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光闇の双剣  作者: 千秋 颯
一章 汚れた両手
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十二、夢

 光の壁が粉砕し、輝きを失いながら消えていく。


「なっ……!?」


 予想外の出来事にランスは声を漏らす。

 水は三人の全身を濡らすと同時にその軌道を変えた。

 それが三人を包み込んだとき、縮小して彼らの身体を覆う。


「うわわわっ」


 水の固まりはゼリーのように彼らへまとわりつき、圧迫させていく。

 三人まとまって圧迫され、水の中にいるように呼吸が困難になる。

 空気の抜けた風船に閉じこめられたかのような水の中でランスはフィアナに指示を出した。


「フィアナっ……魔法、解除して……」


 しかし彼の声が彼女に聞こえた様子はない。

 苦しげに顔を歪める二人を見ながらランスは魔法を一つ行使した。


 ――火属性上級魔法爆散する炎(フルメ・エクスポース)


 三人を圧迫させていく水の風船の中央に炎が生成され、それは光を放つと水を巻き込んで爆発した。

 水は一瞬で蒸発し、あたりに火の粉が飛び散る。

 窒息状態から解放されたランスは橋の上へ膝を突くとせき込んだ。


「げほっ、ごほ……これは予想外だったよ」


 上級魔法を使われたあげく予想外の出力で魔力を消費され、強大な魔法を使われるとは思っていなかったのだ。

 けれど、フィアナの体質に関しては大方理解することができた。


「二人とも、だいじょう……」

「その頭蹴り上げてやるから、こっち向くんじゃないよ」

「へ……ぼ、僕!?」


 背後から冷たさを持ったソニアの声がランスへ降り注いだ。

 危険を察知したランスは何とか手を打とうとするが首輪の鎖が後ろへ引っ張られており、逃げることができない。

 ついでに言うと、思い切り後ろを振り返ってしまった。


「理不尽じゃあな、い……」


 後ろに立っているフィアナとソニア。

 二人の有様を見てランスの言葉は消えていった。


「か……」

「あんたは言語が理解できないほど阿呆だったんだね」

「え、ちょっと待って。弁解の余地を」

「――歯ぁ食いしばんなあ!!」


 その後、ランスの顔面にソニアの蹴りが炸裂したという。

 意識が遠のく中彼がみたのは、服が燃え、もはや服という物の意味をなしていないものを身につけたフィアナとソニアの姿であった。



*****


「くっ……ひぐっ」


 懐かしい王宮の裏庭で。

 幼い少年は膝を抱えて泣いていた。


『よりによって……』

『ねえ? 適属性が、よりによって闇だなんて』

『魔法の天才っていうのも、もしかしたら魔王と何かかかわりがあるんじゃあ……』


 ひそひそと、自分を見ながら囁き合う侍女たちの声が頭から離れなかった。

 両耳をふさいで、首を何度も横に振る。


「こんなはずじゃなかったんだ、こんなはずじゃっ……」


 泣き喚いても、何も変わらない。

 これから待っている未来は、きっと今までとは全く違うものだ。

 どうなるかなんて考えたくなくて少年は耳を塞いで、目を閉じて、全てを投げ出した。


 怖かった。

 まるで手のひらを反すかのような周囲の人たちの態度が。

 自分の未来が。


 そうしてしばらくたった頃。

 冷えた少年の身体を温めるように何かが覆いかぶさった。

 微かに感じる人の温かさと、吐息。

 誰かが彼を優しく抱きしめたのだ。


 そして涙で濡らした顔を上げた少年の瞳に、茶色く長い髪が映る。

 昨日まで笑いあっていた少女の声が耳元で少年の名前を頻りに読んでいた。

 少年よりも大きな声で。

 彼女は泣き叫ぶ。


「私が、いてあげる。ずっと一緒に……だから」


 泣かないで、という優しい声が頭の中に響いた。


*****



 目を覚ませば昨日も見た部屋の天井がランスを見下ろしていた。


「……」

「昔の夢でも見たかい?」


 何度かゆっくりと瞬きをして意識がはっきりしてきた時。

 ベッドで横になっていた彼の隣に座るソニアが横髪を耳にかけながら優しく笑う。

 ゆっくりと起きあがった拍子に彼の青い瞳から涙がこぼれた。

 それを静かに拭ってから彼は苦笑する。


「そうだね……久しぶりに見たよ。すごく、懐かしい夢だった」

「そうかい」


 日は随分昇り、部屋の中を明るく照らしていた。

 暖かく眩しい日差しから目をそらし、ランスはベッドから立ち上がる。


「あ、さっきのは私の蹴りでチャラにしといてあげるから」

「僕の鼻が強くなかったら鼻血くらい出てたかもしれないよ……」

「私が言うのもあれだけれど、本当に頑丈だよねえ。あんたの鼻」

「鼻限定ってのも嬉しくないけど……ソニアさんの蹴りで鍛え上げられたんじゃない?」

「おお、それは感謝してほしいね」


 冗談じみた会話をしながらランスは夢の内容を思い出そうとした。

 あの少女は、今はどうしているだろうか。

 ……もう会うことは叶わないのだろうけれど。


「そう言えば、フィアナは?」

「ああ、あの子は多分橋の方にいると思うよ」

「ひ、一人で!?」


 ソニアの一言によって、夢の内容は頭から吹き飛んでいった。

 オドリという少年の言うことが本当なのであれば、フィアナも狙われている身なのだ。

 一人の時に何かがあってはランスが助けることすらできない。

 慌てて部屋を飛び出そうとするランスの背中にソニアが声をかけた。


「大丈夫、ラオがいるから慌てないで行きな」

「ラオが?」

「ああ。東の子だからね、目を付けられているかもしれないし。ラオをたたき起こしておいた」

「不憫になってくるなぁ。了解、ありがとう」

「はいはい、いってらっしゃい」


 首輪の鎖を自分の手に持ち、ギルドの外へでる。

 橋中央あたりにはラオとフィアナの姿があった。

 フィアナはどうやら水魔法の練習をしている様だ。

 その姿が、一瞬『彼女』と重なってランスは足を止める。


「おーい、ランスー!」


 止まったその足を動かしたのはランスに気がついたラオの声と、彼へ笑いかけるフィアナの表情。

 自然と口は緩み、笑顔へと変わる。


「うん、今行く!」


 ランスは二人へ向かって走り出した。

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