表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
医者の俺は異世界で聖書(スマフォ)を片手に神と呼ばれる。  作者: Dr_バレンタイン
5章 『どんな困難な状況にあっても、解決策は必ずある。救いのない運命というものはない』
21/26

KARTE5-5 犯人と神様

 患者の血液採取でわかったのは、白血球がやけに減少していることが特徴的だった。

 これも犯人のヒントだ。覚えておこう。

 まだまだヒントはある。

 第一に、空気感染はしない。

 つまりインフルエンザなどの感染症ではないこと。

 第二に、腸へのダメージが大きい。

 つまりマイコプラズマ真正細菌のような肺炎の類でもない。

 第三に、患者は大人。

 手足口病や川崎病みたいに幼児向けの類でもない。

 第四に、かなり被害者が多いこと。

 狂犬病やリッサウィルスのような、特定の動物に噛まれて起こる感染症の規模じゃない。

 もうわかってきたようなもんだが、まだ確信にはいたらない。

 これだけ除外しても、まだまだ感染症の種類はあるんだ。

「トシュナも一緒に死体を何個か並べてくれ。剖検しよう」

「ボーケンとは、やはりあの人の解体ですか?」

「腹を切る。臓器の様子を比べて診察するんだ」

 てな話をつけて、俺は計六体の遺体に恵まれた。

 始めて解剖を行ったときは極秘にこっそりやったが、許可が取れたならば、堂々と解体ショーを行おう。

 青トカゲが四人と、エイリアンが二人。土の上に寝かされた。

 俺は念仏を唱えた後、しぶしぶその場で腹を裂いた。

 腸をずりずりと引きずり出して、穿孔の箇所を調べる。

 次に各臓器を取り出して、アクセサリーショップのように並べてみた。

 そして分かった二つのヒントある。

 一つ。腸粘膜リンパ節腫脹、それが壊死し、最終的に潰瘍形成にいたっている。(潰瘍とは表面組織がぼろぼろに剥けて、化膿しているような状態を表す。やけどや口内炎も潰瘍といえる)

 二つ。脾臓(ひぞう)の腫大。

 こうなればかなり的が絞れてきた。

「どうする。脳炎を疑って頭を裂いてみるかな?」

 本当言うと神経解剖をやる必要は薄かったが、念のためノコギリを借りてやってみた。もしかすると俺の研究欲が、解剖に走らせたのかもしれない。

 頬の皮膚を剥いで、中身を覗いてみる。

 人の中身の色は基本的に黄色である。

 血のせいで赤をイメージしやすいかもしれないが、血を抜いて綺麗に洗った人間を輪切り解剖にすると、神経も血管も、水たまりで死んだミミズのような姿をしている。

 特に顔面は神経や血管が無数に入り組んでいる。味の薄い焼きうどんを、かき混ぜた生卵につけたような具合でぐちゃぐちゃに並んでいる。長年放って置いた電気コードのたばのように。

「よし。もういいだろう。これ以上は意味がない」

 二人目の頭部をサラダボールのようにした時、俺はやっと解体ショーをやめた。

 血まみれになったゴム手袋を取り、袋に入れる。

 死体の片付けは現地民に任せた。そこで俺は失敗を冒した。彼らが医学に慣れていないことを考慮していなかったがため、周囲には片付けにきた男らのゲロがまみれてしまったのである。

 う~ん。ゲロも採取しておくべきか?

 俺はしばらく迷っていた。

 剖検を終えた俺は、自宅に帰るなり吹き出る疲れに倒れ込んだ。

 外科の連中はいつもこんなことをしているのか。

 そりゃ頭より体力が資本ですって言われるわな。

「だいぶお疲れですか?」

 腹臥位(ふくがい)で倒れる俺に、優しく声をかけてくれるトシュナ。

「肩こった。俺ぁ外科医無理だね、体力ないもん」

「よろしかったら、少しほぐしましょうか」

 トシュナの白い指が、持続して緊張状態にあった俺の脊柱起立筋を指圧し、滞っていた循環機能を正常に動かす。

 トシュナは本当にできた人だ。

 メシと言わずもメシが出てくるし、洗えと言わずとも服を洗って、揉めと言わずとも疲れた体を揉んでくれる。寝て起きれば立派な朝食ができている。

 良き助手を得た俺は、医療行為にだけ体力を使うことができる。

 ヤリガイを求める彼女の行動は、全員にとって良い循環を与えてくれる。

 だから答えは順調に見つかった。

 核心は血液検査によってつかむことができた。

 呪われた人達は、健常者と比べ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼと、アラニンアミノトランスファーゼがいくらか高い。長ったらしい名前だが、肝細胞の中に含まれているもので、肝細胞が壊れると、これが血液中へ多量に流れ出す。

 そのヒントから、犯人も見つけた。

 こいつが大量殺人の犯人だ。

 俺はその結果を、わざわざ俺を頼ってくれたダーコに告げた。

「これはチフス菌だ」

 犯人の名前だった。

 こいつが、多くの人間を殺していた。

 犯人がわかれば対策はスムーズである。

 サルモネラチフスは、腸チフスと呼ばれ、腸への局所的病変が特徴である。

 初めはネズミやノミを疑ったが、感染ルートは恐らくあの濁った運河だろう。

 チフス菌は水や食物にひそむ。そしてトカゲ人間は水にもぐる。

 誰か数人が菌を持ち帰り、排便などの不始末から周囲に拡大感染したと思える。

 これに効くのはニューキロン系抗菌薬である。死亡率を無処置の四割から、1%以下に押さえ込むことができる。さすがに腸に穴が開いた人間はもうどうしようもないが。

 俺はエイリアンに薬を与えた。完治せずとも、致死率は下がるはずだ。

 原因が分かれば対策も容易い。

 実際に患者らの容態は一気に回復していった。

 彼らは大喜びしていた。

「神よ。あぁ神よ。お告げは間違いでなかった」

 始めに俺を呼びに来たエイリアンは、目の下の肉を上に曲げて喜んでいた。

 どうもこれが笑っている顔らしい。

「そのお告げってのはなんなんだ。誰から聞いた」

「我々の神からです。全知の力を持った異邦の神がいると教えてくださった」

「あんたらの神ってのは実在するのか」

「なにをおっしゃってますか」

「心の中にいる神様か、それとも実際に手で触れられらて、姿の見える神様かって事だ」

「いなければ声は聞こえませんよ」

 そりゃそうだが。

 しかし俺を勝手に宣伝して回るとは、一体どんなやつなんだか。

 もしかしてツリーの親戚みたいなのが他にいるのか?

 それともまたツリーの仕業か?

 俺は興味が湧いた。

 会える機会があればぜひ会ってみたい。

「会いたい? それはけっこう。近々会えますよ」

「なんだって?」

 しかもわりとフレンドリーに会えるらしい。

「五日後、街の子供へ洗礼を与えにやってきます。神の洗礼を受けた者は、強い体と共に神の声を聞くことができるのです」

 ダーコが自慢げに語る。

 なるほどな。洗礼にやってきた神もどきの神父を捕まえればいいのか。

 どんなじじいだろうな。もうエイリアンでもなんでも驚かないぞ。

 と思っていたのだが……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ