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光闇の双剣  作者: 千秋 颯
一章 汚れた両手
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二十九、帰ろっか

 セルはランスとウェールズ、フィアナを順にみると再びランスへ視線を戻した。


「あいつは俺が引き受けるから、ランスはあの子のとこ行ってあげな」

「でも相手の適属性は……」

「火、だろ。今の様子見ればさすがにわかるさ。確かに風は不利かもしんねえけどそこんとこは何とかしてみる」

「……わかった」


 本音を言えば少しでも早くフィアナの元へ飛んでいきたかった。

 それにセルの実力は先ほどの登場ですでに目にしている。

 相性が悪くとも一方的な戦いになることはないだろう。

 フィアナの安全を確認した後自分が参戦するまでの時間は稼いでくれるはずだ。

 そう考えたランスは頷く。

 

 一方ウェールズはというと先ほどの矢に相当な恐怖を抱いたのか失神していた。

 大人しくしていてくれればランスとしても都合がよい。


 ランスは氷の剣を消滅させて、動かないウェールズの上着を漁りだす。

 するとポケットの中から鍵束が出てきた。

 それを手に持った時、離れたところから笑い声が響く。


「はははっ……まさか味方を増やしてくるなんてな」

「しっかしまあ、お前は相当な化け物だなあ」

「あの矢を全部消しといて何言ってんだか」


 互いに口角を上げて笑い合う二人。

 オドリは両手に炎の剣を持ち、セルは腰を低く落として剣を構える。

 相手の様子を窺っていた二人であったが地面を蹴ったのはほぼ同時であった。

 ランスはセルを見送ってからフィアナの元へ走る。


「フィアナ!」

「ランス……」


 ランスはフィアナの前に座り込むと優しく彼女の頬に触れた。

 腫れて出血している頬は熱を持っていた。

 すかさず彼はフィアナに魔法をかける。


治癒(ラフト・ハーニル)


 暖かさを持つ光が彼女の頬を中心にして広がっていく。

 フィアナの怪我は徐々に傷口を塞ぎ、腫れも引いていった。

 しかしランスの力ではそこが限界である。

 痛々しい痣を所々に残したまま光は消えてしまう。


「ごめん……僕の実力じゃ、ここが限界なんだ」


 目を伏せたランス。

 フィアナは黙って首を横に振った。


 それから二人の間にしばらくの沈黙が訪れる。

 少しして、フィアナは恐る恐る口を開いた。


「ランス……どうしてここに? 怪我は大丈夫なの?」

「怪我は矢が掠っただけだからね。毒も今は抜けてる」


 どこかよそよそしい会話をしながらランスはポケットに手を入れる。

 そして視線を泳がせていたフィアナに手を伸ばした。


「約束したからね。……それに、これも渡したかったし」


 ランスはフィアナの手を握り、そこにバレッタを乗せる。

 フィアナは驚いてそれを見つめ、顔を上げた。


「フィアナにって思ってアザテーウで買ったんだけどさ、こんなのずっと僕が持ってたら変でしょ? そういう趣味の人だって思われるのはちょっとね」


 冗談めかしに笑うランスの目から涙が溢れる。

 それは頬を伝い、床を濡らした。

 フィアナが呆気にとられる中ランスは彼女を左手で抱き寄せた。


 ――心のどこかで力に驕れていた自分がいた。


 自分の才能で自分の弱さを誤魔化そうとした自分がいたのだ。

 それこそが自分の弱さであるということにも気付かずに。


 守る側にいるはずの自分が何度も守り切れず、感情的になってしまった。

 そしてその結果が、フィアナを苦しめることとなってしまったのだ。

 ランスは嗚咽混じりに声を出した。


「ごめん、フィアナ……。僕が弱かったせいで」

「ランス……」


 すすり泣くランスの温もりを感じながらフィアナは首を横に振る。

 これ以上ランス達の足を引っ張るのが嫌で、せめてこれ以上被害を広めないようにと思って彼らから離れた。

 しかし結局それが間違っていたのかもしれない。


「私……ランスの迷惑にしかなってなかった。魔法も上手く使えないし、運動もあまり得意じゃない。ランスに怪我ばっかさせて、怒らせて……ただの邪魔者だって思った」

「……うん」


 ぽつり、ぽつりと話し出すフィアナ。

 ランスは小さく相槌を打つ。


「エリスの時もランスの時も……周りを傷つけてばっかりで。だったらもう終わりにした方がいいって、自分から捕まった」

「……」

「結局それも自己満足だったんだね」


 涙を流すランスの胸の中でフィアナもまた、涙した。

 すれ違ってばっかりで、自分勝手に動いて。

 それでも迎えに来てくれたランスの優しさが嬉しかった。


「ごめん、なさ……」


 擦れた声が漏れる。

 先ほどまで封じていた感情が溢れだす。

 知らない場所で、何度も殴られて。

 怖くないと自分に思わせ続けていた。


 けれど、怖くないわけがなかった。


「怖かった……怖かったよぉ」


 自然と漏れた言葉。

 ただ気を張っていただけなのだとその時になってフィアナはやっと気づいた。


「うん。僕も……怖かった」


 ランスはフィアナから手を離すと鍵束についている一本の鍵を彼女の手枷の鍵穴に差し込んだ。

 それは偶然にも手枷の鍵であったようで。

 確かな手ごたえと共に枷が床に落ちた。


「――帰ろっか、フィアナ」

「うん……」


 差し出された手を握ろうとしたフィアナは一度動きを止める。

 そして手に握られていたバレッタを髪につけると今度こそその手を取った。

 桃色の髪に白いリボンはよく似合っていた。


 立ち上がった二人は交戦中のオドリとセルの様子を窺った。


 ――そしてその戦いは予想外の終わりを迎える。

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