第19話 アヤカ&サーラvs炎戯のガルザ
「≪大火の炎砲≫!!」
「≪烈火の炎砲≫」
サーラの放った真紅の火炎と、ガルザの放った紅蓮の炎が互いに津波のように押し寄せ、アヤカとサーラ、ガルザが立つ場所から中間の地点で激突し、その場で拮抗する。真紅の奔流が紅蓮の奔流を飲み干そうと威力を強めると、紅蓮の奔流も負けじと押し返し、一進一退の攻防が数十秒程続く。
アヤカはサーラに魔力をさらに供給し、サーラはその魔力を体内で燃焼させて掌から迸る火炎の火力をさらに上げる。だが、ガルザの炎の威力も徐々に上がってきており、一向にサーラの放つ炎が相手を飲み込むことが出来ずにいた。
アヤカとサーラが現状を打破出来ず攻めあぐめていると、紅蓮の炎の向こうから感嘆混じりの楽しそうな声が聞こえてきた。
「ほう、中々の威力じゃねえか。正直、一気にそっちの炎を飲み干して消し炭に出来るかと高を括ってたんだが、こいつは嬉しい誤算だ。楽しくなってきやがったぜ、精霊魔導士」
「なっ!? あんた精霊が見えるの!?」
「いや、全然見えねえ。だが、アンタの魔力が何もない筈の虚空に向かって流れ出しているのと、その魔力が流れ込んでいる虚空から炎が噴き出しているのを見れば、大体の予測はつく。精霊魔導士との面識は今までなかったから、気付くのが若干遅れたがな。そして、精霊魔導士には致命的な欠点があることにも気付いたぜ」
ガルザは掌から噴き出していた紅蓮の炎を唐突に止め、防波堤となっていた自身の炎が消滅したことで一気にこちらに押し寄せてきた真紅の津波を見据えると、獰猛な笑みを浮かべて叫んだ。
「『炎速の紋章』!」
ガルザがそう言い放った瞬間、その肉体がその場から瞬時に掻き消え、獲物を取り逃がした真紅の炎は、先程まで彼が立っていた場所を無情にも通り過ぎる。
アヤカとサーラはその光景に目を見開いて思わず辺りを見渡すが、敵の姿を目視することが出来ず、焦燥感がどんどん膨れ上がってくる感覚に寒気を感じる。
「い、一体どこに?」
「ここだ」
突如アヤカの背後で響いた冷淡な声に、アヤカは急いで振り返るが、ガルザはアヤカの顔の前に掌を向けて呟いた。
「燃え尽きろ」
ガルザの掌から放たれた凄まじい火力を誇る火炎がアヤカの肉体を一気に飲み込んだ。
アヤカの体は一瞬で消滅し、火炎が通り過ぎた跡には髪の毛一本すら残されておらず、ガルザは拍子抜けしたようなつまらなそうな表情を浮かべ、肩を竦めた。
「精霊が主を守っている防衛ラインさえ圧倒的な速さで越えちまえば、無防備な女が突っ立ってるだけだ。討ち取るのは造作もねえんだよ。俺の『樹宝』、『炎速の紋章』は大量の魔力を消費しちまうが、瞬間的に爆発的な加速力を得ることが出来るのさ。要するに、滅茶苦茶足が速くなるって訳だ。……それにしても呆気ない最期だったな。もう少し楽しめるかと思ったんだが、過大評価だったかねぇ。おい、そこにいるんだろう精霊さんよ。主の仇を討ちたいのならかかって来てもいいが、俺は容赦しねえぞ。ここら一帯を焼け野原にするまで焼き尽くせば、お前さんを見ることが出来ない俺でも何とか殺れそうだしな。もし、かかってくるならさっさと……」
「≪呪縛の炎鎖≫!!」
突如響き渡った少女の声を号令として、ガルザの足元の地面を突き破って出現した炎の鎖がガルザの体に雁字搦めに巻き付き、咄嗟に逃れようと身じろぎした彼の体を執拗に縛り付け、ガルザはその場に立ったまま拘束されてしまった。
「っ! 何だこいつは!? 精霊の仕業か!?」
ガルザが何度も拘束を逃れようと身じろぎしても炎鎖はびくともせず、耐火の魔法がかけられているローブにも若干の焦げが目立ち始めてきた。
「いえ、それを仕掛けたのは私よ」
思わぬ搦め手に狼狽していたガルザが声のした方向に顔を向けると、火傷一つも負っていない黒髪の少女が毅然とした表情でこちらを見据えていた。
「っな!? お前はさっき俺が殺した筈だ!? 何故生きてやがる!?」
「あれは私の契約精霊であるサーラの魔法、≪紅炎の幻影≫で生み出された幻影よ。本物の私は、あんたが広場を炎の魔法で突き破った時に吹き飛んだ瓦礫の陰に隠れてたの。今あんたの体を拘束している魔法を幻影の足元に設置した後にね。あんたの炎とサーラの炎が激突している間に、私と幻影が入れ替わるのは造作もなかったわ」
「馬鹿な!? お前がこの魔法を仕掛けただと!? お前は精霊に魔力を供給して戦わせているだけじゃなかったのか!?」
「……この都市を訪れる前、私はパートナーである精霊に依存した戦い方をしてきたわ。あんたの言う通りに、ただ精霊に魔力を供給しているだけの役割しか自分に課していなかった。でも、そのせいで私のパートナーであるサーラに大きな負担をかけた上に、自分自身の命もなくしそうになった。それから私は、彼女と共に戦場に並び立って共に戦うことを決意して、サーラの魔法を私自身も発動出来るように訓練したの」
「精霊が操る固有魔法を契約者自らが行使したってのか!? そんなことが出来る精霊魔導士なんざ、ほとんどいないはずだぞ!?」
ガルザの言う通りで、本来精霊魔導士というのは、主である契約者は精霊への魔力供給に専念し、精霊は契約者から供給された魔力を燃料にして魔法を発動させて戦うのが通常の戦法であり、精霊が操る魔法を契約者本人が代わりに行使することは不可能ではないが、両者との間に途轍もない程強固な絆がなければ成功することはない芸当であり、実際に行える者はごく少数のみだ。しかし、アヤカは幼少期の頃からサーラと契約を交わしており、彼女と共に歩んできた長い年月で培ってきたお互いの信頼関係、日夜積み重ねてきたサーラと心を通わせるための精神の鍛練、そして何よりも、虹桜山での敗北を経てさらに強くなった、彼女に守られるだけではなく、共に戦えるようになりたいという強い信念が実を結び、サーラの魔法を契約者である自分も発動出来るようになったのだ。まだ可能になってから日が浅く、付け焼き刃の腕前ではあるが、何とか実戦で使うことに成功したアヤカは、この戦闘で大きな自信を付けることが出来た。
アヤカは驚愕するガルザに人差し指を突き付け、高らかに命じた。
「サーラ! 仕留めるわよ!!」
「はい、アヤカ様。準備は既に整っております」
アヤカはサーラへの魔力供給を爆発的に高め、全身から噴き出した魔力がサーラの体の中に吸い込まれていく感覚を鋭敏に感じ取りながら、自身も新たな魔法の発動の準備に魔力を割き始めた。
ガルザは身動きの取れない体を忌々しく感じながら、アヤカから流れ出る魔力の行く先を突き止め、天を仰ぐと、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「っ!? 何だ、こいつは!?」
赤い薔薇の花畑が空中に咲き誇っていた。
しかし、その一輪一輪は燃え盛る真紅の炎で形成されており、その数は三十は軽く超えていた。そして、その一輪一輪には莫大な魔力が込められており、あれが自身の体に直撃すればかなりの深手を負うことをガルザは瞬時に理解すると共に、これを生み出したのはアヤカという少女の契約精霊で、アヤカは精霊がこれを密かに作り出す時間を稼ぐために、俺をここに拘束して身動きを封じながら、精霊への注意を逸らす役割を担っていたのだということを悟った。
「ちっ、中々やるじゃねえか。まさか、ここまで追い詰められるとはな……」
「あんたはとても強いわ。だからこそ、どんな手でも使うしかなかったのよ」
「それでいい。戦いでは使える手は躊躇せずに打つべきだ。お前には何も恥ずべきところはない」
「そう言って頂けると、嬉しいわ。あんたの言葉通り、躊躇せずにいかせてもらうわ」
アヤカは、ガルザの頭上に浮遊し、火炎の花園の女王として君臨しているサーラの周囲にも魔力を集中させて新たなに十輪の火炎の薔薇を開花させると、大きく腕を横に薙いでサーラと共に魔法を発動させた。
「「≪炎薔薇の庭園≫!!」」
強い絆で結ばれた主従の声に反応した真紅の薔薇たちは凄まじい速度でガルザの肉体に落下し、広場全体が崩落するのではないかと思う程の威力を発揮した真紅の爆炎が広場の中心に咲き誇った。
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