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「もう、目を開けてもいいよ」
男の声が聞こえて、目を開ける。
「今回はあっという間だったな」
「前回が手間取り過ぎなんだよ、それはお前のせいだからな」
「いやいや、それはおかしいだろ」
うっすらと目を開けてみる。
さっきまでいた魔王と勇者はいなくなっていて、代わりに背の高い、イケメンな男性が2人立って、ケンカしていた。
「あ、悪い。ほら、立ちなって」
その人たちに手をさしだされて、私は立ち上がる。
…私?一人称が変わってる。
それに、胸も重い。
「しかし、胸大きいんだな」
彼らに言われて、私は初めて気づいた。
私は女になっていた。
「ヒィグ・リェーク殿下、ノバ・カジャイエ殿下。嫁を連れてくることを、常々待ち望んでおりました」
「すまなかったね、じいや」
訳が分からない私を置いて、部屋が急に騒がしくなる。
「こちらが、嫁でございますか」
「あくまでも、今は候補だがな。名前は、向こうでは御神楽勇介と名乗っていた」
「ふむ、ならば、ミタイル・ユシャイコ。という名はいかがでしょうか」
「いいんじゃないか」
多分魔王がどんどんと答えていく。
一方のおそらく勇者は、部屋の外へと出ていってしまった。
「あの、どうして私は女に?」
「ああ、説明してなかったな」
魔王がじいやと呼ばれた老人に対して指示を出しながらも、私の質問に答える。
「鏡像反転っていえば、わかるかな」
「わかんない」
「鏡を見たら、真逆になるだろ」
確かに、私は中学校で習ったことを思い出しながらうなづく。
「それを空間や性別、性格レベルで適応されるんだ。それが鏡像反転。ここでは、向こうとこっちが量子的に180度ねじれている影響で、このようになるんだ」
「ふむふむ」
私は、なんとなく分かったような気がした。
多分、理解はできていないと思う。
そこへ、外へ行っていた勇者が帰ってくる。
「父上がお待ちだぞ」
「分かった、ノバ」
すぐに私を連れていくが、私は二人のちょうど真ん中に立たされる。
「君の気持ちを正直に言うんだ。僕たちのどちらとも付き合いたいと言ってもかまわない」
「そうなの?」
勇者が私に告げる。
「問題はない。君の言葉が優先だ。そのことは、父上もおわかりだろう」
そう言いながらも、豪華な彫刻が施されているローマ時代のような柱を何本も通り過ぎ、その廊下の真ん中を突っ切っている紅カーペットを歩いていく。
「ここだ」
魔王が言ったところは、左が銀色、右が金色で取っ手が透明な扉だ。
何も言わない重苦しい空気の中で、私たちだけが扉の前へと進む。
「殿下のおなーりー」
その朗々たる声と共に、扉がゆっくりと開いていく。