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光闇の双剣  作者: 千秋 颯
一章 汚れた両手
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二十三、新たな仲間

 自分の連れがウェールズ家に捕らえられてしまったというところまで、そして自分が出す取引の題材をランスが言い終えたところで少年は頷いた。


「りょーかい。俺そーゆーの嫌いじゃないしな。……問題はお前の体調なんだけど」

「あはは……追っ手の矢に毒が盛ってあったみたいで」

「毒? なんだ、弱っちそうだったから風邪でも引いたのかと思ってたわ」

「弱っちそうって……」

「さっき来るときも全然重さ感じなかったしよぉ。とりま、症状言ってみ」


 自分の肩にかけていた革袋からいくつもの小瓶を出していく少年。

 唐突に症状を言えと言われて戸惑いながらもランスは自分の症状について挙げていく。


「とりあえず熱」

「それはさっき確認したわ。それ以外」

「頭痛、吐き気」

「それだけじゃわかんねえなぁ」


 床に並べた小瓶を整理しながら困ったように少年が肩を竦めた。

 その様子からするにその小瓶の中身は薬の代わりになる何かなのだろう。

 自分の症状にあったものがあるのかはわからないが、あるならば実にありがたい。

 しかしもはや自分の体調の悪さは毒のせいなのか、毒によって引き起こされた熱のせいなのかもわからないのだ。


「そんなこと言われてもなあ」

「仕方ねえな……矢が当たったとこ見せて」

「わかった」


 寝てる間にソニアが手当てしてくれたのだろう。

 丁寧にまかれた左肩の包帯を取って、傷口を少年に見せる。

 すると少年は深く息を吐いた。


「お前なあ……」

「え、膿んでたりでもし……」


 不安になってきたランスは肩の傷へ目をやる。

 そこには切り傷があった。

 切り傷事態に問題はなかった。


 だが、問題は大ありだった。


 問題あったのはその周囲。

 傷の周囲の血管が紫色に浮かび上がっていたことである。


「え、なにこれ! なにこれ!?」

「落ち着け。これはバイパーの牙だ」

「バイパー……って、あの大きな蛇?」


 蛇の魔物の一種であり、大きさは二メートルほどのものもいる。

 毒を持っていることは知っていたが傷口の周囲が変色するようなものだということをランスは知らなかった。

 それは遭遇しても相手に噛まれる前にこちらが倒していたからなのだが。


「そうそう。たまにだけど武器に使われたりもするやつな。それこそ牙の先っぽを矢にするとか」

「へえ……」

「へえ、じゃねえ!」


 赤い木の実の入った小瓶を床から拾い上げながら少年は声を荒げた。

 呆れながらランスにその小瓶を握らせる。


「バイパーの毒はな、簡単に人を殺すんだぞ! むしろ症状がそんだけなのが奇跡だっつーの」

「死……」

「とりあえずその瓶の中に入ってるやつがバイパーの毒を消してくれる木の実な」


 衝撃の事実にランスは顔を青くする。

 この少年に出会っていなかったら一体自分はどうなっていたのだろう。

 身震いを一つしてから小瓶を開けて掌に木の実を乗せた。


「バイパーの毒は発熱と魔力減少の効果があって、噛まれて死ぬ奴は魔力が尽きての死亡がほとんどなんだ」

「……魔力減少?」

「ん。だからお前魔法ろくに使えないと思うぜ」

「なるほど。だから魔法が使えなかったのか」


 人の脳や心臓などの臓器は一部魔力によって動かされている。

 血液と同じように様々な器官を廻る魔力がすべて尽きた時、臓器は働くのをやめる。

 それが『魔力減少による衰弱死』である。

 本来ならば走りつかれたとき体が衰弱してしまわぬ様体力を使い果たす前に足が止まる。


 魔力もそれと同じような仕組みで生きるために必要最低限の魔力量まで魔力が減少した時、魔法は使えなくなる。

 それが『魔力切れ』と呼ばれる状態。

 しかし毒の場合は魔力切れしてもなお魔力を減らしてしまうため、魔力減少による衰弱死というものが起こる、という仕組みなのだろう。

 ランスがソニアに魔法を使った時のあの症状はそのためだったのかもしれない。


「まあ、放っておいたら死んでたってこと。ちなみにその傷受けたのいつ?」

「えっと、半日前って聞いたかな」

「半日…………?」


 少年は面食らった顔でランスを見た。

 魔力の量に少々自信のあるランスは彼が言いたそうにしていることをなんとなく予想して苦笑いする。


「僕魔力は多い方だから」

「ああ、そう……」

「問題はもう一人の方かな」


 ランスはラオ頬のことを思い出す。

 彼の頬も手当されておりどうなっているかはわからなかったが、おそらく同じような状態のはずだ。

 更にラオはランスよりも魔力の量が少ない。

 しかしこの実があれば助かるのなら……


 ――一度、戻るか。


 一瞬、そんな考えが浮かんだ。

 しかしすぐにその考えをランスは打ち消した。


「まさか、連れの方も?」

「いや。ごめん、何でもないよ」


 ギルドから抜け出すとき、ラオは言ったのだ。

 『約束は守る』と。

 ならば自分もギルドを抜け出した目的を忘れてはならない。


「これ、ありがとう」

「おう」


 ランスは小瓶を少年に返した。

 少年はそれを革袋に詰めるとランスへ手を差し出す。

 彼の手は思ったよりも大きくて豆ででこぼことしていた。


「そういえば、まだ名前も言ってなかったな。俺はセル。お前のことは何て呼べばいい?」

「僕はランス。よろしく、セル」


 ランスは差し出された手を己の右手で握る。

 セルはそのままランスを引っ張り上げた。


「よろしくな、ランス」

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