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第17話 行く手を阻む者たち

「京子! この先で合ってるんだな!?」


(うん、間違いない! サーラちゃんとアヤカちゃんの魔力が急激に膨れ上がった場所はこの先だよ! それから、サーラちゃんたちのすぐ近くにもう一つの強い魔力を感じる。もしかしたら、誰かと戦っているのかもしれない!)


「我らが到着するまで無事でいてくれれば良いのだが……」


 先程まで柊と雛は、デート通りを互いにドキドキとした心境で赤面しながら歩いていて、その様子を眺めていた京子は、まるで砂糖の塊を飲み込んでしまって胸やけしてしまったかのようなげんなりとした声を上げていたのだが、突如サーラとアヤカの魔力が一気に膨れ上がったことを鋭敏に京子が察知したことと、サーラたちの魔力の反応がある方向から我先にと逃げるように走ってくる群衆から漏れ聞こえてくる声に聞き耳を立て、図書館の前にある広場で何やら物騒なことが起こっていることを知った柊たちは、アヤカたちの元へ向かうため、人混みをかき分けながら広場を目指していた。

 しばらく走っていると、重厚感溢れる鎧を身に付けた衛兵たちの一団が市民の誘導を行っている通りに到着し、広場方面に人が入り込まないように監視と誘導を行っていた。


「柊殿、あの連中に事情を話して中に入れてもらうか?」


「うーん、でも事情を話したとしても、簡単に中には入れてくれそうな雰囲気じゃないしな」


 柊たちの眼前で声を荒げながら野次馬を追い払っている衛兵たちには隠しようもない焦燥と恐怖が浮かんでいることから、ここの都市の衛兵たちはこういった非常事態をほとんど経験してこなかったのであろう。それはこの都市の治安が長年維持されてきたことの証左ではあるが、その代償として練度の低い衛兵ばかりしかいない脆弱な組織に成り果てていた。


「では強行突破するか? やろうとすればやれると思うが……」


「まあ、とりあえず話だけして、それで駄目なら突っ切って突破しよう」


 あの程度の衛兵たちであれば、柊たちが刀を抜かずとも、彼らにかすり傷一つ負わせずに振り切れるだろう。


「承知した。では早速」


 柊と雛は互いに頷き方針を決めると、避難誘導と、広場方面に向かう衛兵たちの選出作業を行っている衛兵の元へ歩き出そうとするが……。


(っ!? ちょっと止まって二人共! ……何か来るよ)


 突然の京子の緊張を孕んだ警告を聞いた二人は即座にその場で足を止めて、周囲の気配を探り、静かに刀の鯉口を切って即座に抜刀が出来る態勢を瞬時に整えた。

 二人が態勢を整えたほんの数秒後、衛兵たちの背後の路地から大きな影が不意に飛び出し、衛兵たちを巨腕で薙ぎ払った。


「っば、馬鹿なっ!? <ウィザード・ウルフ>だと!? 何でこんな街のど真ん中にこんな奴が!?」


 衛兵たちは突然の乱入者に騒然となり、群衆は血相を変えて逃げ出した。数名の衛兵が恐怖に身を震わせながらも<ウィザード・ウルフ>に斬りかかるが、巨狼たちの剛腕で瞬く間に沈められ、残された衛兵たちはついに戦意を失って散り散りに逃げ出した。

 一方柊たちは既に抜刀しており、柊にとっては初陣で討ち取った魔物であり、アヤカの命を奪おうとした存在である巨狼に鋭い眼光を放っていた。


「柊殿、あれ一匹だと思うか?」


「いや、まだ近くに……九匹いる」


 柊が周囲に意識を向けると、息を潜めてこちらを窺っているネットリとした視線を感じ、彼らが舌なめずりをして獲物である二人を品定めしている様子が手に取るように分かった。

 周囲に潜んでいた<ウィザード・ウルフ>たちは、今から獲物をたっぷりといたぶる愉悦に浸った醜悪な笑みを浮かべて路地のあちこちから姿を現し、柊たちの周囲を取り囲み、一斉に襲い掛かろうと脚に力を込める。

 <ウィザード・ウルフ>たちが互いに目配せをして、目の前で泰然と佇む二人に向かって飛びかかろうとした瞬間。



 巨狼たちは、目の前の二人が放った凄まじい殺気に圧倒されて棒立ちとなった。



 柊と雛が解き放った殺気は、十匹の巨狼たちの脚を地面に張りつけにし、身じろぎすることさえも許さなかった。

 巨狼たちは、先程まで獲物だと捉えていた眼前の二人が、自分たちを瞬時に狩り尽くす狩人にしか見えなくなっていた。

 巨狼たちが脂汗を浮かべて棒立ちになる中、柊は隣の雛が放った強大な殺気に驚嘆していた。

 彼女の放った殺気は極端に冷ややかで、自分に近づく者を一切の容赦なく殺すことを無言で告げていて、並の人間が放てるような代物では一切なかったのだ。

 雛、君は一体……。



「凄いじゃないか、君たち! 私のペットたちを殺気だけで圧倒するなんてさ」


「ふぇええ、あの人たち凄く強そうだよマリエッタちゃん……。 ねえ、帰ろうよ~」



 突如、隠し切れない程の喜色を滲ませた声を通りに響かせ、棒立ち状態の<ウィザード・ウルフ>たちの陰から柊たちの前に姿を現したのは、横になった杖をくわえた骸骨の紋章が描かれた黒いローブを纏った二人の少女だった。

 一人は栗色の髪をボブカットにした快活な笑みを浮かべる少女で、もう一人は栗色の髪の少女の陰からちょこんを顔を覗かせているウェーブのかかった金髪の少女だった。


「ガルザの奴に、広場に衛兵たちが入ってこないようにしろなんて言われたから、渋々その子たちを広場の周辺に放ってたんだけど、面白そうな奴らを見つけちゃった♡」


「で、でも、凄く強そうだよ、あの人たち。私たちで勝てるかな、マリエッタちゃん……」


「そうね、エマ。だから、まずは小手調べ」


 マリエッタと呼ばれた少女は、柊たちの前で立ち竦んでいる従僕たちに冷淡に命じた。


「その二人を殺しなさい。出来なければ、私があなたたちを殺すわよ」


 主である少女に命じられた巨狼たちは、その冷酷な命令に震え上がりそうになったが、眼前の二人を排除しなければ自分たちの命も消し飛ぶことを理解し、全身の震えを押し殺した勇気ある最初の一匹が刀を握っている少女に襲い掛かり、筋力強化の魔法を発動させて凄まじい膂力を帯びた巨腕を少女の鳩尾みぞおちに放った。一瞬で内臓を破裂させて絶命する少女の姿を想像して、勝利を確信した笑みを浮かべた巨狼だったが、



 長髪の女武者はその一撃を片手・・で難なく受け止めた。



 その光景に柊や黒ローブの少女たちは同時に、「「「……えっ?」」」と言葉を漏らして呆然となり、華奢な少女の細腕に渾身の一撃を止められた巨狼は、自分の拳を片手で掴んでいる少女を見つめたまま、恐怖の余り体が硬直してしまった。


「……おい、貴様。何だこの腑抜けた拳は?」


 雛は掴んでいる巨狼の腕を自分の方に引くと、腕を引かれたことで、顔を引き攣らせたまま引き寄せらた巨狼の鳩尾に掌底を放った。

 巨狼の体は少女の細腕が放った一発の掌底で一気に吹き飛び、背後に立っていたもう一匹の巨狼を巻き添えにして建物の中に突っ込んでいき、幾つかの内壁をぶち抜いてやっと停止した。壁の向こうには二匹の死骸が横たわっており、それを成したのが一人の少女の細腕だということに、この場に立つ者は戦慄した。

 誰もが言葉を失う中、マリエッタの背後に隠れているエマが雛を指差し、悲痛な叫びを上げた。


「こんな人の相手なんか出来る訳ないじゃないっ!? ガルザ君の馬鹿ぁああああああああああああああ!!」


 

 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!


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