第62話 セレスvsメイベル.1
「≪大海を穿つ海王の烈槍≫!」
「≪純白の聖盾≫!!」
女槍兵が放った、キラキラとした光沢を放つ謎の粒子が入り混じった槍状の水撃が竹林をいとも簡単に突き破りながらセレスに喰らい付こうと迫り、セレスは純白の守護板をすかさず展開して防御に徹するが、水の大槍が板に直撃した瞬間、薄皮を裂くように板全体に放射状の亀裂が激走し、セレスはその想定以上の威力に歯を食いしばり、額に脂汗が滲むのを感じながら、即座に光の板の修復に魔力を注ぐ。
「くっ、≪月夜に響く妖精歌≫!!」
セレスの指先から迸った純白の光が守護板を透り抜け、セレスの命綱である光の板を食い破らんと肉薄する水の大槍に接触した途端、水の大槍の威力が衰え始め、槍の幅も一気に半分以下に縮み出す。
セレスは相手の攻撃の威力が半減したことを見て取ると、すかさず右へ跳躍して槍の射程圏外から離脱し、純白の盾を消滅させた。
セレスの≪純白の聖盾≫が消失すると、威力が本来の半分に低下させられてしまったにも関わらず、水の激槍は誰もいない竹林を次々と容易に貫通していき、鬱蒼と茂っていた竹たちを凄まじい勢いで削り取ってしまった。
セレスはその桁外れの威力に戦慄すると共に、げんなりとした表情を浮かべる。
「か、勝てる気がしない……」
「いえいえ、貴女の盾の堅牢さは素晴らしいものでした。あの一撃はそれなりに力を込めていたのですが、よもや防がれた上、その威力まで抑えられてしまうとは思いませんでした」
水の大槍に穿たれて無惨な様相を呈している竹の残骸が転がる方向とは逆の竹林から姿を現した、ライトブラウンの長髪を靡かせ、白銀の柄に精緻な水の意匠が彫り込まれた長槍を握り締めた女性、メイベル=アルドリッジから惜しみない賞賛の視線を向けられたセレスは、手を左右に振って、否定の意を表す。
「いやいや、私は荒事は専門外で、基本的には後方支援とか仲間の補助向きの完全なフォロータイプの人間なの。貴女のさっきの攻撃を防ぐのだって精一杯だったんだから、買い被らないでね」
「ですが、私の一撃をあのように防ぐことの出来る者は、私のギルドにもほとんどいません。それが可能なのはギルドマスターや、この模擬戦に参加しているフレイヤぐらいでしょう。私としては、今の一撃を捌いた貴女をスカウトしたいぐらいです」
「そう言って頂けるのは光栄だけれど、私は今いる場所が結構気に入っているし、やらないといけない目標みたいなものもあるの。悪いけれど、そのお誘いに乗る訳にはいかないの。ごめんなさいね」
「……そうですか、それは残念ですね。では、この勝負において貴女の力を見定めさせて頂くことで諦めるとしましょう」
メイベルはそう言って槍を構え直し、セレスもいつでも魔法を発動出来るように身構える。
相手は<白銀の戦乙女>のナンバー2。
並大抵の攻撃ではその体に一撃を叩き込むことすら困難であり、≪純白の聖盾≫を他者にぶつけて攻撃に転換する程度の攻め手しか持ち合わせていない自分では、メイベルの意表を突くか、戦闘中に防御魔法や補助魔法を織り交ぜていきながら搦め手も含ませていくべきだろう。
というか、私じゃこの人の相手は荷が重すぎる。
柊や雛、アヤカたちであれば、バリエーションに富んだ攻撃手段を有しているため、戦況に合わせて臨機応変に対処することも可能だろうが、攻撃魔法を習得していない自分では、このように孤立した状況で敵と鉢合わせた時に後手に回るしかなく、良くても仲間たちと合流するための時間稼ぎぐらいだ。
柊と京子様の準備も整ったみたいだし、ここで無理に攻め込むのは上策じゃないか……。
みっともない姿を晒すことにはなるけれど、背に腹は代えられないよね。
「それでは、行きますよ!」
セレスがハッと顔を上げると、メイベルを長槍を中断に構え、猛然とこちらへと踏み込んできた。
その目にはこちらを格下と侮るような浅慮な気持ち等が一切写っておらず、セレスのことを対等な対戦相手と認識していることを如実に示していた。
「≪純白の聖盾≫!!」
セレスは自分の前方に五枚の純白の板を展開し、両端の板に思念を送ってメイベルの左右に回り込むように加速させ、メイベルを挟み撃ちするような状況を形成し、そのままメイベルを左右からプレスするために、二枚の板がメイベルを挟撃する。
だがメイベルは、ふっ、と口角を上げて笑みを浮かべると、長槍を軽く左から右に向かって一薙ぎする。
その一動作のみで、メイベルの槍は二枚の光の板をいともたやすく粉砕し、メイベルはそれには脇目も振らずに、苦虫を噛み潰したような苦渋と焦燥に彩られたセレス目掛けて足を止めずに疾駆する。
楽勝だ、みたいな顔してくれるじゃないっ!!
セレスの胸中に焦りと悔しさが攪拌された嵐が吹き荒れるが、セレスは無理矢理それを押し殺すと、大きく右腕を薙いで勅命を下す。
「残り三枚も出動!」
セレスは二枚の板が砕かれたことを目視した瞬間に間髪入れず、温存しておいた三枚の守護板をメイベルに向かって突撃させるが、何故か板の軌道には何の捻りもなく、メイベルはただ馬鹿正直に一直線に突っ込んできた板に怪訝そうに目を細める。
何かのブラフでしょうか? それともただ自棄になっただけ?
特別な策もなくあの板をこちらにぶつけたとしても、容易く破壊されるということは先程証明したばかりだ。
あの少女は、そんな事も分からないような人間ではない筈だ。そんな彼女が何の考えもなく、このような手に出るとは思えないのですが……。
メイベルは首を横に伸ばしてセレスの挙動を窺おうとするが、こちらに向かって特攻してくる三枚の純白の板が上手い具合にセレスの姿を覆い隠していて、彼女の様子を窺い知ることは出来なかった。
「何が目的なのかは知りませんが、そちらが真正面から向かって来るというのであれば、私も正面からお相手しましょう!」
あの少女の腹の内は定かではないが、何かしらの秘策や魔法を隠し持っていたのだとしても、それをあえて正面から打破するというのも一興でしょう。
それに、この模擬戦は相手の力量を推し量るための設けられたものです。彼女の戦術が奇抜で、敵の意表を突くような手を、こちらの考えが及ばないような目新しさに溢れた戦法を次々と披露してくれればくれる程、こちらとしても頼もしさが増してくるというもの。
だからこそ、つまらない思案はやめましょう。
今は全力で、
「正面から叩き潰します」
メイベルは三枚の光を横薙ぎの一閃で粉々に砕き、純白の光の残滓が掻き消えた先にいるであろうセレスの表情を確認しようと前方を確認すると、
こちらに背を向けて、全力疾走で潰走するセレスの背中がどんどん小さくなっていく姿が目に飛び込んできた。
「……へっ?」
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