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第15話 この想いは……

「……来ないわね」


「……来ないですね」


 アヤカとサーラは、フォートンの中心地に鎮座している、荘厳な外観の六階建ての図書館の前にある噴水広場に設置されたベンチに座って、はぐれてしまった柊と雛が来るのをひたすら待っていた。

 柊たちとはぐれてしまった後、アヤカたちは最初に京子に呼びかけてみたのだが、全く応答がなく、彼女がこちらを意味もなく無視するような人間ではないことから、恐らくは彼女の声を受け取ることが可能な範囲というものが存在し、自分たちがそのエリアから外れてしまったのだろうと考えた。

 闇雲に人が溢れ、複雑に入り組んだ通りで構築されているこの都市の中を探し回るのは得策ではないと考えたアヤカたちは、お互いにとって共通の目的地である図書館の前で待っていれば、柊たちもその内姿を現すだろうと楽観的に考えていた。しかし、アヤカたちが図書館に到着してからニ十分程経過しているのだが、彼らの姿は一向に視界の中に現れず、彼女たちは広場の片隅に置かれた木製のベンチに腰掛けて彼の到着を待っていた。

 特にアヤカは、柊たちとはぐれてしまってからは落ち着きがなく、時折立ち上がってはベンチの周りを歩き回ったり、腕を組んで唸っていたりしていることから、彼女がただ単に待ち人が来なくて苛立っているという訳ではないということをサーラは察していた。

 柊様が雛様と一緒なのが、不安なのですね……。

 自分がお仕えするこの主は、柊様たちが雑多で入り組んだ通りが張り巡らされているこの都市で迷子になっている可能性に対する危惧や不安は勿論感じているようだが、雛様が自分たちの目がないこの機会に柊様に対して過剰なスキンシップを行うのではないかという恐れを抱いているようだった。

 雛様は普段は泰然自若としていて、興味のない異性に色香を振りまくような軽薄な女性ではない。しかしながら、彼女は気に入った人間に対しては一気に打ち解けて、瞬く間に距離を近づけていく傾向がある。それでいて、相手の人間が本当に嫌がるようなことはしないように自重しているし、相手が話しかけてほしくないような空気を出している時は決して話しかけないようにする等、相手の気持ちを尊重することを絶対に怠らないので、彼女を嫌っている人間はほとんどいない。

 しかしそんな彼女は、新たに出来た異性の友人を大層気に入っているようであり、柊様と過ごされている時間はとても楽しそうな笑顔を浮かべおり、その姿を羨ましそうに見つめる主の横顔をよく見る機会も多かった。

 要するにこの主は、自分が気になっている男性を取られてしまうのではないかという不安と恐怖から、落ち着いてベンチに腰掛ける余裕もない程に焦っている最中なのだ。

 サーラとしては、京子様が柊様の中にいる以上、あちらは三人行動をしていることになるのだから、それ程一気に互いの距離が縮まるような心配はしなくても良いのではないかと思うのだが。


「ねえ、サーラ。あの二人、私たちのことなんて忘れて、デートを楽しんでるとかっていうオチはないわよね?」


 サーラは、眉根を寄せて若干やきもきとした感情を滲ませた主のそんな言葉に対して、「そんなことはないと思いますよ」と答えようとしたが、最近の雛様の柊様に対する好意的な態度から、


「そうかもしれませんね……はっ!?」


と、つい自分の懸念を口に出してしまった。

 慌てて主の顔を窺うと、主は顔を真っ赤に紅潮させて肩を怒らせており、その鬼気迫る表情を見た通行人が慌てて主の周りから早足で逃げて行った。


「……私もデートしたい」


「えっ、あの、アヤカ様?」


「だから、私も柊とデートしたい! 一緒にお洒落なお店でご飯食べたり、柊に選んでもらった服を着て一緒に歩いてみたい! 雛だけ独占するなんてズルいじゃない!」


「いや、あの、まだ雛様が柊様とデートをされていると決定した訳ではないですし、アヤカ様の早とちりという可能性も……」


「だって、最近の雛の態度から考えると、自慢の胸で柊を轟沈させようと誘惑している可能性だってあるわ! ここで安穏と待っていたら、何か手遅れになりそうな気もするし、捜しに行った方がいいのかな……?」


 サーラはそんな主の姿から、これは本当に柊様のことをお慕いしているのではないかという確信が持ててきたのを感じた。


「あの、アヤカ様は、柊様のことがお好きということでよろしいのでしょうか?」


「ふぇっ!? そ、そ、それは何というか、今まで異性を好きになったことなんてなかったから、好きって想いがどういうものかは分からないんだけれど……」


 そう言うと主は、両手を重ねるようにして自分の胸に押し当てた。


「柊のことを考えるとね、ここがキュンってなるの。彼が笑顔になっている時や、屋敷の庭で剣術の鍛錬に真剣に取り組んでいる時の鋭い双眸とかを眺めているとね、ここが温かくなるの。自分でもこの感情が何なのかは分からない。でも、彼が虹桜山で目覚めた私の姿を見てホッと安堵して、優しそうな笑顔で私の顔を覗きこんできてくれたときに、私の胸の中でそっと芽吹いた気がする。彼と過ごせば過ごす程、その芽がゆっくりと育っていくような感じがするんだけど、それがとても幸せでホッとするの。……ねえ、サーラ」


 主はそう言って言葉を区切り、静かに息を吸い込んで、


「私って柊が好きなのかな?」


「私は、そう思いますよ」


 サーラは自分の中に生まれた尊く、そしてとても温かい感情をどう扱っていいのか分からずに困惑しているのであろう主の前に立ち、口元を綻ばせながら、大切な主で、大切な友人である少女の双眸を優しく見つめた。


「アヤカ様の中にあるそのお気持ちはとても素晴らしいものです。その芽をどう育てていくのかはアヤカ様次第です。その芽のせいで時には辛くなる時や苦しむ時もあるかもしれません。ですが、アヤカ様が勇気を出されれば、柊様はあなた様の手を振り払うような真似をなさることはないでしょう。ですから、アヤカ様。柊様たちがここに到着して、図書館で女神様の穢れを払う方法や、女神様の穢れを払うのに必要不可欠な存在である大聖霊様の方々がお眠りになられている場所についての調べ物を終えた後に、柊様をデートに誘っちゃいましょう」


「えっ、で、でも、彼がOKしてくれるかなんて分からないし……」


「何を弱気なことをおっしゃっているのですか! アヤカ様は柊様とデートがしたいのでしょう。私がドレスからお店の予約まで、出来る範囲のことであれば、誠心誠意・粉骨砕身の心構えでバックアップ致しますので、大丈夫です。それに柊様は勇気を振り絞ってくれた女の子を泣かすような男性ではありませんから、きっと大丈夫ですよ!」


「ううっ、そ、そうかな? ……で、でも、とりあえず誘ってはみようかな……」


 サーラは頬を赤らめて顔を俯かせながらも、意中の男性とのデート風景を思い浮かべてニヤニヤが止まらない主の姿を微笑ましい笑みを浮かべて眺めながら、この辺りでお洒落な服を販売しているお店や、洒落た雰囲気のレストラン等はないものかと、広場に面した建物の中で営業している店舗の様子を見に行ってみようかと思案を始めたが……。



 突如アヤカたちのいる広場の地面から紅蓮の炎が噴水のように噴き出し、それを鋭敏に感じ取ると同時に、咄嗟に主を自分の胸に抱き締めたところで、サーラの意識はプツリと途切れた。

 


 最後まで読んで頂き、ありがとうございました!

 

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