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光闇の双剣  作者: 千秋 颯
一章 汚れた両手
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二十六、照れ隠し

 闇魔法。

 基本的に攻撃系より補助や弱体系の多い属性。

 光魔法とは真逆の効果をもたらすものが多く、同じ強度の光魔法と闇魔法がぶつかり合えば互いに消滅する。


 闇魔法は魔王が好んで使っていたものとして忌み嫌われ続けてきた。

 実際ランスもこの魔法を使うのを避け続け、早二年が経っていた。

 セルは意外そうに肩眉を上げる。


「お前、闇魔法使えるのか?」

「まあ……僕の適属性は闇だからね」


 自嘲するランス。

 隠していても闇魔法を使えばいずれバレてしまうことだ。

 そう思って告げた言葉に。

 彼の様子を見たセルは感嘆のため息を漏らした。


「すげえな」

「……え?」

「だってよ、適属性が闇って相当珍しいって聞いてるぞ。しかも難しいって。つまりそれって超レアってことじゃん。すげえよ!」


 目を輝かせてランスの右手を凝視するセル。

 予想外の反応にランスは不意を突かれて目の前の少年を見つめた。

 適属性に関しては、全くいい思い出がなかった。


「……君は変な人だね」

「ん?」

「いや、何でもないよ」


「――おい、誰かいるのか」


 その時、後ろから足音が二人に近づいた。

 気恥ずかしさのようなものを覚えたランスであったがその足音で我に返る。

 ランスは左手をセルの肩に乗せて唱えた。


姿消す闇(ダナス・エローフ)


 刹那、右手の闇が膨張して二人の身体を包み込んだ。

 視界は少し悪くなるが、目が慣れれば移動できないほどではない。


「薄い闇の膜で僕らの身体を覆った。多少なら声を出してもバレないし、外から見れば僕らはいないように見える」

「へえ、すっげえな……。闇魔法とか初めてだ」

「ただし、なるべく魔力を温存しておきたいから節約してる。少しずつ効果が切れるからそれまでの間にフィアナの場所までたどり着こう」

「了解」


 ランスは屋敷の入り口を見据えた。

 それは口元が緩んでしまったのをセルに見られまいとする彼なりの照れ隠しであった。


「セル」

「ん?」

「ありがとう」


 アザテーウのことについてもあるが、それだけではない。

 ランスは純粋に自分の魔法を受け入れてくれたことがうれしかったのだ。

 だが礼を述べたものの、恥ずかしくなった彼はセルを置いて先に走り出した。


*****


 誰も入り口に注意を向けていないことを確認してからランスは重い扉に少しだけ手をかける。

 鍵はかかっておらず、扉はゆっくりと開いた。

 ギリギリ人が入り込めるスペースを作り、後ろへ視線を移す。

 すると追い付いたセルがランスの肩に手を乗せた。


「ん、どうかした?」

「いや、お前見えなくなったからさ」

「なるほど。そういえば触ってない間は互いに姿を見ることもできなかったな」

「先に言ってくれよ……」


 触れている間は姿も見えるし声も聞こえる。

 しかし離れれば姿も見えなくなるし声も聞こえなくなる。

 自分自身闇魔法を使うのが久しぶりだったため忘れていたのだ。


「困ったな……手でもつなぐ?」

「この年で男と手を繋いで歩いてもなぁ」

「それは思うけどね」

「まあ、大体ならお前の位置も分かるし」


 見えない状況でもランスを見つけたということからしても、恐らくセルは人の気配を察知する能力が高いのだろう。

 それはつまり戦闘慣れしていると考えられる。


「それは頼もしいね」

「逆に言うとわかるやつにはわかるってことだよな、俺らの潜入」

「……そうだね。あと、離れてるとセルの魔法の効果が切れやすくなるからなるべく足音立てずに早く進もう」

「りょーかい」


 結界魔法を貼れる人材を集められなかったウェールズに彼らの潜入を悟ることのできる者などいないとは思うが。

 などと考えながらもオドリの存在を思い出したランスはため息を吐いた。


「……あり得るな」

「ん?」

「いや。行こう」


 今度こそ屋敷の中に入り込んだランスは広い玄関の正面にある階段を一段とばしに駆け上がり、左へ曲がる。

 ウェールズの屋敷には数は少ないが地下牢がある。

 恐らくはそこにフィアナがいるはずだ。

 そしてその地下へ向かうためには書斎の近くまで向かわなくてはならなかった。


 書斎は三階の一番東側。

 廊下の終わりに隠し階段がある。

 そこの見張りだけならば騒ぎを起こすこともなく大人しくさせることもできる。


 所々駄弁っている兵の横を通り過ぎながら後ろを追ってくる気配を確認する。

 このまま難なく地下までたどり着ければ魔力に余裕もできるはずだ。

 そう思った時。


「やっべ」


 セルの声が聞こえた。

 後ろを振り返ると自分の両手を見て立ち止まるセルの姿があった。

 ランスが姿を確認できるということはつまり、魔法が解けたということだ。

 予想よりも早すぎる魔法解除に焦りながらセルのもとまで戻ろうとするが、それよりも先に気付いた見張りが走ってくる。


「おい、待て!」


 数は二人だったがそのうち一人が笛を鳴らし、その数はどんどん増えていく。

 騒ぎになればオドリも現れるかもしれない。

 かといってセルに闇魔法を再使用したところで騒ぎは収まらないだろう。


「先に行け!」


 セルは走ってくる相手を見据えて腰に付けた二本の剣の内一本を抜いた。

 廊下のような狭い空間であればいくら数が増えても勝率はある。

 セルの実力がどれくらいかはわからないが、セルも考えなしに動いているわけではないだろう。

 恐らく腕に自信がある故の発言だ。

 ならば任せた方がいいかもしれない。


 しかし地下に一人で侵入した結果オドリがいた場合を考えると味方は欲しかった。

 また何か仕掛けてこない保障はないのだから。

 迷っているとセルはランスのいるである方を見て余裕の滲んだ笑みを見せた。


「三十秒で倒して三十秒で追いつく」


 宣言するや否や見張りへ向かって走り出したセル。

 不幸中の幸いか、地下までの距離はそこまでない。

 騒ぎになった後、フィアナを連れて移動させられては意味がなくなってしまう。

 迷っている暇はなかった。


「……わかった」


 ランスは小さく頷くと書斎へ向かって走り出した。

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