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光闇の双剣  作者: 千秋 颯
一章 汚れた両手
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九、ギルド『精霊の艶笑』

 ――ギルド。

 おつかい染みた仕事から悪党の捕獲や魔物の討伐まで幅広い依頼を熟していく組織のことを言う。

 ギルドは数多く存在し、住人にも満たない小規模ギルドから世界中に名の知れ渡る大規模なものまで存在する。


 西聖界のギルド精霊の艶笑シープリット・オシーク

 その本拠地はアザテーウの湖の上にある。湖の上に浮かぶ人工的に作られた島に建つ大きな建物がそれだ。


 精霊の艶笑シープリット・オシークは西聖界で名の知れた大規模なギルドの一つであり、そこに所属している全員が戦闘に慣れている。

 東聖界のランスが精霊の艶笑シープリット・オシークの人達と出会ったのは本当に偶然であったけれど彼らはランスが東聖界の人間だと知っても優しく接してくれた。

 当時の彼にとってはそこが家のように思えたものだ。


 ……だから、怪我人相手に容赦なく首を絞めつけるという行為もきっと愛情表現の一つなのだろう。


「ぐっ、息できないからっ……」


 顔を赤くしながら自分の首を絞める後ろの人影にランスは声をかけた。

 おろおろとしているフィアナの隣でソニアが「いつものことだから」と呆れながら笑っている。

 ランスがもがきだしたところでようやく手が首から離れた。

 解放された彼はせき込みながら後ろを振り返る。


「ラオ……」

「ははっ、すまんすまん。久しぶりにお前の顔見たから嬉しくなってさ」


 悪びれもなさそうに大柄な男が赤茶の短髪を掻きながら謝罪する。

 死んでしまったらどうしてくれるんだ、と小言でも言ってやろうと思っていたランスであったが、ラオの笑顔を見ているうちにそんな気持ちはしぼんでいってしまった。

 同じようなやり取りをしても、彼のこの顔を見ると不思議と許せてしまえる気になってしまうのだから不思議である。


「あーあ。お前タイミング悪かったなぁ。つい昨日、ギルドの連中のほとんどが出発しちまったんだよ」

「そもそもここによる予定はなかったんだよね……。でも残念だなぁ」

 残念そうな表情のランスにラオが言葉を付け加える。


「迷宮散策だからなぁ。まあ一か月後には帰ってくるんじゃないか?」

「迷宮? どこの?」

「『剣聖』だな」


 世界に存在する四つの『迷宮』と呼ばれる場所。

 聖界と魔界の境界線を中心として最北端、最東端、最西端、最南端にあるそれは戦闘能力に自信のある者たちがその実力を確かめに行く場所。


 迷宮は挑戦者が最下層を目指して奥へ進んでいくのだが、迷宮は魔物の住処だ。

 更にその数は最下層に近づくにつれて増え、狂暴なものが多くなる。

 そこで挑戦者が命を落とすのなど珍しくはない。

 けれど精霊の艶笑シープリット・オシークのメンバーならばそこを抜けることはできるはずだ。


 問題はその後、最下層。

 最下層で待ち構えている存在はどの迷宮も共通している。


 一人の超人。


 己の得意とする戦い方で世界一とまで呼ばれ続ける彼らは四天王と呼ばれ、それぞれ『剣聖』、『舞姫』、『聖女』、『賢者』に長けている者と言われている。

 四人の存在は人類最強と呼ばれ、彼らとの戦闘に勝利することだけを目標として挑戦者は迷宮へ挑むのだ。


「まあ、数百人単位で向かったとしても四天王には勝てねえよ。ありゃ化け物だ」


 何度も四天王の『剣聖』に戦いを挑み、その度に敗戦記録だけを増やしているラオが苦笑する。

 精霊の艶笑シープリット・オシークの中でも主要戦力として活躍しているラオで勝てない者など四天王くらいだろう。

 ランスはラオと実際に手合わせしたことはないが、恐らく実力の差はやや彼に劣っていると読んでいる。

 つまりラオがぼろ負けした相手ならば自分より格上の存在ということになる。

 迷宮へ行く気など、彼には毛頭ないが。


「じゃあ、相談できるのはソニアさんとラオくらいってことかな……」

「ん? なんか聞きたいことでもあるのか?」

「ちょっとね……」


 はぐらかしつつランスはフィアナの方へ視線を向ける。

 彼女には聞かれたくない内容の話なのだろう。


「私、外に居ようか?」

「い、いやいや。フィアナが外に出てる間に何か起こるかもしれないしさ……」

「そういうことなら、二階の方に空き部屋がいくつかあるからそこで休憩しててもらえばいいんじゃない?」


 ソニアの提案に頷いてからフィアナは心配そうに眉を顰める。

 恐らく、自分が使ってもよいのかといった類の心配をしているのだろう。

 それを察したソニアは困ったように肩を竦めながら笑う。


「怪我が完治するまでこの子を野放しにするつもりはないから、しばらくはそこ使うといいよ。ランスは目を離すとすぐに姿消すからねぇ」

「あー、ギルドの中も懐かしいなあー」


 疑わし気な目を向けられたランスはそれから目線を逸らすことしかできなかった。


*****


 ソニアはフィアナを連れて二階へと姿を消した。

 その背中を見送った後、ラオとランスはギルドのカウンターのそばにあったテーブルに腰かけて他愛もない話をしていた。


「それでソニアの奴、拳で俺の鼻の骨折りやがったんだぜ。おっかねえよあいつ」

「相変わらずだなぁ」


 周囲には数人しかおらず、彼らは掲示板に貼りつけられた依頼の紙を見たり武器を磨いたりしているのに忙しくて二人の方を気にした様子はない。

 話を止め、それを確認してからラオは声を潜めた。


「で? お前は随分面倒なことを持ち込んだ様じゃねえか」

「うん……ちょっとね」

「お前の職業柄、面倒なことばかりだとは思うが今回はそれらよりもずっと危険で面倒な臭いがする。お前がそんなに負傷してるのを見るのも久しぶりだしな」


 彼の表情、声音は真剣味を帯びている。

 先ほどまでの明るい雰囲気は既にどこかへ消え去っていた。

 その場その場できちんと姿勢を切り替えられるのはラオの長所の一つであり、ランスはそれに何度も助けられた。


 どれだけ重々しい話を持ち込もうとしていても、話しやすい空気を作ってくれる。だから自分も責任をもって話さなくてはと思える。

 そのことにランスは心の中で感謝した。



 数分後、ソニアが戻ってきたところでランスはフィアナと出会った過程や霊亀、自分を狙う敵についての話や情報収集を始めた。

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