第2話 吉野へ
視界が暗闇に閉ざされると共に、奇妙な浮遊感を感じていた柊は、突然目の前がピンク一色に染まり、「うおっ!?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。
柊はゴシゴシと目元を擦ると、再び目を開けて、目の前に広がる景色に目を釘付けにされた。
桜だった。
見事なピンク色の花弁を咲き誇らせ、見る者の目を一気に惹き付ける美しい桜の木が辺り一面に生えていた。上空から俯瞰すれば、広大な桜色の絨毯が延々と広がっていることだろう。
「京子、ここが異世界なんですか?」
(うん、ここが異世界『アルカディア・ヘヴン』だよ。私が本の中に入る前と変わっていないのなら、ここは五大陸の一つである東大陸東部にある大国、≪風の国≫鳳桜皇国の東部にある吉野って場所だよ。吉野の町は今私たちがいる『虹桜山』の麓にあるよ。桜が咲いてるから3月か4月ぐらいだと思う)
本当にここが異世界なのか……。
桜という見慣れた風景のせいか、どうにも異世界に来たのだという感慨は特に湧き上がってこなかった。
「何か、平和な感じがしますね」
「まあ、吉野は比較的に平和な場所だからね。町の方も三方を山に囲まれてるから交通の便が悪くて、皇都なんかと比べたら田舎みたいなもんだし、強い魔物とかも生息してないしね)
「えっ!? 魔物とかいるんですか!?」
(うん、いるよ。……おやおや、もしかしてビビってる?(ニヤニヤ))
「ビ、ビビッてなんかいませんよ! でもなるべくお近づきにはなりたくないなあとは思いますけど……」
(まあまあ、この頼れる巨乳のお姉さんに任せなさい。魔物が出ても、私の加護で何とか逃げられるぐらいのことは出来ると思うから、大船に乗ったつもりで安心してなさい)
「さりげなく自分の体を改竄しないでください。あとその船、船底に穴が開いているような気がするんですけど。具体的に加護っていうのはどういうもの何ですか?」
(実戦になったらちゃんと分かるよ。最初から加護があるから安心だ、みたいな風に楽観的になられても困るから、戦闘の時にヤバくなったら私が助けてあげるから大丈夫だよ)
「何か師匠みたいですね。とりあえず、なるべく京子の手を煩わせることがないように頑張ってみます。でも、魔物か。僕に倒せるのかな……」
(大丈夫、大丈夫。この私がいるんだからね。とりあえず町の方へ行ってみましょう。ギルド会館が残っていれば、そこで冒険者登録をして路銀を稼がないと)
「ギルドって、冒険者が依頼を受けて、それを達成してお金を貰ったりする場所っていう認識でいいんですか?」
柊が元の世界にいた頃に読んでいたライトノベルやアニメなどに登場していたギルドはそういった感じの場所で、複数人が集まってパーティーを結成して冒険をしたりしていたのだが。
(うん、大体その認識で合ってるよ。とりあえずは、駆け出し冒険者として色々と経験を積んでいきながら、実戦も経験していって場数を踏んでいけば、柊もきっと強くなれるよ)
「了解です。町へはどう行けば?」
(今いる場所から真っすぐに進んでいけば町が見えてくると思うから、そのまま前進して)
柊はまだ見ぬ異世界の町を目指して、最初の一歩を踏み出した。
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