第6話 お着替えタイム
「えーと、どれにしようかな。あー、もう! どれにしたらいいか全然決まんない!」
アヤカは、レースの付いた白の上下の下着姿というあられもない姿でクローゼットの前で唸っていた。細身の割りに豊かに実った双丘、無駄な贅肉等が一切ない細くくびれた腰、細くしなやかで、美しい脚線美を誇る足等、同性から見てもウットリと見惚れてしまう程の美を兼ね備えた美少女は、精緻な赤薔薇の刺繡が編み込まれた絨毯の上で胡坐をかき、枝毛もほとんどない細く柔らかな黒髪をぐちゃぐちゃに掻き乱し、クローゼットの前に山のように積まれた服たちを親の仇のように睨み付けていた。
「失礼致します、アヤカ様。……まだお決まりにならないのですか? 柊様たちをずっと居間でお待たせしてしまっているのですから、早く着る服をお決めになってください」
「だって私、家に男の子を招待するなんて初めてだし、どんな服装をすればいいのか分からないんだもん! それも私とサーラの命の恩人の前に似合わない服を着ていく出ていくのは嫌というか、何というか……」
サーラは下着姿のままブツブツと言い訳をしている主の姿に嘆息すると共に、居間で二十分以上も待機させられている客人二人に対して申し訳ない気持ちで一杯になった。
<ウィザード・ウルフ>を一刀の元に討ち取り、瀕死の状態だったアヤカをサーラが今まで見たこともないような高度な魔法で治療してくれた柊と名乗る少年に、アヤカとサーラは何度も頭を下げて感謝の言葉を声がかれる程伝え、是非ともお礼がしたいと、吉野の町のアヤカたちの自宅に、逆に申し訳ないと恐縮していた彼に無理を言って来て貰い、家に到着する迄の道中では、彼の中には京子という少女がいて、アヤカを救うことが出来たのは彼女のおかげだったという経緯を、アヤカを救った謎の力について質問したサーラに答える形で彼から聞かされ、サーラとアヤカは驚愕した。
柊という少年の話は、普段なら到底信じられるようなものではなかったが、アヤカを救おうと懸命に治療を行っていた彼の真摯な姿から、サーラは彼の言うことを全面的に信じることに決め、是非二人をもてなしたいと考え、家に彼らを招いたのだが……。
「どれにしたらいいのかなー? でもいい加減早く決めないと……」
肝心のこの家の主が、命の恩人である客人たちに改めて対面するための衣装選びに時間をかけてしまっており、柊様たちには居間で待って貰っている。確かに、血まみれの服のままで彼らをもてなす訳にはいかないが、あまりにも時間がかかりすぎている。
「ねえ、柊さんたちは今どうしてるの?」
「アヤカ様が居間に置き忘れていた『百合百合騎士団』の一巻を目にした瞬間に目を輝かせながら、『すみません、この漫画読ませて頂いてよろしいでしょうか!」と頼まれましたので、『いいですよ』とお答えした後、柊様が凄まじいスピードで一巻を読んでしまわれて、『続きってありますか!?』と訊かれましたので、アヤカ様の書斎から最新刊の十八巻までを居間にお持ちし、今はそれを怒涛の勢いでお読みになられています」
「まさかの同志爆誕!? ちょっと今から彼と存分に語り合ってくるわ!」
「下着姿のままどこへ行かれようとしているんですか!? 完全に痴女認定されてしまいますよ!」
サーラは、とんでもない姿で部屋を出ようとした主を羽交い絞めにして落ち着かせると、
「服は私が見立てさせて頂きます! アヤカ様は早く姿見の前に立ってください!」
サーラは少なくとも、居間にいる大切な客人たちが漫画を全巻読破してしまう前には、この主を自信を持って彼らの前に立てるような格好に着替えさせて、共に彼らの前に立ち、感謝の気持ちを再び伝えようと決意した。
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