にこちらを追いかけてきている事は確定だと考えていた方がいい。

 はっきり言って、たった一人で勝利をもぎ取るには荷が重い相手だが、


「これは、チーム戦なんだっ!」


 この模擬戦は一対一のさしの試合ではない。

 一人で敵の撃破に動くのも、仲間と連携して戦うもそれぞれ次第の戦いだ。

 火力に劣るセレスが勝利するには、仲間の助力が大きなアドバンテージになるだろう。


「よし、ここまで来ればっ……!」


 セレスが上手く動かなくなってきた両足にもどかしさを感じながらも、さらに前進しようとした瞬間。

 


「≪大海を穿つ海王の烈槍ヴォーテックス・スピア≫」



 セレスの背後から突如豪水の大槍が飛来し、セレスの肩口を僅かに掠めて通過し、バキバキという竹の幹や枝葉が砕かれ、蹂躙された。


「っ!? お、追いつかれたっ!?」


「その通りです」


 セレスがバッと振り返ると、全く息を切らしている様子もないメイベルが立っており、先程の一撃を繰り出した白銀の槍を構えていた。


「私から一度逃れ、仲間の方々と合流する算段だったのでしょうが、その手段はここで潰えました。降参なさいますか?」


「悪いけど、こんなところでリタイヤする気はサラサラなくてね。断固徹底抗戦させてもらうよ!」


 セレスは瞬時に≪純白の聖盾ロイヤル・シールド≫を四枚展開し、それぞれ速度に緩急を付けて動きに統一性を持たせないように配慮させて時間差のシールドアタックを実行するが、


「無駄です」


 メイベルは、僅かな数秒の誤差で肉薄する光の壁をキラキラと光る謎の粒子を含んだ水を纏った長槍を巧みに操り、造作もなく全ての壁を紙切れを切り裂くように斬り砕いた。

 その動きには一切の無駄も隙もなく、セレスは再び攻め込む好機を見い出せず歯噛みする。


「厄介な槍だね……。私の≪純白の聖盾ロイヤル・シールド≫を難なく破壊するなんて」


「私の樹宝『海姫の白槍セイルーン』の能力は、特殊な鉱物の微細な破片を研磨剤にし、切断力を大幅に強化した水撃を放つ事です。ですが、私が貴女の盾の魔法を破壊出来たのは、あの盾を構成していた魔力が低かったためです。手を抜いていたのか、まだ隠している奥の手のために魔力の消費を極力抑えたかったのかは分かりませんが」


 メイベルはそう言い放つと、弾かれたようにセレス目掛けて弾丸の如く飛び出し、白銀の長槍を振りかぶる。

 セレスは瞬きする暇もない程の速さで疾駆するメイベルの迎撃に動こうとするが、初動の加速で既にセレスの瞬く間に間合いを詰めてきたメイベルの動きに目を泳がせてしまい、体と思考が硬直してしまう。


「これで終了です」


 メイベルは、セレスが大怪我をしないように考慮し、軽く肩口に一撃を入れるつもりで若干肩の力を抜いた刺突をセレスの肩目掛けて繰り出す。

 そして、セレスはその一撃を停止した思考の海を漂流したまま、呆然と槍の切っ先が肩口を軽く薙ぐ光景を目に焼き付け、



 槍の穂先が肩口を薙いだ瞬間、その肉体が突如炎上し、巨大な火柱が天を焦がす勢いで噴き上がった。



「なっ!? ど、どういう事ですかっ!?」


 メイベルは、刺突を加えた少女の体が唐突に燃え上がって火炎の柱に変貌し、こちらを巻き添えにしようとする勢いで火力を強める火炎の塊を前に大きく狼狽し、冷静な思考が吹き飛んでいくのを感じた。

 私は確かに彼女と話していた筈です! それが何故肉体が炎に変わってしまったのですかっ!?

 少なくともセレスという少女は、防御魔法を得意とした魔導士で、炎系統の魔法を戦闘中に発動した事はなかった。

 炎の魔法を奥の手として秘匿していた? ですが、彼女の魔力は光属性のものでした。複数の魔力を錬成出来る人間は非常に稀な筈。その可能性は一度保留しましょう。

 メイベルは一旦バックステップで肥大化する火炎の塔から距離を取って安全圏に退避すると、あご先に指を添え、この予想外の現状について思考を巡らせようとするが、



 思考の海に沈もうとしたメイベルの死角であった枯れ葉の積もった地面から、猛然とした勢いで地表に現れた五本の炎の鎖がメイベルの鎧を強襲した。



「っつ!?」


 メイベルが思考の海から引き揚げられたのは、四本の炎の鎖が背中を打ち据えた時で、メイベルは脇腹目掛けて襲来してきた五本目の炎の鎖を反射的に槍で弾き、からくも敗北を逃れる。

 弾かれた炎の鎖は切断され、か細い火の粉を散布して掻き消え、追撃の手がない事を確認したメイベルは瞬時に周囲の様子を窺うが、新たな炎の鎖が地中から射出される気配はなかった。

 だが、セレスが逃げると見せかけてトラップの仕掛けられたこの場所に誘導をしていて、自分が彼女の策にはまったのは疑いようがない。更なる仕掛けがこの周囲一帯に張り巡らされている危険性がある。

 贅沢を言えば、時間を掛けてこの辺りを精査して安全を確認をしたいところだが、そのような悠長な事をしていれば新たな策を打たれてこちらが狩られかねない。

 現状ではセレスがどこに潜伏しているのかは分からないし、息を潜めてこちらの様子を窺っているのか、それとも既にこちらの索敵範囲外から離脱しているのかを確認する手がないのが口惜しい。


「……ですが、このまま棒立ちになっていても埒があきませんね」


 メイベルは悩まし気に嘆息し、首を左右に振って辺りをキョロキョロと見回しながら前進を始める。

 数歩歩いてみても別段周囲の様子に変化が訪れる事はなく、時折風で竹の枝葉が互いに擦れる僅かな物音が響く程度で、周囲に異音が入り混じっている様子はない。だが、



「≪大海を穿つ海王の烈槍ヴォーテックス・スピア≫」



 メイベルは手首を軽く前に押し出すようにして、穂先を前方に向けて水の刺突を唐突に放つと、竹林とまばらに点在していた大岩が粉砕される音の中に、突発的に離れた破壊力の高い水撃が放たされた事にたじろぎ、咄嗟に後ずさってしまった人の足音を補足すると、異音の発生源である先程の攻撃で四割程の体を失った大岩の陰に向かって猛然と駆け出す。


「やばっ、バレた!?」


 メイベルが次弾の≪大海を穿つ海王の烈槍ヴォーテックス・スピア≫を発射するために槍を構え直しながら疾駆すると、大岩の裏の左側から狼狽した様子のセレスがつんのめるようにして大慌てで飛び出してきた。

 メイベルはセレスを炙り出すために適当な場所に攻撃を放ち、彼女が僅かに唐突に繰り出されたその攻撃に身じろぎでもしてくれれば、居場所を探り当てる事が可能ではないかと思案し、それを実行に移した訳だが、どうやらそれは成功であったようだ。

 セレスの表情は居場所を発見されたという焦燥感に歪んでいたが、思考がホワイトアウトしている訳ではないようで、純白の光の板でバリケードを築くように防壁を展開し始めてこちらの行く手を阻もうと苦心している。


「無駄な事ですよっ!!」


 メイベルはセレスにこちらの攻撃の威力を減退させる厄介な魔法を使う暇を与えぬよう、速攻で≪大海を穿つ海王の烈槍ヴォーテックス・スピア≫を放ち、射出された水の大槍が光の防壁に直撃して板の表面に荒々しい亀裂を刻んでいく姿を目に焼き付けると共に、半壊状態となった防壁に連続突きを見舞う。

 度重なる連続の攻撃により、先程の≪大海を穿つ海王の烈槍ヴォーテックス・スピア≫で耐久性が著しく落ちた光の板が音を立てて砕け散り、壁一枚隔てた場所に立っていたセレスの目が大きく見開かれる。


「これで終了です!」


 メイベルは、セレスの胴体を槍の柄の部分で薙ごうと『海姫の白槍セイルーン』を振りかぶるが、



「貴女がね」


 セレスの隠れていた大岩の裏の右側から伸びてきた黒い刀の切っ先が軽くメイベルの横っ腹を小突き、メイベルは大岩の陰に隠れていた漆黒の刀身を持つ刀を握る黒髪の少年の出撃に瞠目すると共に、五回目の攻撃を加えられた事で自身が敗北を喫した事を悟った。

 

 最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!

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