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光闇の双剣  作者: 千秋 颯
一章 汚れた両手
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三十一、魔晶石

 パキン、という音がして粉砕した赤い水晶。

 それと同時に禍々しい魔力は消え去り、オドリを囲んでいた鎖も消える。


「おれ……は……」


 小さく呟いた後、オドリはその場に倒れ込んだ。

 起き上がってくる気配はない。

 セルは剣を納めるとその場に片膝をついた。


「セル!」


 遠くから見守っていたランスとフィアナがセルの元へ駆け寄ってくる。

 ランスはセルの傷口へ触れて治癒(ラフト・ハーニル)を使う。


「闇魔法も使えて光魔法も使えるのか。天才か」

「そんな大げさな……。光魔法の方は対して使えないよ」

「なあ、ランス」

「ん?」


 セルは床に倒れているオドリに目を向けた。

 彼の両手や横腹の傷は痛々しいものであった。

 先ほどの様子を見てしまえば、放っておくこともできなかった。


「俺はそこまで大きな怪我してねえし、応急処置で十分だから……こいつにも使ってやってくんねえかな」

「……そうだね」


 ランスは理由を聞くこともなく治癒(ラフト・ハーニル)をオドリにも使う。

 魔力を消費しながら考えていたのは先ほどの現象。

 セルも同じことを考えていたのだろう。

 涙を流したまま眠っている少年の姿を見下ろしながら呟いた。


「あのピアス……すっげえ嫌な感じがした。あれが光り出したとき、いきなり様子も変わったし」

「……あくまで僕の推測なんだけど」


 床に散らばる石の破片をランスはつまみ上げる。

 粉砕してもおなおその破片は自ら光を放っていた。

 水晶から溢れ出ていた魔力とオドリの様子を思い出して、ランスは一つだけ思い当たる節があった。


「これは魔晶石の一種だったんじゃないかな」

「魔晶石……?」



 自らが魔力を保持する石のことを魔晶石という。

 魔晶石は自然の元で作られたものと人工的に作られたものの二つに大きく分かれる。

 天然物は大気中のマナを吸収して魔法に変換させ、それをため込むという仕組み。

 人工物は誰かの魔法を石の中に入れ込んでそれをため込むというもの。

 そしてランスが考えるに、オドリについていたこれが魔晶石だとするのであれば。


「これは人工的に作られたものだと思う。多分魔晶石の中の魔力がつきるまで魔法を放ち続ける仕組みか何かだったんじゃないかな」

「そんな仕組み聞いたことねえぞ……何でそう思ったんだ?」

「僕自身も聞いたことはない。けど魔晶石の製造法を応用すれば無理な話ではない。……それに、これは」

「これは?」


 顔をしかめたランスの様子を窺いながらセルは言葉の続きを待つ。


 ――思い違いかもしれない。


 そんな考えをランスは自分自身で否定した。

 魔法属性について自分が一番理解しているのは適属性についてなのだから。


「あのピアスから溢れていた魔力の気配は、闇魔法の物だった」

「魔法の属性が何か関係あるのか?」

「闇魔法がなんで嫌われてるのか知ってる?」

「ん? 闇魔法ってすごい魔法なんじゃねえの? 嫌われてんの?」


 きょとんとするセルの反応にランスは思わず苦笑する。

 セルは噂や周囲の評価になど興味がないのかもしれない。

 代わりにフィアナが遠慮がちに呟く。


「……魔王が好んで使っているから」

「それが大きな理由。けど、それだけじゃない」


 何故、魔王が好んで使うのか。

 その根本的な理由も闇魔法が嫌われている原因に直結する。


「闇魔法は多種多様な生き物を操作できるんだ」

「……」

「操作って、屍術師(ネクロマンサー)が死体を操るのと同じ感じか?」


 屍術師(ネクロマンサー)

 生き物の死骸や人間の死体を思うがままに操る存在。

 存在は確かにしていると聞くがその姿を見たという証言は少なく、人なのか魔物なのかもわからない。


「同じ様な感じだね。ただ、闇魔法は人の内面を操作できる。相手の動き、思考、記憶……。そのほとんどは相手を内側から壊す」

「内側から、壊す……」

「おそらく魔王が闇魔法を好むって言う話も、魔王が魔物を操れるところから来ているんだと思う」

「つまりその類がその石に含まれていた可能性があるってことか」


 ランスはセルの言葉に頷く。

 本人の目が覚めないことには確認のしようもないが、オドリの目が覚めればもう少し多くの情報を手に入れることができるかも知れない。


 が、しかし。


「……応急処置もできたし、壁へ向かおっか」

「いいのか? こいつの目が覚めるのを待たなくても」

「気にはなるけど、それよりも大きな問題がまだ残ってる」

「大きな問題……?」

「とりあえずここから出ようか」


 ランスはフィアナの手を取って立ち上がる。

 首を傾けていたセルであったが彼もまた二人にあわせて立ち上がった。


「ここに置いとくわけにもいかねえだろ」


 やがて騒ぎになるだろうこの場にオドリを置いておけばウェールズの命を奪いかけた彼は何かしらの処罰を受けるはずだ。

 そして闇魔法の話を聞いたセルは放って置くわけにもいかないと考えた。


 彼はオドリを担ぐとランスとフィアナに目を合わせる。

 二人としても彼の考えには共感できた。

 頷きあった後、三人は颯爽とその場を後にした。


*****


 脱出に関しては廊下を出たときに闇魔法を使ったことにより、見張りに気づかれることはなかった。

 その後すぐに窓から浮遊魔法(イウン・リヴォモール)を行使して脱出できたため、姿を消したまま屋敷を出ることもできた。


 アザテーウに到着したところで着地した三人。


「俺、今日までここにいるつもりだったから宿借りたままだし、こいつ運んでくるわ」

「了解」

「あんまり目立つなよ」

「わかってるって」


 再び飛び立ったセルを見送ってから二人は道の脇に寄った。

 日は完全に暮れ、出歩く者も少なくなってきた。


「ランス、あの男の子は……?」

「命の恩人かな。フィアナを追いかけに出たところで出会ってね」

「ご、ごめん……」

「そ、そういうことが言いたいわけじゃないんだ」


 慌てて否定したランスと項垂れるフィアナの間に微妙な間ができる。

 それを気まずく思ったランスは何か話題を見つけようとしたところで彼女に話しておかなければならないことを思い出した。


「フィアナ」

「な、なに……?」

「――君の力を貸してほしいんだ」

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