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「え?」
俺は魔王からの突然の言葉に、二の句が継げなかった。
「ごめんね、こんな急な話で」
魔王がすこしいたずらっぽく笑いながら俺に言う。
「それで、一つだけ言わせてもらうと、一緒に来てくれないかな」
勇者が俺の手を取って言った。
「どういうことだよ、俺が異世界に行くってことか」
「ズバリ言わせてもらうと、ええ、その通り。来てもらう必要があるの」
それから、彼女たちは、俺に詳しく説明をし始めた。
かいつまんでいえば、つまり、こういうことになる。
向こうの世界、便宜上裏世界と呼ばせてもらうが、そこは、二重帝政が敷かれているらしい。
人的同君連合というのが正式らしいが、彼女らはその国の君主の子に当たるらしい。
つまり、異母姉妹だ。
皇帝が父親で、それぞれの国が独立していたころの君主の直系の女性が母となったらしい。
そして、本当であるならば、長子に皇位を継がせることになっていたらしいのだが、産まれた日、時間が偶然にも一致してしまい、どうしようもなくなったらしい。
魔王の母親の国の名前はリェーク帝国といい、勇者の母親の国の名前はカジャイエ帝国というらしい。
魔王はその第53代目当主、勇者はその49代目当主となることがすでに決まっている。
現在の皇統は、カジャイエ帝国の皇帝が、リェーク帝国の皇帝を兼務するという形を取っている。
どうやら、今から300年ほど前に、当時は男子しか継承権がなく、そのため直近の近親者を探した結果らしい。
さて、ここで問題になるのが皇位をどちらが継ぐかという問題だ。
そこで考え出されたのが、俺が今いる表世界とも呼べる世界で、婿を取ってきた方に皇位継承権第1位の位を与えると言うことだった。
急ピッチで科学技術の粋を集めてこちらと接続したのはいいものの、そこで暴走が始まった。
ゴミがこちら側へ転移したのは、そのためらしい。
だが、彼女たちは無事にこちらに来ることができ、そして俺と出会ったということだ。
二人とも俺と結婚をいつも迫っていたのは、皇位継承権が狙いだったということだ。
「…でも、なんで俺だったんだ」
俺がその説明を聞き終わると、二人に聞く。
一瞬目配せをしてから、同時に口を開いた。
「だって、お父様に一番似ていたもの」
ああ、そうですかと言おうかと思ったが、やめる。
「へぇー、そうなんだ」
「ということで、現在、皇位継承の法定推定相続人は私たちのどっちかなんだけど、皇位を実際に継承できるのはどっちか一人ってわけ」
魔王が簡単に教えてくれる。
「じゃあ、漏れた方は?」
「昔なら処刑だったらしいんだけど、最近じゃ最上位の側近として末長く仕えるわね。もしも皇帝が崩御した時には、次が即位するまでの中継ぎもつとめるわ」
勇者が言った。
さて、と魔王が言う。
「そういうことだから、一緒に来てくれないかな。一応聞いておかないとね」
「どうも、その話を聞くかぎり、嫌だと言ってもつれていくつもりだろ」
「大正解だよ」
魔王と勇者が立ちあがって俺の両腕を掴む。
「さて、行こうか」
そう言うと、部屋の窓ガラスへ向かって突っ込む。
「割れるっ」
叫ぶと、思わず目をつむる
一瞬、何かを突き抜けた感覚があった。