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淡緑の花に願いを  作者: こむらさき
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願いと赦し

「大切な商品を無駄にしてしまってすまない」


彼女が植えてくれた花は、やはり咲かなかった。

芽までは出るが、やはり何度試してみても種を変えてみても花は咲かない。

正直ほっとしている面もあった。


私は救われるべきではないのだ。


アンを見ていて心が躍る。

道端の花を摘んで渡したときの、嬉しそうな顔を見て胸が締め付けられた。


ああ…そういえば、あの人もこんな顔をしていたな…そうか、私はそれを傷つけたのか。


かつては、私を呪った忌々しい魔女でしかなかった存在に今は悔いることしかできない。

呪われて当然のことをした。

魔女だけではなく、それより前に接した何人もの女性にも…。


「アン…花が咲かないのは君のせいじゃない。

私が許されないことをした、それだけのことだから」


花が枯れるたび泣きそうに泣きながら私の頭に種を植えなおす彼女を見ていて胸が痛んだ。

私の罪のせいで、大切な人が悲しむことがつらかった。


いっそのことすべてを正直に話そう。

隠していたことを。

幻滅されるかもしれない。

それでも、彼女をわけもなく悲しませ続けるのはつらさには耐えられなかった。


夜になり、いつものように彼女の部屋へ入る。

緊張した面持ちに気が付かれたのか、アンは私の手を握り、干草のベッドに座らせてくれた。


ゆっくりと言葉を吐き出す。

まるで毒でも吐き出すかのように。


「悪い魔女に呪われたんじゃないんだ…私が魔女を傷つけたから…

彼女の気持ちを無視したから…彼女は命を捨てて私を…呪った」


震えてうまく言葉が出せない。

目の前にいるアンの手を両手で握りしめながら言葉を紡ぐ。


「呪いを解きたいがあまり人間の女性を…脅して詰ることもあった」


「呪いが解けなくて…許されなくて当然のことを私はしたんだ」


「だから、私が悪いんだ。私の呪いが解けないのはアンのせいなんかじゃない」


とぎれとぎれに言葉を絞り出して、アンを見つめた。

幻滅されたらすぐに消え去ろう。

私の手を握り返しながら、眉を吊り上げる彼女を見て覚悟を決めた。


彼女は、涙をぽろぽろと流しながらしばらくうつむいていたが、私の手をギュッと痛いくらい握り直す。


「もし、あなたが許されないことを誰かにしたんだとして…あなたをずっと罪を責め続ける人がいたとしても」


アンが握る手の力を強めながら話し始めた。


「私は…私は、あなたに…幸せになって欲しい…。

誰か一人に許されないからって幸せを諦めなきゃいけないなんて残酷すぎるよ…。」


「全ての人に許されないと幸せになってはいけないの?

あなたが幸せになれないなんて…そんなの私が許さない。

私…自分勝手でもいい…

あなたが幸せでいられますようにって…願い続けるから…」


嗚咽を漏らしながら、自分のために泣いてくれる彼女を見て、胸が苦しくなった。

どうして悲しませたくなかったのに結局泣かせてしまうんだろう。

私は、長く生きていたはずなのに何故大切な人を傷つけない方法の一つも知らないんだ。


どうしていいかわからず、目の前の彼女をただ抱きしめるしか出来なかった。


本当の愛を抱いてくれていなくても、私はこの可憐な泣き虫の女の子がこの世に生きる限りここにいよう。

それが私の幸せだ。


初めてこんなに大切に思っている存在に、愛されていないことがわかっているということが最高の罰なのだ。

人間の一生は短い。

そう…私と比べるとあまりにも短すぎる。


「私みたいな存在が…少しの間だけ、幸せを求めることは、間違いではないのだろうか」


「間違っていてもそれでいいの!植木鉢頭さんは幸せになるの!!!」


思わず口から洩れた言葉を聞き逃さなかったのか、アンは私の胸にすっぽりと抱きすくめられたまま顔も上げずにそう答えた。

その様子が子供のようで思わず笑ってしまう。

アンは笑った私に気が付くと顔をあげて私を見上げていた。少し腫れた目が痛々しいが、その目は優しく温かかった。


「ありがとう。君のおかげで少し楽になれたよ」


そう言って私は、アンを再び抱きしめた。

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