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医者の俺は異世界で聖書(スマフォ)を片手に神と呼ばれる。  作者: Dr_バレンタイン
2章 『人の行いのうち、人に健康を施すことより神に近い行いはない』
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KARTE2-2 診療所開設

 結局俺は彼らの世界に入り浸った。

 彼らの集落から少し離れた位置に、緑の芝生に建てられた赤いテントがある。

 俺の診療所だ。

 災害救助で軍が使う緊急医療用のテントで、十畳ほどはある。中は半分に仕切られ、奥は医療器具やベッドが置かれたちょい清潔室。手前は汚い診察室だ。

 患者は外で待つ。日本ではありえない待合所だが、彼らが不満を漏らすはずもない。

 昔から自分の病院を持ちたいという夢はあったから、一応叶ったという喜びはある。できれば日本の土地で持ちたかったけど。贅沢は言えんしね。

 お医者さんごっこと思なかれ。彼らが持ってきた食料などが、俺の胃袋に入ってくれるわけだから、十分立派な仕事といえるだろう。

 一体どういうテクノロジーで俺が存在しているのか、理屈もなにもさっぱりわからんのだが、とにかく満足して食事ができるというのならば受け入れよう。

「ドクター、よろしいでしょうか」

 トシュナが診療所に面倒な患者を連れてくる。

 肌の白い野菜人がやってきて、体のどこが悪いだと相談しにくるのだ。

 みんな電球の明かりに驚くもんだから、彼らの反応は見ていて面白かった。

 トシュナはナースみたいに働いてくれた。

 実にいい子だった。いや、いい人妻か。

 歳を聞くと一五か二十の間だという。なら若妻だな。

 トシュナは性格はまじめだし、なんだって素直に従うし。自分からなんでもしますと言う。実際なんでもやってくれるので助かるし。

 彼らを診察するのは非常に興味深いものがある。

 立派な医者になるには研究論文が必要だ。そして俺がやっていた研究テーマは「人類における遺伝的多様性に基づく疾患発症機構の解析、および生態への応用」であり、多少なり彼らの生態と関わっている節がある。

 難しい題名だが、簡単に言うと「どういう遺伝子が病気なりやすい、なりにくいとか調べるヨ!」という話である。俗に病態ゲノム分野と言われている。

 ゆえに彼らの体は俺にとってかなり魅力的だった。

 現場の医者ではなく、研究者の医者でも現場復帰できるならば万々歳だ。

 いっそのこと身を引き裂いて解剖実習といきたい所だが、そんな不気味なことをやって追放されたら意味がない。ここは優しい医療の神様を気取っておかねば。

「あんたら、ちんこないんだな」

 特に彼らを診察していて特徴的だと思ったのが、男女共に動物的な生殖器がないことである。

 人間のような有胎盤類でもなければ、親戚である有袋類でもない。

 どうやって繁殖しているのかは不明だが、これだけ数がいるってことはなんらかの方法で数を増やしているんだろう。

『お困りのようですね。ツリーは全ての問題を破壊するアビリティがあります』

 俺が悩ましげにすると、例のごとくやたら眠たそうな声がやってくる。

 こいつは人の不幸や悩みを嗅ぎ取る天才だ。

 無視すれば永遠と小言をこぼすし、話しかけると偉そうな態度を取られる。

 しかして確かに役立つ場面もある。

 俺は今の疑問を打ち明けた。

『おぉ。そうですか。把握しました。ドクターは彼らの生殖活動にいたく興味があるようですね。確かに、ドクターのお年頃では気になるかもしれません。一般的な若い男性は昼夜セックスについて考えるそうですね。もしドクターが、彼らの性行為をなんらかの形で見学、覗き、撮影等の卑猥間近の研究活動をしたいのであれば、私が幇助しましょう』

「いらねーよ、そんな幇助」

 妊娠に伴う疾患は多い。

 現代医学でも未だ死亡の危険性がある。

 人間の進化において、出産だけはあまりに不完全なまま定着してしまったシステムだと断言できる。

 なのに彼ら野菜人は妊娠に伴う危険性を一切持たない。

 これは生態の画期的な進化である。

 問題が大きい小さいではなく、そもそもゼロ、皆無というのは素晴らしい。

 病態ゲノムの究極の目的は、いかに疾患に対応できるか、強くなれるかである。

 彼らの生態を探っていけば、そのうち素晴らしい発見が見えてくるのかもしれない。

 上手く論文にして発表すれば、一気に出世ができるかもしれないぞ。

 しかし、胎盤もなければどうやって子を産む? やいどうやって子供を作るんだ、なんてセクラハ直球ど真ん中ストレートを患者に聞けるわけもないし。

 いずれどこかの男と親しくなって、こっそり聞くしかないだろう。

 彼らとの友好は、食料と生活の安定を与えてくれる。

 いやしかし……、生活の安定……、なんていい言葉なんだろう。

 今の俺に一番足りない言葉だ。

 彼らが持ってくる物資は、俺にとっちゃ救援物資である。

 人間欲を張るといいことがない。

 うん、とりあえずあせる必要はないさ。

 所詮降って湧いた話だ。

 元々なかったものと思って、ほそぼそと付き合っていこう。

 無論、いずれ大きなやっかい事を起こされるかもしれないが、そういうときはさっさと逃げればいいんだよ。

 ――と、俺は消極的な前向き思考で仮の結論を作った。

 正確には問題が大きすぎて、どう対処していいかわからないだけなのだが。

 現状維持は日本人の特技だと思う。

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