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第40話 親友vs親友.1

 セレスは、素人目から見てもお粗末な構えで、黒刀の柄を指が白くなるほどギュッと握り締めている自分が、魔法大国であるルスキア法国で長年研鑽を積んできたルミアに果たして勝つことが出来るのだろうかという臆病で弱腰な気持ちを隅に追いやり、目の前に立つ親友と睨み合っていた。

 玉座の間には張り詰めた空気が充満し、少しでも気を抜けばその空気に体が押し潰されてしまうのではないかと錯覚してしまうほど、セレスの心に重圧を与え続けていた。

 だがここで退いてしまえば、ルミアは間違いなく『魔骸の書』を発動させ、家族を取り戻す幸せと引き換えに、数年後には命を散らしてしまう僅かな寿命で余生を送ることになる。

 セレスはそれだけはさせる訳にはいかないと、震えそうになる足に鞭打ち、柊から託された黒刀の切っ先をルミアに向ける。

 ルミアはそんなセレスの姿に冷ややかな視線を向けると、唐突に右腕を上げ、ピンと伸ばした人差し指で虚空を切った。

 すると、何もないはずの空間に黒い小さな裂け目が走り、その裂け目の隙間から、何やら黒く塗装された棒のような物が突き出してきた。

 ルミアは躊躇することなくその棒を掴み取り、一気に裂け目の中から抜き取ると、その棒の全容が露わになり、セレスはその禍々しい意匠に目が釘付けになる。

 ルミアが取り出したのは黒い棒ではなく、ルミアの身長とほぼ同じ高さの杖であり、枯れ木のような水気がほとんどない木で作られた杖は全体が黒く染色されていて、一切の光沢を放つことなく黒々としている。そして、セレスの目を奪ったのは、杖の先端部分に取り付けられた黒色の頭蓋骨で、眼球のない黒い深淵が広がる虚ろな眼窩がんかと、黒い水晶玉を大口を開けて咥えているその姿に寒気を感じて冷や汗が垂れた。

 そんなセレスの臆する姿にルミアは嘆息すると、氷のように冷ややかで冷徹な眼光を放った。


「セレス、そんな怯えた顔をしていたら、私を倒すことなんて出来ないわよ」


 ルミアはその手に握り締めている黒杖を一瞥すると、その秀麗な顔に強い決意を滲ませた。


「私はあなたを全力で排除するわよ。だからあなたも全力でかかってきなさい」


 セレスは彼女のその言葉が嘘偽りのない本音であることを痛烈に実感し、黒刀に込める力をさらに強めた。

 そして体内の魔力を活性化させ、ルミアが攻撃魔法をこちらに撃ち込んできた際、瞬時に防御魔法を展開させることが出来るように黙々と準備を行う。

 『聖女の寵愛ホワイト・ホルダー』の能力がルミアに略奪されている現状では、重傷を負えば即戦闘不能に陥る可能性があり、ルミアから受けるダメージは最小限にとどめなければこちらに勝機はない。それに加え、ルミアは略奪した『聖女の寵愛ホワイト・ホルダー』の能力で自身の負った傷を治すことが可能という最悪の状況だ。ちまちまと攻撃を加えていってもすぐに全快してしまうため、こちらは攻撃力の高い技でルミアを追い込まなければならない。

 ……正直、かなり分が悪い。

 だが、何としてでも勝たなければならないのだ。どれだけ無謀であろうとも、必死にここまで連れて来てくれた彼らに恥じぬ戦いをしなければない義務がある。絶対に勝ってみせる!

 セレスは、まずルミアの攻撃魔法を回避もしくは防御することでしのいだ後、彼女の懐目掛けて全力疾走を敢行して近接戦に持ち込み、この黒刀で致命傷にならない程度の傷を負わせて何とか彼女を戦闘不能にさせようと決心し、ルミアの一挙手一投足に全神経を傾ける。

 ルミアは、そうしてセレスが戦う意思を見せたことを確認すると黒杖をセレスに向け、冷淡に開戦の言葉を告げる。


「≪漆黒の禍星ブラック・ミーティア≫」



 黒杖に取り付けられた黒水晶から放たれた、闇を凝縮した漆黒の砲弾がセレスの腹部を直撃し、彼女は玉座の間の壁に嵌め込まれたガラス窓をぶち破って屋外に排出された。



「う、があ、がはぁ!?」


 セレスは、突如腹部を凄まじい衝撃と激痛が貫いた後に、その衝撃で自分の体が吹き飛ばされ、壁にあったガラス窓を粉砕して弾き飛ばされたことを理解するのに数秒以上の時を要した。

 セレスの体は色とりどりの花々が植えられた城の中庭目掛けて落下中で、このままでは後頭部が地面に叩き付けられて絶命は必至だろう。


「≪純白の聖盾ロイヤル・シールド≫!!」


 セレスは腹部に居座り続ける鈍痛に顔をしかめながら背後に純白の板を展開し、自身の体を受け止めさせることで地面への直接落下を阻止することに成功するが、地面に降り立つと共に片膝を突いて腹部を押さえた。胃から口内へ湧き上がってくる胃酸の酸っぱい味に気持ち悪さを感じながら、セレスは先程のルミアの攻撃を一切捉えることが出来なかったことに戦慄した。

 一切見えなかった。本当に何も見えなかった。気付いた時には、何かをされたというおぼろげな意識が生まれていた。

 セレスの着用している<魔女の書架塔>の制服の腹部の部分は魔法の直撃を受けて弾け飛んでしまい、赤く腫れたくびれたお腹が顔を覗かせていた。

 セレスは吹き飛ばされた際にも離さなかった黒刀を掴み直し、自分が突き破ったガラス窓を見上げた。

 そこには、痛みでうずくまるセレスを見下ろす冷めた表情を浮かべるルミアがおり、彼女は黒杖を一度掲げると、素早く杖の石突きを床に打ち付けた。


「≪大禍の黒茨ボルソルン≫」


 突如セレスの足元を地響きが襲い、思わず地面に突っ伏してしまったセレスの眼前にあった薔薇の花壇が盛り上がり、その真紅の薔薇園を食い破るように漆黒の茨が地面を突き破って出現した。柱のような太さの黒い茨は、服を編んでいくかのように編み込まれていき、無残な姿を晒しているガラス窓の窓枠まで到達する架け橋となり、ルミアはその茨の橋を悠然とした足取りで渡り始める。

 

「降参する気になったかしら、セレス?」


 口元に微笑を浮かべ、一瞬で圧倒的な力量差を示してみせたセレスの親友は、腰元まで届く白雪の如き白さの長髪を夜風に揺らせながら、左手で焦げ茶色の本を抱き、右手に骸骨を頂きに載せた黒杖を握り締め、王者のような風格を醸し出して降伏を促してきた。

 そんな降伏勧告を跳ね除けるようにふらふらとした不安定な足で立ち上がったセレスは、腹部に走る痛みに眉根を寄せながらも毅然と言い放った。


「全然。私はあなたを倒すって決めたの。だから、白旗を揚げるつもりなんか一切ないんだから」


「そう、残念だわ。なら、あなたの心が折れるまでもっと苦痛を与えてあげる。≪大禍の黒茨ボルソルン≫」


 ルミアが声を発すると共に、セレスの足元に再び地響きの振動が伝わり、セレスは妙な胸騒ぎを感じて咄嗟にその場を離れると、先程までセレスが立っていた場所に黒の茨が地面を突き破って出現し、鋭利に尖ったとげを纏った茨が大蛇のように地面をくねくねと這い回りながらセレスに殺到した。

 セレスは茨の群れが自身に群がろうとする光景を目の当たりにしながら左手を天に向かって突き上げ、人差し指と中指をピタリと密着させると、指先に魔力を集中させて一気に解放する。


「≪月夜に響く妖精歌ムーンライト・フォークテイル≫!!」


 突如セレスの指先からほとばしった純白の光がセレスを中心に円状に拡散していき、猛然とセレスに迫っていた茨がその光のテリトリーに侵入した途端、それまでの勢いが急速に沈静化し、ノロノロとしたペースでセレスに迫り始めた。だが、幼い子供が歩くようなゆったりとしたペースになってしまった茨に飲み込まれる訳もなく、セレスは容易に茨から離れた安全圏に退避する。

 ルミアは召喚した茨の動きが急に鈍くなった様子を冷静に観察し、称賛の声を上げる。


「≪月夜に響く妖精歌ムーンライト・フォークテイル≫……他者が発動させた攻撃魔法の威力を半減させる魔法。強い精神力と安定した光属性の魔力の錬成が必要とされる魔法を咄嗟に発動させるなんて、中々やるじゃない。さっきの茨で詰みだと思っていたけれど、予想以上のものを見せてくれるわね」


 セレスは、茨の橋を渡り切って荒れ果てた中庭に降り立ったルミアに得意げに胸を張り、期せずして豊かに実った双丘を見せつけるような姿勢を取ると、自慢げに口を開いた。


「ふふん、私だってやれば出来るんだから! ルミアに負け続けるのは今日で終わりなんだから、覚悟しなさい!」


「はいはい、覚悟しておくわ。じゃあとりあえず、その邪魔な二つのボールをへこませてあげるわ。少しは持たざる者の気持ちも勉強しなさい」


 瞳に憤怒の炎を燃え上がらせたルミアは黒杖を再びセレスに向け、それを見たセレスは地面に根を張ってしまったかのように足が竦んでしまって身動きが取れなくなってしまう。

 私を吹き飛ばした魔法がまた来る!! 全く軌道を追うことも出来なかったあの魔法が!!

 セレスは腹部に今も残り続ける痛みに意識が向いてしまい、前回のように魔法の直撃を受けてしまう未来を予想して、その場に立ち尽くしてしまう。

 ど、ど、どうすればっ!!

 


(セレスちゃん! 今から二秒後にその場で伏せなさい!)



 突如頭の中に響き渡った、強い尊敬の念を抱いている魔王様の指示に夢中で縋り付いたセレスは、彼女の命令通りにその場で伏せると、自分の頭上を何かが凄まじい速度で掠めていった風を感じて恐る恐る振り返る。

 セレスの背後に存在していた石壁が円状に粉砕されており、衝撃で吹き荒れた土煙が色鮮やかな花々を白や灰色に染めていく光景が目の前に広がっていて、先程よりも威力が上がっていた黒の砲弾の直撃を免れたことに安堵の息をついた。

 そしてルミアは、かわせるはずがないと思っていたこちらの攻撃の軌道を見切っていたかのように、ベストなタイミングで頭を伏せたセレスに驚嘆し、震えた声を漏らした。


「……どうしてあれを避けられたの? 一発目の時は全く目で捉えることも出来ていなかったのに、一体何故?」


 唖然とするルミアの声を聞きながら、セレスは自分を助けてくれた≪時の魔王≫に感謝の言葉を紡いだ。


「あ、ありがとうございました京子様!! おかげで助かりました!」


(気にしなくていいよ、セレスちゃん。この戦いはあなたと彼女との大喧嘩だけれど、あなたは一人じゃない。アドバイスぐらいしか出来ないけれど、全力でサポートするよ)


 セレスはそんな彼女の言葉に目頭を熱くすると共に、右手に握り締めている黒刀に視線を向ける。

 私は一人じゃない。ここには、いつも柔和な笑みを浮かべている優しい少年と、穢れに溢れ返った暗黒の時代を終焉に導いた魔王の一人が側にいてくれている。……何も怖くなんかないんだ。

 そう思うと、先程までセレスの心を縛っていた恐怖心や怯えがスッと消えていき、代わりに温かな想いや強い自信が満ち溢れてくる感覚が全身を駆け巡った。

 セレスは呆然と立ち尽くすルミアに対して顔を綻ばせると共に、強い芯の通った気丈な笑みを向けて宣言した。


「ルミア、私たち・・は負けないよ。絶対に」

 最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!

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