第一話 それは突然だったので
よろしくお願いします。
夏も終わり校庭の木々の葉が赤や黄色に色づき始めた今日この頃。俺たち2年C組の面々は穏やかな風が吹く教室の中で午後の授業を受けていた。今は担任の田村貴博先生が古典の教科書片手に黒板に文字を連ねている。
チョークが黒板に当たる音が妙に心地よく、眠りたくなるのをどうにか耐えながら大半の生徒と同様に俺-佐々木孝介-も内容をノートに写す作業に勤しむ。
授業が始まって早々に眠った後ろの席の八重樫悠斗からは、寝息が聞こえてきて無性に腹が立つので、後で頼まれてもノートは絶対に見せないと一人で決意した。
そうこうしていると授業も後半に差し掛かったところで、先生は教科書を閉じ教卓に置いた。
「よし、今日の授業はこれくらいにして今度の文化祭の件について少し進めとくか。鈴原と鬼頭、前に出てきてくれ」
「はい」
「うっす」
授業が早く切り上げられたことでクラスは少し騒がしくなったが、先生に注意されすぐに静かになった。
そして先生は窓際にパイプイスを運んで座り、委員長の鈴原早希が教卓に立ち副委員長の鬼頭信介は黒板の前に立った。
鬼頭が黒板に『文化祭について』と議題を書いたのを確認した鈴原は話し始めた。
「それでは先生に感謝して、文化祭について話し合います。とりあえず今年はどんな出し物にするか話し合いましょう。去年はお化け屋敷でしたので、何かそれ以外で案がある人は挙手をお願いします」
なぜ去年と被らないようにするかと言うと、普通は前年に同じ出し物の経験者がいるからとかではなく、うちの学校は珍しく三年間クラス替えをしないからだ。理由としては人間関係を築くなら、広く浅くより狭く深くのほうがいいのでは、という初代校長の考えによるものらしい。
と言っても他のクラスと合同授業や選択授業で仲良くなったりもするのだが。
そういうわけで去年と被らないようにしているのだ。
みんな周りの席の奴と話し合いながら次々に案を出し、鬼頭がそれを黒板に書いていく。参加しないのも何なので、後ろの悠斗を起こすことにした。
「おい悠斗、いい加減起きないと後悔するぞ」
「んぁ?なんだよ孝介、せっかく気持ちよく寝てたのに…ふぁ~」
「親切で起こしてやってんだから感謝しろよな。授業は早めに切り上げられて文化祭の話してんぞ」
「お、マジか。文化祭かーやっぱメイド喫茶とかやってほしいよなぁ」
「男としては賛成だが、隣の冴島に睨まれてるからやめとけ」
悠斗の隣に座る冴島美夏はメイド喫茶発言を聞いて、こちらを睨んでいた。
俺の隣で冴島の前に座っている柊千恵も苦笑いしている。
「ほんっと男子ってそういうの好きだよねー。そんなに言うんだったら自分たちでメイドやればいいのに、ねぇ千恵?」
「美夏ちゃんそれはちょっと…」
「そうだそうだ、男がフリフリのスカート穿いて誰が喜ぶんだよ」
「新谷さんとか」
「あの人は特別だからやめろ」
一瞬、新谷聖羅がこちらを見たような気がするがきっと気のせいだろう。そう思いたい。名前に聖とか入ってんのに腐ってるとか勘弁してほしい。
そんなくだらない話をしているとふいに違和感を覚えた。何かと聞かれても答えられないような些細なものだが、確かにおかしいと感じるがあった。
それはクラス全員が感じたようで皆キョロキョロと何かを探すように視線を彷徨わせている。
「なぁ今…」
「あぁ何か変な感じがしたな」
「でも何もないわよ?」
「そうだよ…ね…」
「千恵!?」
突然大きな音を立てながら柊が倒れるように椅子から落ちた。しかしそれは柊だけでなく他の者も同じように次々倒れていく。それを見た女子の一人が悲鳴を上げるが、隣のクラスからは誰も来ない。
慌てて柊を起こそうとするが、死んだように眠っているという表現が正しいように一切の反応がない。
「なにこれ!なにこれ!?」
「皆落ち着け!倒れてるやつを連れて急いで教室から出るんだ!」
「先生だめだ!ドアが開かねぇ!」
「窓も開かないよぉ!どうなってるのぉ!?」
騒いでる者も泣き喚いている者も、そして先生も倒れてしまった。気付けば俺一人だけが教室の中で立っていた。
「嘘だろ…こんなのありえ…ない…だ…」
その日28名の生徒と1名の教員がこの世から姿を消した--