KARTE6-1 創造主
俺は神がどんなやつか想像をふくらませた。
おそらく神の使いかなにかの宗教上偉い長がいて、この地域を納めている。
そういう詐欺師は、自分の言葉を神の言葉として喋る。
そんでもって例外なくすげえ金持ちだ。
文化の未熟な地域では、偉そうなやつが霊魂の仕業と言えば、大抵のやつは信じてしまう。この病は呪い、助かりたければ私の聖なる水を買いなさい。なんて手口が普通だ。
きっとそいつもドンペリ片手にベンツを運転して、夜景の綺麗なヒルズに女を連れ込むようなムカツク野郎さ。
しかし誰よりも博識であるのは間違いない。
もしかしたら、この世界の秘密や歴史でも知っているのかもしれない。
俺は洗礼の儀式に付き合うことにした。
ただしくトシュナは返した。治療を始める前と比べ、だいぶやつれていた。どこかで一旦区切らなければ、いつまでも仕事を続け、いつしか倒れてしまう。俺みたいに。
だから彼女だけは実家に帰らせた。そろそろ子供の顔を見たくなる時期だろうし。
洗礼の儀式は街の中央で行われ、木製の台の回りを、ぼろい椅子が囲んでいる。
結婚式というか、西部劇の絞首刑台である。
台の中央には十歳ぐらいのトカゲの男の子がいた。彼が主役だ。
さぁ神様はどんな姿で歩いてくるのか、わくわくする。
「神の洗礼はほとんどの者が受けます」
横にいるダーコが語る。
「洗礼を受けた時から、我々は神の啓示を受けることができるのです」
「ほとんどって、受けられない場合ってあるのか?」
「捨てられた子供などは、残念ながら洗礼を受けられない場合が多いですね。誰かが子供の存在を神へ伝えねばなりませんから」
まるで市役所への出産届である。
わりとシステマチックな神なんだな。
「来られましたぞ」
ダーコが俺に声をかける。
来たといえば、神でしかない。
俺は興奮しながら振り向いた。
そこで、神の姿に愕然とした。
「あぁ神よ」
「天地創造の神よ」
「この子に慈悲を」
「この子に慈悲を」
周囲の大人達が神に頭を下げる。
俺は神から目を離せずにいた。
やつは歩いていない。浮いていた。地上三メートル付近をふわふわと。
姿はバスケットボールほどの大きさ。
そう、球体である。
外装は土に汚れたメタリックで、正面に大きなレンズを持っている。
生物ではない。明らかに機械だった。
「神よ、こちらです」
洗礼の主役である男の子が手をあげる。
神と呼ばれし球体は男の子に近づき、体から触手のような細い管を出した。
『献体番号、A0G8980J登録。献体管理チップ、投射』
神が喋る。
そうして管を的確に男の子の静脈へ射し込むと、どろっとした赤い液を管に通した。
「洗礼は終わられた!」
「神よ、この子にさらなる祝福を!」
周囲が騒ぎ出す。
しかし神はなにひとつ顔色を変えずというか、顔なんてそもそもないんだが、そそくさとどこかへ飛んで行ってしまった。
俺は言葉が出なかった。
が、無意識に足は出ていた。
やつがなにものなのか、とっ捕まえて調べないと。
あれはどうみたってロボットだ。マシーンだ。
やはり人間がいる。
どこかに人間がいて、この世界を管理している。
ならば管理者と会うべきだ。