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第24話 魔女の書架塔

 セレス=フローライトは、本の都であるフォートンの町で生まれ育ち、本に囲まれた環境で生きてきた少女だった。

 両親はセレスが幼い頃に病で亡くなり、フォートンの南部に位置する住宅街に暮らす父方の祖母に女手一つで育ててもらった。家には読書家であった両親が遺してくれた大量の蔵書が保管されていたため、セレスは毎日食い入るようにそれらを読み漁り、様々な分野に関する知識を自然と身に付けていった。

 近所の悪ガキ連中と地下水道に入り込み、ゴミ捨て場に粗大ゴミとして置かれていた傷んだ机や椅子、工場の敷地の端にうず高く積まれた廃材等を密かに拝借して秘密基地を作ったりもしていた(後に地下水道の点検に来た業者のおじさんたちに見つかって、涙混じりに自分たちで撤去し、お祖母様にはキツイ拳骨を一発もらって大泣きした)。

 お祖母様は厳格な人で、学校とは別に、家で五時間以上勉強することを絶対のルールとしてセレスに課し、遊びたい盛りだったセレスはそれを苦痛に感じていたが、お祖母様に日々の食事や学校に通うための費用を出してもらっている身分である自分が反発することに抵抗を覚えていたことと、お祖母様は友人と遊ぶこと自体は奨励していて、セレスがどんなに服を汚して帰ってきても一切怒るようなことはなかったため、セレスは渋々毎日机に齧りつくようにして勉学に励んだ。

 その甲斐もあり、セレスは毎年学年一位の玉座に君臨し続け、中等学校三年になる頃には、合格可能な高等学校は選り取り見取りで、様々な学校からも是非うちに来ないかという連絡が多く寄せられる等、主観的に見ても自分はとても恵まれていることは理解していた。

 しかしながらその頃のセレスには、特になりたい職業や挑戦してみたいこと等が全くなく、将来の展望については自分自身もよく分からなかった。それと共に、お祖母様が重い病を患い、もう先がほとんど残されていないことを主治医に告げられて以降日々病院に通い詰めていたセレスには、自分自身の将来よりも、自分を育ててくれたお祖母様に少しでも恩返しをしなければという気持ちで心が満たされていて、進路どころではなかった。

 そんなある日、セレスはいつものようにお祖母様の着替えを取りに行くためにお祖母様の自室に足を踏み入れ、タンスから必要な分の服を取り出して鞄に詰めて部屋を後にしようとした際、タンスの隅に埃を被ったまま忘れ去られたのかのように置かれていた木箱を見つけ、好奇心をくすぐられたセレスはそれを手に取り、中身をあらためた。

 中にはベルト付きの日記帳と、乳白色の宝石が取り付けられた美しい指輪が入っていて、セレスはお祖母様に対する罪悪感を感じつつも、綺麗な指輪を自分の指に通してみたいという乙女心がどうしてもうずいてしまい、セレスは右手の薬指にそっと指輪を通した。その時に指輪から何かがこちらに流れ込んでくるかのような妙な感覚が全身を巡ったが、すぐに消え去ったので、セレスは気にも留めなかった(後にこれが、若い頃のお祖母様が使用していた『樹宝』である『聖女の寵愛ホワイト・ホルダー』であることを知り、この時に契約が交わされていたことにも気が付いた)。

 それからセレスは日記帳に目を通し、お祖母様がセレスが生まれる頃には亡くなっていた祖父と結婚するまでの間、ファルティア王国の王立機関である<魔女の書架塔>で司書官として勤務していたこと、約五百年前に存在したといわれる十四人の魔王たちを研究テーマとして学術研究に励んでいたこと、無念にも研究を完成させることが出来なかったこと等、今までセレスが知らなかったお祖母様の様々な顔を知ることが出来た。

 セレスは、いつも仏頂面で、気安く声もかけられないような雰囲気を周囲に放っていたお祖母様が何かに熱意を持って打ち込み、足の不自由だった祖父をサポートするために未練を残しつつも、<魔女の書架塔>を去った時に強い惜別の想いを感じていたことを知り、遠く近寄りがたい存在であったお祖母様が一気に近しく、愛おしい存在に早変わりしていく心情の変化に心躍らせ、是非ともお祖母様から若かりし頃の思い出や、祖父との馴れ初め等を聞いてみたいと感じたセレスは、ウキウキとした足取りで病院に向かった。

 しかし、セレスが病院に到着した際に出会ったのは、放課後に友人と遊ばずに毎日病室に顔を出す孫娘に、ババアの相手をする暇があるなら自分の進路についてしっかりと考えてこいと口を酸っぱくしていた仏頂面のお祖母様の顔ではなく、冷たくなり、もう二度と目を開くことはない、セレスにとって最後の家族の安らかな死に顔だった。

 セレスは体の中から大切なものが一気に流れ落ちていく感覚に支配され、近所の人たちに葬儀や細かい手続き等を手伝ってもらい、一通りの作業を終えると、何日も泥のようにベッドの中に潜り込んで眠り、学校を何日も休み、皆勤賞を逃した。

 家で塞ぎ込んでいたセレスは、不意に祖母の日記帳の存在を思い出し、もう二度と主が戻ってくることのない空虚な雰囲気が漂うお祖母様の自室に足を向け、日記帳をペラペラとめくって中身にもう一度目を通して熟読すると、今まで不明瞭だった自身の進路を決めた。

 私はお祖母様の叶えることの出来なかった夢を叶えてあげたい。

 いつも泥だらけで帰ってきたセレスを叱らずに温かい家の中に入れてくれて、密かに骨ばった細い指を冷たい水が張られた木桶に突っ込んで、セレスの服を洗ってくれていたお祖母様。

 時折、魔王について書かれた書物を手に取り、物憂げな視線を向けていたお祖母様。

 勉強に疲れて机に突っ伏して眠っていたセレスの肩に毛布をそっと掛けてくれていたお祖母様。

 大切なお祖母様の様々な顔や優しさが心の中に泉のように湧き出し、セレスは目尻から流れ落ちる涙を拭うこともなく、静かに決意した。

 私は<魔女の書架塔>に入って、お祖母様がやり残した研究をするんだ!!


 <魔女の書架塔>。

 ファルティア王国の王立機関であり、国境を越えて様々な貴重な文献や遺物を蒐集し続け、それらに関する様々な研究活動と、蒐集品の永続的な保存を行っている機関である。

 セレスは<魔女の書架塔>の司書官採用試験を受験し、お祖母様の熱心な教育指導で培った頭脳をフル稼働して見事採用試験に合格した。

 セレスは「第四司書室」という部署に配属され、そこで座学や魔導書といった特殊な書物の取り扱い方等を学んだ。セレスのように中等学校を卒業してから採用された司書官見習いは、二十二歳になる七年間の間に様々な授業や演習に出席して見聞を深めると共に、魔物が蔓延る危険な遺跡等への蒐集任務で必要となる攻撃魔法や防御魔法の会得、一文字読んだだけで読んだ者を呪殺する魔導書や、危険な魔物が封じられた壺といった危険な物品の取り扱い方、蒐集した文献を読み解き、それを理解しながら論理的に説明する力や文章にまとめる能力等をしっかりと身に付けることを求められた。それが十分に身に付いていると判断された者だけが司書官の資格を与えられ、<魔女の書架塔>の戦力として様々な業務に携わることが出来るのである。

 セレスはここでも類まれなる才覚を発揮し、筆記試験や実技試験で優秀な成績を修めることに成功し、同期たちの羨望と嫉妬を独り占めにした(しかし、攻撃魔法の覚えだけが悪く、いつも教官の司書官の頭を悩ませてしまい、座学の教官と攻撃魔法の教官との間ではセレスの評価は大きく食い違っていた)。

 セレスが一部の分野を除いて順調に学業に励み、主席の座は約束されたも同然だろうと教官たちが噂をする中、一人の編入生が「第四司書室」に配属され、セレスを上回るずば抜けた頭脳と、強力な攻撃魔法まで発動することが出来る突如現れた才媛に、セレスは戦々恐々とした。

 編入生の名は、ルミア=ローゼンベルクといった。

 最後までお読み頂き、ありがとうございました!

 

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