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薬局

 時間をかけて優香は食事を終わらせると彼女は一つの疑問を投げかけた。


「そう言えば三好さん今頃お腹が空いてらっしゃるんじゃないかしら」


 確かにもう午後を回っているしハングリー状態になっていてもおかしくはない。二岡はうなずいて同意の意思を現した。


「多分そうでしょうね。食料らしきものなんか持ち合わせてなかったですし」


「……。わたし、三好さんになにか食べ物を差し入れしてあげたいです。風邪で寝込んで空腹なお身体なんてあの年齢にはかなりきついでしょうし」


 餌づけか。真っ先にそう思想した自分は性格が悪いだろうか。でも優香は三好に取材を取りたいわけだし……。無論、彼女の発言通り三好のことを心配しているのも事実であろう。でも本命は三好に話を聞くことなんじゃないかと勘ぐってしまう。


 しかも自分が疲労しているときに助けられるんだから三好はかなりの好感を覚えるだろう。人間は弱ってる状況であればあるほど助力してくれた人に感謝の気持ちで一杯になるだろうから。


「ついでに薬局へ行って薬でも買いましょうか」


 念押し。いや、もうそんなことを考えるのはやめよう。二岡は思考を遮断させると優香の提言に賛同の言葉を述べた。


「それは三好さん喜ぶと思いますよ。でも何の食べ物を買うつもりなんですか。一応症状は軽いとはいっても病人ですから何でもというわけには……」


 そのとき焼き餃子の調理を済ました櫻井がカウンター越しに話に割って入ってきた。


「おにぎりなんかどうかい?消化に良さそうだし栄養価も高いし。それに話を聞くかぎりだとその三好さんって人、結構歳くってるって言うじゃないの。年寄りは大体白い米が好きだからうってつけだと思うわ」


 最後の方は偏見が混じっている気がするが……。それに三好は年寄りと呼べるほどの老人ではない。一言で言い表すと壮年な男性だ。しかしそんな二岡の思考を打ち消すかのように優香は言った。


「そうですね。昨日も三好さん、コンビニのおにぎり食べてましたから少なくとも嫌いではないと思います。でもわたし具が何だったまでは見てなかったんですよね。どうしましょう……。もしも好みじゃないのを買ってしまったら……」


 優香は不安げな表情を浮かべている。櫻井がその感情を取り除こうとしたのかこう告げた。


「この前やってたバラエティ番組の好きなおにぎりの具ランキングだと鮭がトップだった気がするわ。それにしたらどうかしら」


 確かに印象論だが鮭は人気がある気がする。二岡も櫻井の意見に同意することにした。


「僕もそれが一番得策かと。まあ最終決断は記者さんに任せますけど」


 ホームレスとラーメン屋店長のアドバイスに優香は従うことにしたらしい。首を縦に振ると嬉々とした声を出した。


「わかりました。では両名のお言葉通り鮭を選択します。でもどこのおにぎりを……」


「実はうちの店ってサンドイッチやおにぎりとかも販売してるんだよ。当然、テイクアウトも可能でね!」


 櫻井がどでかい声音で告白してきた。言われてみればさっきメニュー表を見てたときにそのような食品が記されているのを二岡は思い出した。同時に結構品添えが豊富だなと関心してたことも想起された。


 なるほど、それでおにぎりを推してたのか。案外商売上手なオーナーだ。この人が仕切っている内はこの店は潰れはしないであろう。そう確信が持てる。


 優香も櫻井の意図が読めたらしい。少し失笑に似た笑みを浮かべながら言った。


「そうなんですか。ではせっかくですからそちらのおにぎりを二つほどお持ち帰りでお願い出来ますか?」


 待ってましたと言わんばかりに櫻井は口元を軽く緩めながら返答した。


「かしこまりました」


「あ、ついでにお会計も済ましてもらいませんか?」


 優香が椅子から立ち上がりながら尋ねた。それに連動して二岡も腰を浮かせた。早く三好のところに赴きたい。そんな思いが見え隠れしていた。


「ええ、わかりました。では先にレジの方へどうぞ」


 言われた通り優香と二岡は入り口付近のレジスターにまで移動した。優香は長財布から千円券をいつでも取り出せる態勢に入っていた。


 千円で足りるのだろうか。そう疑問に思うと二岡は頭の中で計算を始めた。ラーメンセットAときつねうどんの値段はなんとなく覚えているがさすがに注文する予定じゃなかった鮭おにぎりの価格までは記憶していない。


 だが一般的なおにぎりの定価を考えると、概算でだが千円を超すことになる。優香も薄々そのことに気づいたようで財布の小銭入れを覗き込んでいた。


 その予感は見事的中し、支払い金額は千二百円ほどした。慌てて優香は五百円硬貨を出して三百円のお釣とおにぎりを貰った。優香と二岡は櫻井に別れの挨拶を申しながら外に出た。


「取り合えず近場の薬屋に寄った後、公園に戻りますか」


「そうですね。もしかしたら未だに一面識もない菱川さんと氷川さん、それに岡崎さんも帰ってるかもしれませんし」


 それだけの会話を済ますと二人はパーキングに駐車してあった優香の車に乗った。


 三好さん、大丈夫かな……。優香は心配しながらエンジンキーを差し込んだ。やはりエンジンが起動するまで数分かかった。


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