エピローグ
「植木鉢頭さんという、君からもらった愛称も気に入らなくはないんだ」
共に常若の国に移った私たちは、湖の畔にある小さな集落の隅で暮らしていた。
こじんまりした家の窓辺で日光にあたりながらうとうとしていると、私を後ろから抱きしめた彼が小さな声でつぶやいた。
「実は…私も名前があって…言いそびれていたんだが…
夫婦になったからには…知っていてもらいたいというか…
呼んでもらいたいというか…」
彼は照れくさいのか、なんども言葉を詰まらせながら言葉を続ける。
そうか夫婦になったのよね…。
私は人間の時に一回別の人の妻だったこともあるのに、なんだか変な感じね。
前の夫が嫌いだったわけではない。でも、親が決めた人だったから植木鉢頭の彼に対する感情と前の夫に対する感情はまるで違う。
彼が照れくさそうに言った名前は、花を意味する私の住んでいた世界の言葉だった。
「愛しているわ、…フルール」
愛しい植木鉢の頭を持つ彼に教えてもらったばかりの名前を呼んでみる。
なんだかこそばゆい。
彼はそんな私を抱きしめ、口づけをしてくれた。
「悪夢からはいつの間にか解放されていた。
でも、私の呪いは解けなかった。
私が過去に傷つけた誰かは私を許さないかもしれない。
それでも、アン…君はまだ僕の幸せを祈ってくれるのか?」
「言ったでしょ?
あなたが幸せでいられますようにって願い続けるから…って。
これからもずっとずっと願い続けるわ」