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医者の俺は異世界で聖書(スマフォ)を片手に神と呼ばれる。  作者: Dr_バレンタイン
6章『近い将来、障害を持つ子を誕生させる事は犯罪になるだろう』
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KARTE6-3 医者の勤め

 俺は暗い中、時間を忘れて書物の翻訳に努めた。

 一日二日では終わらない。

 研究員としてのクセが出たのか、時間を忘れて文献を当たってしまっていた。

 腹立たしいが、彼らエイリアンに与えられた無慈悲な人体実験記録は、俺が持つ科学者としての知的好奇心をくすぐっていた。

 献体はマウス同然の扱いである。

 どんな病気にかかりやすいか、どんな薬を塗ればアレルギーを起こして苦しむか。免疫グロブリンの数値までご丁寧に観測されていた。

 そりゃ彼らに人権なんてものはないかもしれない。

 俺だって、彼らを珍しい生物だと思って、解剖欲をそそられたさ。

 実際この観測データは興味がある。トシュナの種はグロブリンG種が、人の持っている四種よりも多い六種ある。トシュナには俺のにっくきIgG2bまである。これの何が憎いって、マウスにはあって人間にはないもんだから、どうしても人と実験用マウスで差が出てしま……、いやいや、そんな話なんか今はいいだろ。

 既存の生物的に、ありえない話である。これらか解析して、どのような反応が得られるか調べるだけでも重大な論文になれるはずだ。

 だが、彼らには意思がある。

 生きたまま生物学的実験や疫学実験をしていいものか。

 ここはいったいなにを……。

 ここの神は、いったいなにを考えてやがるんだ。

 俺はこの施設を歩き回った。

 どうみてもなにかの研究所といった所である。

 しかし誰かがいる気配がない。

 もちろん神の声があったのだから、誰かがいるはずだ。

 結果、俺はあるヤツを見つけた。

『おっと、見つかってしましましたね』

 ツリーがわざとらしく驚く。

 暗闇に現われたのは、高さ五メートルほどの巨大なリンゴの木だった。

 しかし木と言っても、幹や実は鉄製である。

 鉄で出来た頑丈な幹に、リンゴの実がいくつもくっついている。

 そこに自然の緑がからみついている。さながら本物の植物のようだった。

『これが私の本当の姿です』

 ツリーは自慢げだった。

『私は総合システムAI、ツリー。今ドクターが認識している子供の姿は、人間に馴染みやすいよう設計されたホログラムのようなものです』

 このでかい木が、ツリーの本体だっていうのか?

 ここで全てが計算され、俺に伝えられているということか。

『ソーリー。あまり見られていると緊張して、気まずくなってしまいます』

 ツリーが申し訳なさそうに喋る。

 本当に気まずそうに思えるから恐ろしい。

 ツリーの正体を知った時、俺はずっと腹に溜めていたことをたずねた。

「ここでトシュナや、ダーコみたいな生き物を操ってるってのか?」

『操るという表現は正しくありません。彼らはなるべく自然の環境に生息させ、その上で自然的に起こる症状を記録する方針です。規則以上の手は出しません』

「なんだそのいいぐさは。まるで所有物じゃないか」

『えぇ。そもそも彼らは我々の製品です』

 ツリーがきらきらした長髪を、指先でふわっと撫でた。

 俺はきょとんとしていた。製品とはどういうことだ。宇宙から来たエイリアンと教えてもらったほうがまだ納得できたのに。

『ドクターの感覚で言えば、遺伝子組み換え作物とでも言いましょうか』

 俺の疑問解決を、ツリーは素直にサポートしてくれた。

『病に対抗する究極はなにか。どんな病気にも負けない薬の開発ですか? 素晴らしい人工臓器の提供? いいえ、病に対抗しうる肉体の進化こそ、そもそも生物として正しい姿でしょう。進化をやめた時、訪れるのは人類のパナマ病です』

「まて。遺伝子組み換えだって? 一体、なんの遺伝子を組み換えたっていうんだ」

『なにを今更。あれだけ好き放題解剖すればわかるでしょう。何が元かは』

 俺はその瞬間、解剖の時に感じた疑問を一気に解決させた。

 なぜエイリアンとも思える外見をした彼らが、あぁ俺と内部構造が似ていたのか。

 臓器の位置、骨の形、筋肉のつきかた、どれも人間と瓜二つだった。

 それもそのはずだ。

 ここで生産されていたのは、元々人間だった生き物だったのだから。

『これまでの事は全てドクターを歓迎するためのデモンストレーションにしかすぎません。愛するドクターには、我々の製品を知ってもらう必要がありました』

「あいつらは確実に生きてる。俺と同じだ。血が通ってて、脳みそもある。自分の意思を持ってる。それが製品だってのか?」

『太陽は輝き、草木は萌え、水は海へと流れる。そして医者は献体を殺す。医者による殺生は自然の摂理です。そして彼らの血と肉は、生きている人へと貢献されるのです。ワクチンなどの形でね。時には食料になる場合もあります』

「ワクチンって、馬じゃないんだぞ」

 人間のワクチンは通常、馬にウィルスを注入し、上手くウィルスを退治した抗体をワクチンとして開発される。

 この施設の存在理由を把握した瞬間だった。

 ここは新薬開発の現場だ。人間がどうやって病に打ち勝つのか。その究極を問おうとしている施設だ。そして彼らの導き出した答えは、人類そのものの進化。

 外にさまざまな種類の人類を放牧させ、病気や環境の変化に対して、どのような抵抗を見せるのか観察する。それを元の人間に還元する。

 そのプロジェクトを担っている所なんだ。

『馬ですか。ドクターは今まで殺したマウスに感情を抱いていますか?』

 今まで殺してきたマウス……。

 山ほどいる。カエルもだ。

 一つ一つを覚えているわけがない。

『ドクターは外の劣悪な環境をごらんになられましたよね。多くの既存生物は、外の環境に耐えられません。我々の使命は、新たな生物を製品化する事、および環境を整備させる事です。さもなければ、我々は重大な被害を受ける可能性があります』

 俺は眉をひそめた。

 外は砂漠。職員は今のところ皆無。

 この施設に、血の通った人間は一人もいない。

 ツリーのいう重大な被害を受けている、と結論づけていいのかもしれない。

 プロジェクトは失敗した。

 しかしシステムに失敗した場合の処理は用意されていないみたいだ。

 人間のいない世界で、システムだけが生き続けている。

「ば、ばからしい。こんな実験、付き合ってられるか」

『なにを今更』

「だってそうだろ。はなっから教えてくれりゃ、俺はそもそも来なかった」

『説明に段階を置いたのはこちらの都合ですが、しかしここはそもそもドクターが望んで来た場所のはずです』

「俺が望んだ……?」

『欠陥を抱えた医者の再雇用支援プログラム。サインをしたのは、ドクターですよ』

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