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光闇の双剣  作者: 千秋 颯
一章 汚れた両手
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二十二、協力者

 ランスは重い頭をなんとか持ち上げた。

 四人の前に少年が一人立っている。

 兵三人の視線が少年へ集中した。


 しかしランスは金色の髪に緑色の瞳という彼の容姿に記憶がなかった。

 よって『自分の連れ』というのは彼のはったりということになる。

 何が目的でそんなはったりをかますのかはわからないが上手くいけば隙を突いて逃げられるかもしれない。


「お前の連れってことは……お前も侵入者か?」

「へ? 侵入者? おたくらが探してるのってピンクい髪の女の子と銀髪の男子だろ?」

「ああ。そいつらが侵入者なんだ」

「だからぁ、そいつ確かに銀髪だけどそいつらじゃないんだって!」


 一人の見張りと言い争いを始める少年。

 少年の勢いに見張りはやや押されつつあった。


「そもそも銀髪ってだけで捕まえるなよな! こんなひょろひょろが壁越えられるかっつー話だよ。ただでさえ風邪引いてこいつ大変なんだからさ、証拠がないんだったら解放してくれる?」

「だが……西側に銀髪は」

「んなこと言ったら西側は銀髪全員狩らなきゃなんなくなるぞ。証拠もないのに適当にそれっぽい病人ひっ捕らえて自分の手柄にしたいだけじゃねえの?」

「そ、そんなことは」

「周り見てみろよ」


 通行人は足を止め、五人の様子を窺っていた。

 頭が真っ白で気が付かなかったが周囲の視線は冷たいものであった。

 はたから見れば弱った子供を引きずろうとしている大人たちに見えていることだろう。


「す、すまなかった……」

「ったく、もう少しまともな証拠でもないと侵入者捕まえらんねえぜ?」


 見張り兵の中にランスの顔を見た者がいなかったことやその視線のおかげか。

 三人は言葉を詰まらせると一言ランスに残してその場を去って行った。

 少年はそれを見送ってからランスの肩を担ぐ。


「お前もなあ、そんなフラフラな状態で出歩くんじゃねえよ」

「え、えっと……?」


 もしや、本当に誰かと間違えているのでは。

 そんな不安が頭に過る。

 しかし状況が掴めないランスに少年は片目を閉じて笑って見せた。

 その口が僅かに動く。


「とりあえずこっから離れた方がいいだろ?」


 どうやら彼が人違いをしているという線はなさそうだ。

 ここで見知らぬ者に甘えるなど普段なら決してしないが、年が近かったことやどこかで一度落ち着きたいという気持ちが強く出たランスは小さく頷いた。

 自分が注目されているのを感じながら二人はその場を去った。


*****


 少年に案内されたのは小さな宿屋の一部屋であった。

 ベッドにランスを座らせると少年はランスの額に触れて苦笑した。


「お前その怪我で、しかもこんだけ熱あってよく動けたなあ」

「とりあえず、助けてくれてありがとう」

「別にいいってことよ。ちょうどお前らのこと探してたしさ」

「僕ら……?」

「さっきの見張り兵が探してた二人組の片割れで間違いないんだろ?


 ランスは少し身構える。

 先ほどの見張り兵とのやり取りを見てもランスとフィアナのことは知っているはずだ。

 ならば自分の手柄にして西の王都へ突き出そうと考えていてもおかしくはない。

 だが少年はその反応を見てにやりと笑う。


「捕まえるとかそういう目的じゃないから安心しろよな。ところで、もう一人連れは?」

「今はほかの場所にいる」


 自分の情報ならまだしも、フィアナの情報を話してしまうのはなるべく避けたい。

 一度は助けられ、ランスらの捕獲が目的でないことはわかったが、少年の目的が分からない今無駄に情報を漏洩するのはよくないと考えたのだ。

 少年は顎に手を当てて少し唸ってから笑みを消す。


「取引、しないか?」

「と、取引?」

「そう。俺はどうしてもやらなきゃなんないことがある。……それを手伝って欲しいんだ。その代わりに俺も一つ、お前の言うことを聞く」

「……どういうこと?」

「単純な話さ。強い奴が欲しいんだ」


 取引にしてはその内容が曖昧だ。

 何より具体性に欠けている。

 先ほど助けられたのを考慮しても信用するのには値しない。


「信用できないって顔だな」

「……悪いけどね」

「前払いでいい。……駄目か?」

「先に君の目的の方を教えてほしい。戦力が欲しいのは僕も同じなんだ」


 魔法が使えず、ろくに動けない。

 一人ではフィアナを助けるどころか先ほどのように見張り三人すら蹴散らすこともできないのだ。

 ランスとしては彼が信用できる何かを提示してくれれば即座に助けを求めたい状況であった。


「なるほどな。それもそうか」

 

 少年は頷くと息を吸う。

 彼の顔に緊張が走る。

 強張った顔で少年は己の目的を口にした。


「俺は――――」


 ランスはその後続いた言葉に目を見開いた。

 他の者が同じことを言ったのならば、彼は冗談かと疑っただろう。

 しかし彼の前にそれは愚問だった。


 揺るぐことなき決意を、ランスは彼の瞳に見たのだ。

 思わず笑いが零れる。


「なるほどね、それは予想外だ」

「どうだ?」

「一つだけ条件を呑んでくれるなら」

「うわっ!?」


 難しい顔をしていた少年はそれを聞いた途端目を輝かせてランスの手を握った。

 その勢いに思わずランスは体を仰け反らせる。


「本当か!? 条件ってなんだ?」

「それを手伝うのは僕だけ。連れを同行させることはできない」

「……そうか。わかった、呑もう」


 壁を渡ってきた強者が二人増えると思っていたであろう少年としては少し残念だったろうが、ランスはフィアナを連れ戻して一刻も早く屋敷へ送り返したかった。

 ランスは特に目的もなく旅をしてきたが、フィアナには家に帰るという目的があるのだ。

 よってそれだけは譲れなかった。


「でも、そうなるとお前、連れとはここで別れるってことか?」

「いや。そもそも彼女はもうここにはいない」

「アザテーウにはいないってことか……?」

「そうだよ。……僕もそれ関係で君に手伝って欲しいことがあってね」


 ランスは大まかに自分の目的を話し始めた。

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