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医者の俺は異世界で聖書(スマフォ)を片手に神と呼ばれる。  作者: Dr_バレンタイン
6章『近い将来、障害を持つ子を誕生させる事は犯罪になるだろう』
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KARTE6-4 勤め

 俺は近くにあった机に腰を据え、ツリー本体と向き合いながら話を続けた。

 確かに俺はそんなプログラムの参加を申し込んだ覚えがある。

 しかしそれは通常の現場復帰を想定したつもりだった。

 まさかこんな偏狭の地で、人類ではない人類似よく似た新人類を殺したり生かしたりの実験に参加するとは思っていなかった。

『現在、当施設における「十分な職員確保の目標達成値評価」が、マイナス1280名、となっています。ドクターが正式にこのプログラムを終了すれば、この値が、マイナス1279名に改善されるでしょう』

 俺の戸惑いっぷりを無視し、ぺらぺらと話を続けるツリー。

「他のメンバーはどうした。俺と同じプログラムを受けている人間は?」

『現在の所、プログラムに合格した者はいません』

「じゃあ受けていた人間は?」

『多くはプログラムを放棄、もしくは砂漠ヘビに捕食される、原住民にとても悲惨な処刑を施される、などの結果を得ています。ここまで順調に進んでいるのは、ドクター、あなただけです。ドクターはとても素晴らしい条件をお持ちです』

「条件? どんなだ」

『生物に一定量の専門知識がある。我々の要求に興味を持てる。若く体力がある。失職中である。独身である。強い自殺願望がある。消えても誰も気にとめない。以上の項目に強く当てはまる必要があります』

 マグロ漁船かなにかか。

 ぶちっときた俺だったが、ぐっと奥歯を噛みしめた。

 やつの言っている事は正しい。

 俺なんて、居ても居なくても変りやしない。

 反論するのならば己の存在意義を見せつけてやらねばならないが、俺がそんな尊い物を持ち合わせているわけがない。

「まだ聞きたいことがある。俺がメガネを取ったり外したりすると、家にいたり砂漠にいたりする。あれは……、どうやってるんだ?」

『単純な空間転移技術ですよ。メガネを取る取らないに意味はありません。取るという合図で、私は転移技術を施しているだけです』

「そんな技術があったのか……。あ、あぶなくないのか……?」

『技術理論は確立されていますが、時折、意図しない小規模な不具合が発生します。物質の損傷、人体の永久的消滅、一部臓器転送のタイムラグの発生などです。ご利用の際は、それら事項の発生を了承してください』

 俺は身震いを起こした。

 人体の永久的消滅って、転送失敗でミンチになったって事じゃないか。

 そんな危ないものを、なんの惜しげもなく使っていたっていのか。

 確かにそれなら、消えても誰も気にとめない人材が必須項目だな!

 いや、思い起こせば、この不具合はすでに起きていた。

 何度も体の一部が消えたりしているのは、この障害だったんだ。

『優秀なドクターが存在すれば、我々職員の意欲や士気も高まり、プロジェクトに潤いが生まれます。我々はドクターを歓迎するためのパーティーを予定しています。パーティーにはチョコレートでできた……、おっと、これは秘密事項でした』

 パーティーといわれても誰一人やって来ない。まったく持って静かである。

 誰もいないというか、無人というか。

 中は土まみれで、なぜか日が当たらなくとも草木がぼーぼーに生えている。

 住居といっても一つ一つの家はテント程度の大きさで、真四角やら、ドーム型やらの無機質な形ばかりである。色合いは土をかぶっていてよくわからなかった。

 周囲は以前暗闇でしかない。

 なにか隠れているのかと思うぐらい静かで不気味だった。

『ごらんになっている通り、職員一同、ドクターには敬意を示さずにはいられません』

 もちろん俺に敬意を示してくれる職員はいない。

 ツリーの言うとおり、ここの人間は環境の変化に耐えられなかったらしい。

 残ったのは、飢えも病気もないシステム機関だけ。

「……もしかして献体への病理実験も続いているのか」

『もちろんです。ご安心ください。彼らがどの程度病気に耐えうる能力を持っているかは、全て我々が管理しております』

 となれば、トシュナの村が拡大感染するはずのない病気に冒されていたのも……。

 実験だったいうのか……?

「なんて実験を……。俺がいなきゃ、もっと人が死んでたぞ確実に」

『例外的な死亡は免れません。しかし死亡率は圧倒的に低かったはずです』

「じゃあ他の病気もなにもかも」

『意図されたものもあれば、意図されずに発生したものも存在します。我々に明確な判別を要求する場合、まだ数多くのサンプルが必要となります。現在の職員能力評価による仕事処理量から計算すると、予定残り日数は「マイナス2,147,483,647」日です』

 マイナス2の32乗という狂った数値が意味するのは、この研究が決して終わらない事を意味していた。

 なぜカワサキ病があんなにも集団感染するのか疑問だった。

 その謎がようやく解けた。

 彼らは意図して殺されかけたんだ。

 まるで俺たち医者がマウスに病気を与え、その経過を観察するように。

 この施設は実験を運用する施設である。

 彼ら実験生物の使命はただ一つ。

 いかに人類が病気に強くなれるか、その身を持って試すこと。

 これが医学の行く末か?

 俺は人類の未来を見ているのか?

 やがては医者のいらない世界をという理想論はあったが、その実現がこれなのか?

『多少悩ませる事を言いすぎましたね。お互い水に流しましょう。しかしドクターはテストをやめることはできません。ドクターを選んだ理由はそこにあります』

「俺が自ら協力するって言いたいのか?」

『愛し合う我々は離れられないのです。人類のためにもね』

 ツリーは両手の人差し指を絡め合い、最後にそう言った。

 "for people"(人類のために)と。

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