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第50話 新たな目的地

 セレスが仲間に加わることになった柊一行は、自分たちと行動を共にする以上、何故このフォートンを訪れたのかを彼女に説明し、魔王たちが異世界から召喚された少年少女であったこと、女神と世界樹の真実、穢れた女神を殺害せずに救済する方法を探していること、世界のどこかに封印されている大聖霊たちが存在している可能性が高い魔王殿の場所を探していることを時間を掛けてセレスに理解してもらった。

 セレスはこの世界で暮らす者の常識を根底から覆す真実に呆然とし、話の途中からは相槌を打つことも忘れて粛々と柊たちの話に耳を傾け、話の内容を脳内で整理することに傾注し、柊たちが一通りの説明を終えた頃には半ば放心状態となり、背もたれにぐでっと凭れ掛かった状態で天井を見上げていた。


「学会で発表したら鼻で笑われて一蹴されそうな話だったけど、柊たちや京子様が言うのなら本当なんだろうなあ~」


「まあ、信じ難い話であることには大いに共感するが、どうやら真実らしいのだ。我らは京子殿の仲間であった当代の女神を殺さずに助け出す方法を求めてこのフォートンに足を運んだのだが、図書館が閉館してしまった以上、調査が難航しそうな雲行きになってしまってな。セレス殿は図書館以外に女神や魔王関連の文献が保管されていそうな施設や場所をご存じないか?」


「う~ん、フォートンは地元だし、図書館や古本屋も小さな頃から通い詰めていたけど、ここの図書館や本屋にある本は、『女神は世界樹から皆さんを見守っていますよ』みたいな抽象的というか宗教色の強い本ばっかりだし、魔王関連の本も大した物なんてないよ。だからこそ、私はここを出て<魔女の書架塔>に入った訳だし。あっ、でも女神の救済方法のヒントになる文献はなかったけど、鳳桜皇国の南部にある蓬莱ほうらい山っていう山に、魔王たちが何かを隠したらしいみたいな記述は見たことあるよ」


 セレスが記憶の底から引き上げてきたその情報に、雛が反応を示す。


「蓬莱山といえば、皇国屈指の温泉街である蓬莱という都市の外れにある霊山だな。確か竜が棲んでいるという伝説も残っていて、国民から神聖視されている場所だ。まさか魔王ゆかりの地だったとは……」


(う~ん、ごめん。記憶が抜け落ちてるせいでその山に私たちがいたのかは、分からないみたい。でも魔王殿の場所を探す何かの手がかりは残っているかもしれないね。フォートンには私たちの目当ての品はないみたいだし、とりあえずその蓬莱山に向かってみる?)


「いいんじゃない。ここで足踏みしてても、時間の無駄だしね。それに温泉で疲れを癒したり、美味しい料理に舌鼓を打ってリフレッシュしたいわあ」


「アヤカの目的は十中八九それじゃないのかな……」


 まだ見ぬ温泉と豪勢な料理の数々に目を輝かせるアヤカに柊たちは苦笑し、大まかな段取りを決めることにする。


「とりあえず蓬莱って土地に向かうことは確定として、一旦は準備なり休息のために吉野に戻った方がいいよね?」


「そうね。セレスは私たちの屋敷に部屋が余っているから、一緒に暮らす?」


「うん、是非お願い。ていうか、アヤカってお屋敷に住んでるの? もしかしてお金持ち?」


「知り合いに貸してもらってるだけで、金持ちじゃないわ。だから豪勢な暮らしは提供出来ないけど、勘弁してね」


「ううん、お屋敷に住めるだけでもお嬢様気分が味わえそうだから楽しみ。私、鳳桜皇国に行ったことないから、色々と見聞も広まりそうで今から胸が膨らんでくるよ」


「じゃあ、まずは吉野へ帰ろうか。皆疲れていると思うから、もう一泊していく?」


 柊がそう提案すると、セレスがう~んとあご先に手を当てて唸り出す。


「フォートン発の鳳桜皇国方面へ向かう乗り合い馬車があと一時間後ぐらいに出るから、それに乗車した方が早く到着すると思うよ。私はもう荷物はこの通りまとめてきたから今からでも出発できるけど、皆はどう?」


 セレスの提案に、アヤカの隣に座っていたサーラがおずおずと挙手し、遠慮がちに主へ進言する。


「アヤカ様、私たちが広場で暴れてしまったことが衛兵の方々にバレてしまう前に出立した方が良いのではないでしょうか?」


「そ、そうね! 温泉じゃなくて豚箱に放り込まれる展開になったら最悪だし、この都市からはそろそろお暇した方がいいわよね! もしバレたとしても国境さえ越えたら何とかなるでしょ!」


 広場を破壊した戦犯の一人が迅速な国外逃亡を提案し、柊たちも面倒事に巻き込まれて吉野への帰還が遅れるのは好ましくないと判断し、柊たちは荷物を手早くまとめて宿屋をチェックアウトし、乗り合い馬車の停留場へと向かった。




「ねえ、サーラ。私のことを注視していた不審な人間はいなかったわよね?」


「はい、アヤカ様。私たちのことを観察する怪しい人影は見当たりませんでした」


 アヤカたちはフォートン市街にある乗り合い馬車のターミナルに来ており、歩道側に設けられた天蓋付きの待合所では、柊たちがベンチに座って和気藹々わきあいあいとお喋りに興じており、アヤカはトイレに行くと断りを入れて彼らの輪から離れ、サーラは主人であるアヤカに付き添う形で共に柊たちの元から離れていた。

 アヤカたちは待合所からは見えない場所まで移動し、歩道に等間隔に植えられている街路樹の下で言葉を交わしていた。


「このフォートンは王都から離れているから大丈夫だったみたいね。隊商の護衛依頼でファルティア王国に向かうことになった時は、適当に理由を付けて私たちだけでも吉野に残ろうとも考えたけれど、杞憂に終わって良かったわ」


 アヤカは安堵の息を吐き、サーラも口元を綻ばせるが、すぐに表情を引き締め、主に対して気遣わしな声を掛ける。


「ですが本当に王都には立ち寄らなくてもよろしいのですか? 柊様たちなら事情をお話しすれば……」


「ううん、駄目。柊たちに迷惑をかけたくないの。それに今王都に行くのは得策じゃないわ。下手したら殺される」


「……承知致しました。では、そろそろ柊様たちの所へ戻りましょうか。あまり遅くなりすぎるとご心配をかけてしまうかもしれませんし」


「そうね、行きましょうか、サーラ」


 アヤカとサーラは互いに暗鬱とした想いを胸の奥に無理矢理押し込んで蓋をし、何とか笑顔を浮かべながら柊たちの元へ歩き出したが、その笑みには拭いきれない暗い陰が染み付いていた。

 最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!

 これにて第2章『魔骸の書篇』は終了となります。

 『魔骸の書篇』が重めの話になってしまったので、次回以降は少しの間、柊たちの吉野での日常を描いていき、その後に第3章に突入しようと考えております。

 拙い文章ですので、読者の皆さんにとっては面白くないと感じられる部分も多々あると思いますが、お暇な時間に暇潰しとして覗いて頂けると幸いです。

 ブックマーク登録をして頂いている方々にも、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

 とても励みになっております。

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