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淡緑の花に願いを  作者: こむらさき
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プロローグ

「結局、お前も私自身のことなんてどうでもいいんだな」


夢を見るたびに繰り返す、苦々しい記憶。

これは現実ではないとわかっていても、それを止めるすべは私にはない。


「今すぐ消えろ。それで許してやる。」


何回も繰り返し見た夢の中の自分は、今回も変わらず私の意志を無視して感情のままに口を動かす。


「何度も同じことを言わせるなこの最悪な存在(アンシーリーコート)め。失せろ」


テーブルの上のものをなぎ倒しただけでは飽き足らず、目の前にいる黒髪の女性を突き飛ばすかつての姿の自分。

彼女は床に倒れ一瞬静止すると、肩を震わせる。

そして、たたましい笑い声と忌々しい呪いの言葉を放ちながら彼女は髪を振り乱して立ち上がった。


「呪ってやる!!!私を罵り弄んだ罪を背負って醜い姿で永遠に苦しむがいい!」


体に黒い霧を纏わせた彼女は、スグリのような真っ赤な瞳をギラギラさせて狂ったように笑いながらバルコニーへと躍り出た。

黒い霧は、私の体にも纏わりつき猛烈な吐き気と頭痛が私を襲う。

夢の中にもかかわらず明確にその感覚を感じるのは、この悪夢も呪いの一種だからなのだろう…と半ばあきらめた気持ちで見慣れた光景を見つめる。



「あはははははははは呪いを解いてほしい?だーめ」

「醜いその頭に咲いた花を貴方が愛する人が摘み取れなければその呪いは解けないわ」

「そもそも化け物のあなたの頭に花を咲かせられるかわからないけれど」

「知りたい?ふふふふ…あなたを本当に愛してくれる人間の女なら花を咲かせられるかもね」

「あははははうふふふふふ私は呪いを解いてあげない。死ねない化け物の体でずっと苦しめばいいのよ」


私の顔を見つめながら呪詛の言葉を畳みかける彼女は、ゆっくりと背中から倒れていく。

夢の中の私は、反射的に彼女の手を取ろうとした。

呪いを解かせたかったのか、命は助けたかったのかは今でもわからない。


黒髪の魔法使いが笑いながら落ちていく。


ドレスが開いて、ひらめいて、何かの種が花弁とともに落ちるようだった。

笑い声が遠のいた後、グシャという嫌な音が耳に入り私の視界は暗転する


そして嫌な汗をかいたまま目が覚めるのだった。



何回も、何千回も見た夢。

古い古い記憶。


醜い姿になってから、もうとても長い時間が経っていた。


人間の国の移り変わりは、常若の国と比べてとても早いものだった。

王が次々と変わり、つい昨日あったことがあっという間に神話になる。だが私の呪いは解ける気配はなかった。


長い時の中でわかったのは、何故か私と目が遭った女だけに私の醜く恐ろしい姿が見えるようになるらしいということだけ。


それがわかったところで、事態は悪化するばかりだった。

特に異教の神の教えがこの国にも浸透した頃から、自分を一目見ただけで悪魔と怯える人間も増えた。

脅して詰って世話をさせようとしたこともあった。

「本当に愛した女にしか花は咲かせられない」ことが本当なようで、花はおろか芽が出ることすらなかった。



私は、もうかなり前から疲れていたんだ。

高い場所から落ちてみたり、戦場の騎馬の群れに飛び込んでみることもあった。

体を激しい痛みが襲うだけで、体は傷一つ付かなかった。

この醜い姿を自分で殺すことも叶わず、ただただ人間の女に見つかり拒絶をされるだけの日々を何回繰り返せばいいんだろうか。


絶望だけが、私のすべてを支配していた。

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