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アルカディア・ヘヴン~最強アサシンと落命魔王少女の十四人の魔王探し~  作者: 九条 結弦
第2.5章 吉野での日々.1
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第51話 歓楽街

 今話よりしばらくは、柊たちの吉野での日々を描いていこうと思っております。

「ふふふっ、これで私も冒険者か~」


 ホクホク顔で自分の冒険者カードを空にかざしながら吉野の街を歩くセレスの姿を柊たちは微笑ましく見守ると共に、久方ぶりの吉野の町並みを感慨深げに眺める。

 フォートンを出立して十日後に柊たちは吉野に到着し、セレスがアヤカの屋敷の一室を借りて柊たちと共同生活を送ることになったのだが、自分一人だけが屋敷に住んでいないことにねた雛が住まいにしていた借家を引き払い、アヤカの屋敷に押しかけてくるという騒動もあり、柊たちは同じ屋根の下で暮らすことになった。

 だが、<魔女の書架塔>において見習いではあったものの、蔵書整理や先輩司書官から命じられる雑用をこなして少額ながら給金を得ていたらしいセレスが無期限の停学処分を受けてしまい、無職となってしまったことで彼女の食い扶持を稼ぐ方法を思案しなければならなくなった。

 この問題に関しては、柊たちとこれから行動を共にするに当たり、危険な場所に赴いたり、強力な魔物と交戦する機会も増加すると考えたセレスが柊たちと同じ冒険者を志望し、先程ギルド会館に共に向かってきたところだった。会館で無事に冒険者カードを発行してもらったセレスは、柊たちと同じEランク冒険者からスタートすることになった(担当は柊とアヤカの担当官であるブレンダさんになった)。

 現在はセレスに吉野の市街を案内している途中で、吉野での暮らしが長いアヤカと雛が柊たちの前を先導していて、セレスはファルティア王国とは違い、瓦が敷かれた家屋の多い和風な雰囲気漂う鳳桜皇国の町並みを興味深そうにキョロキョロと見遣っていた(ちなみにサーラは屋敷に残って掃除をしたいと申し出たため、柊たちは彼女の言葉に甘え、彼女を屋敷に残してくることになった)。


「いい町ね、吉野って。生まれ育ったフォートンの街も好きだったけれど、この街は活気と穏やかさがいいバランスで同居してる感じがする」


「フォートンは人の往来が激しくてせわしない感じがしたけど、吉野はフォートンに比べると穏やかかもね。退屈しちゃいそう?」


「ううん、そんなことない。見たことない物が沢山あって目移りしちゃってる。これからここで暮らすんだなあって思うと何か不思議な感じがする」


「まあ、住めば都ともいうし、セレスにとってもこの町が大切な場所になってくれると嬉しいわ」


 アヤカは優しげに微笑し、傍らを歩く雛と談笑しながら吉野の街を西へと歩き進む。

 事前に二人から聞かされた話では、吉野の西のエリアに飲食店を営む知り合いがいるらしく、セレスの町案内のついでに久しぶりに顔を出しに行きたいとのことで、現在は彼女たちの道案内でその店に向かっている途中なのである。

 柊も吉野の西側へ足を運んだ経験はなかったので、今回の吉野散策ツアーはアヤカと雛に一任してしまっているため、セレス同様に柊も一体どこにこれから連れられて行くのかは全く分からない状態だが、セレスがキラキラと目を輝かせながら異国の風景に感動している様子を見ていると、あれこれ詮索するのも無粋かと思ったので、黙ってアヤカたちの後に続いている。

 しかしながら、アヤカたちの先導で吉野の西側の界隈に足を踏み入れて以降、物珍しい異郷の街をウットリとした表情で見ていたセレスの表情が羞恥しゅうちの感情で真っ赤に染まり、肩身が狭そうに顔を俯かせるようになり、周囲の景色を極力目に入れないよう意識し始めた。


「ね、ねえ、アヤカ、雛」


「うん、どうしたのセレス? 顔が真っ赤よ」


「何やらもじもじとしているが、かわやにでも行きたいのか?」


「いや、トイレは別に大丈夫なんだけどさ……」


 セレスは恥ずかしそうに周囲の景色を見渡し、アヤカと雛にこっちに来てほしいと手招きし、疑問符を浮かべる二人に自分の前まで来てもらうと、若干裏返った声で確認する。


「……ここってエロい所だよね?」


 アヤカと雛の案内でセレスたちが足を踏み入れることになったのは、吉野の西側一帯を占める歓楽街で、通りに面した店舗は軒並みキャバクラやホストクラブなどが建ち並び、けばけばしいド派手な装飾を施された看板が設置され、道行く通行人にビラを手渡す客引きが宣伝活動に熱を入れている。

 セレスが通り過ぎた店の幾つかには娼館もあり、店のショーウィンドウに座り込み、着物を胸の半ばまではだけさせ、蠱惑的なポーズで瑞々しい肢体を惜しげもなく晒して男たちを誘惑している娼婦たちを目にした時は顔が茹で上がりそうになった。

 あまりにも刺激的な光景に棒立ちになっていたら、セレスの胸元の大きな双丘を一目見た娼館の店長らしき男に目を付けられ、「君ならうちでナンバーワンになれるぞ!」と迫って来たので思いっ切り張り倒してきたが、あれは正当防衛な筈だ。


「うん、まあ、ここは歓楽街だからね。その、何と言うか……性的なサービスをするお店も多いのは確かだから、私もこの通りを歩くのは結構恥ずかしいというか勇気がいるんだけど、ここら辺の人たちは本気で嫌がる人を無理矢理店の中に連れ込んだりする真似はしないから、そこは安心していいわよ」


「本当に大丈夫なの? 私今から売り飛ばされる訳じゃないの?」


「いやいや、私のことどんな目で見てんの!? 目的の店がこの先にあるからそこに向かってるだけだからね!? お願いだから、後退ずさりして私から距離を取らないでよ!?」


 セレスは狼狽ろうばいするアヤカから距離を取って柊の元まで後退すると、柊の軍服の袖をチョコンと指で摘まんでプルプルと震えだし、柊が(あっ、スゲー可愛い)と胸中で若干興奮していると、京子の声が頭の中に響き出した。


(というか、柊は随分と平然としてるね。まさか、こういう場所は行き慣れているとか!?)


「いや、元の世界で暗殺者稼業をやっていた時は、暗殺のターゲットがこういう街を根城にしてることもあったから、免役が付いてるだけだよ。実際に中でサービスを受けたことはないよ」


 実際、柊は内心では結構ドキドキしていて、何とかそれを表情に出さないように堪えているだけで、割とこうキツイというか、知らない世界が広がっているなあというふわふわとした感慨を抱いていた。

 そして、こういう場所で店を営業している人物と知り合いだというアヤカと雛の謎の交友関係にも興味が出てきたところで、飲食店と聞いてはいるが、この調子だとファミリーレストランや普通の居酒屋といった店ではないのだろう。

 柊たちはピンク色の雰囲気を醸し出す大人の街を歩き、その道中では顔を真っ赤にしたセレスが手で目元を覆い隠して危なっかしい足取りで歩く中で、時折指の隙間から通りに面した過激な外装の店舗の様子を興味深そうに窺っていて、京子から(……ムッツリ?)と言われてしまい、顔が爆発するのではないかと思うほど頬を紅潮させたセレスが戦闘不能に陥りそうになる場面もあったが、何とか目的の店に到着することが出来た。

 周囲の店がピンク一色の強烈な個性を放つ中、その店は瀟洒しょうしゃな白煉瓦造りの建物で、いやらしさ等が一切入り込む余地のない、女性に人気な喫茶店という風情を醸し出していた。店先には本日のオススメメニューの文字の下に軽食やスイーツ等の名前が書かれているブラックボードが置かれていて、色鮮やかなチョークで描かれた動物たちの絵が可愛らしい。


「「(……喫茶店?)」」


 三者が同様の予想をするが、アヤカと雛は顔を見合わせて苦笑する。


「まあ、この外観を見たらそう思うわよね。私も初めて来た時は勘違いしたし」


「それも無理もないだろう。ここまでなら隠れ家的な喫茶店と思われても仕方がないしな。喫茶店ではないが、怪しい店ではない。柊殿たちも安心して入るといい」


 アヤカと雛が躊躇ちゅうちょすることなく店の扉を開け、扉の右上に取り付けられた来客を知らせるドアベルがカランカランと軽快な音を奏でる。

 柊とセレスは、ここまで来たら行くしかないかと腹を決めると、恐る恐る店のドアを潜った。

 最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!

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