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淡緑の花に願いを  作者: こむらさき
3/8

居場所

どうせ、どこにも行く当なんてなかった。

ぼうっと黄金色の髪の彼女の言葉を、頭の中で何回も何回も繰り返しているうちに空が白んできた。


何故私が見えるのかなんて、どうでもよかった。

私を見ても逃げない人間が存在する。

長い間この人間の世界で過ごしてきたが、そんな人間はほとんどいなかった。

それに…逃げない人間も、逃げないというだけで頭が植木鉢の異形の化け物に怯えるか、常若の国の秘術に興味のある者くらいしかいなかった。

泣きながら殺さないでくれと言われることもあった。


「また…会いたい…か」


希望を持つと、裏切られたときのショックが大きい。

だから、あの女性が私を怖がっていないと思うのはよそう。

きっと、私のような常若の国の住人の存在を知っていて、魔術か何かに私を利用したいんだろう。

そう思い込もうとするけれど、昨日の彼女の言葉が、胸を焼き焦がすような感覚と共に何回も繰り返されるのだった。


太陽が顔を見せ始めると同時に、彼女は顔をほころばせながら私の前へ来た。

朝日に照らされた彼女の髪の毛がキラキラと輝いていて、人間離れした美しさだった。


「こんにちは。また来てくれたのね」


誰かから笑顔を向けられるなんてどのくらい振りなのだろう。

そんなことを考える。

何か話さなければ…。しかし、他人との会話とは何を話せばいいんだ。

私は、かつてどんな風に他者と会話をしていたのかを思い出そうとするが全く思い浮かばない。


「来たというか、ずっとここにいたんだ。行く場所が…私にはどこにもなくて…」


必死に絞り出した言葉は事実でしかないのだが、とても空しいものだった。


ここに、ずっと、私のような化け物がいたことに彼女は不快にならないだろうか。

他者とかかわることは、こんなにも心が動揺するものだっただろうか。


グルグルと様々な感情が頭に渦巻く。

言葉をつづけられないまま、しばらく私が口を噤んでいると彼女が笑みを絶やさないまま言葉を紡いだ。


「行く場所がないのなら、あなたの植木鉢に素敵なお花が咲くまでずっとここにいればいいわ。私妖精さんとお話しすることが夢だったの」


「君は、私のこの醜い姿が恐ろしくないのか?おぞましいと思わないのか?」


思いがけない彼女からの言葉に、思わず反射的に言葉を投げ返した。

声の震えが抑えられない。

怖い。けれど…やっと出会えたんじゃないか。そんな気がする。

もし、目の前にいるのんきな娘が私を怖がらない人間の女なら、利用できるんじゃないか…。

そう思わずにはいられなかった。


「どうしてそんなことを聞くの?

 あなたのその姿がとても素敵だったから声をかけたのよ」


彼女がそう微笑みながら放った言葉と同時に、頭を殴られたような…心臓を鷲掴みにされたようなそんな感覚が体を貫いた。

ずっと自分にまとわりついていた惨めな気持ちが一瞬だけ和らいだ気がした。

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