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医者の俺は異世界で聖書(スマフォ)を片手に神と呼ばれる。  作者: Dr_バレンタイン
5章 『どんな困難な状況にあっても、解決策は必ずある。救いのない運命というものはない』
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KARTE5-3 犯人推理

 こいつらが俺と同じ人間であると過程した上で、ダーコが言っていた「呪い」という病気について、医者としての途中見解を述べる。

 俺は症状が同じ患者の状態を、可能な限り記録した。

 初めは酷い高熱。動けなくて幻覚を見るほどの高熱だ。

 さらに多量の発汗、徐脈、バラ疹。

 第二期は興奮とか、意識障害が見られる。

 便は一日六回から十回。繋留熱けいりゅうねつから拡張熱に。

 最後は吐血に水性の血便。

 その後一旦熱が下がるが、こうなりゃもうおしまい。

 体が完璧に負けた証拠だ。

 ちなみに拡張熱とは1℃前後の起伏がある熱のことをいう。

 敗血症になるとこのタイプの熱が出る。

 説明の説明はややこしいが、敗血症は簡単に言うと、菌と戦う白血球を持った血液が、菌に敗北した症状である。血が菌の培養施設になったと表現してもいい。

「原因が消化器にたまってるなら、腹を裂く必要もありそうだが……」

 輸血技術でさえまともにできない世界だ。

 やはり腹を開いて悪いところを治すなんて芸当はできないか。

 もし消化管穿孔が起きたなら、物理的に穴を塞ぐのが鉄則だ。

 できないとなると患者は絶望的である。

 穿孔せんこうとは穴が開くという意味。

 腸に穴なんぞ開いていたら、食事ができないどころの話ではない。

 遊離ガスも発生したりと、かなり痛いはずだ。

 ちなみに遊離ガスとは消化管外に逃げたガスのことである。

 このような症状が、発熱から約一ヶ月の間で起こる。

 その後は……、まぁ運でしかないな。

 解剖した結果、心室の肥大などは見られなかった。

 ダメージを受けるのは消化器官ばかりである。

 俺は腕を組んでうなった。

 さぁて、犯人は誰かな。

 集団感染ということは、なんらかの原因がある。

 つまり大量殺人の犯人がいるはずだ。

 しかしちんたら考えている暇はない。

 この話は刑事ドラマじゃない。医者の話だ。

 待てば待つほど死人が増える。

 それも指数関数的に。

 犯行から時効、つまり殺害完了までは約一ヶ月。

 しかも恐らく二週間も過ぎれば手遅れになるだろう。

 猶予は二週間だ。

 人間みたいに十五年もの余裕はない。

 俺の頭が悪ければ悪いほど、多くの人を殺す。

 さぁ思いつけ。ひらめけ。捕まえろ。

 誰がこんなことをしているのかを。

 外科は人類の修理工。内科は推理探偵。

 知識と発想力がないのなら、俺は内科医失格だ。

「特徴的なのはバラ疹か。ここからなにか捕まえられそうだな」

 感染症の種類は絶望的なほど多くもない。

 片っ端から検証すれば、そのうちに行き当たりそうだが。

「ここらへんにノミやネズミはいるかな」

 トシュナにたずねる。

「ネズミってなんですか?」

 が、返答は悲しいものだった。

 仕方なく俺が絵に書いて、似た生き物はいないかたずね直した。

「そういうのでしたら、穴を掘れば出てくると思いますよ」

「よし。そいつでいい。罠をしかけて捕まえさせよう」

 ノミやネズミは典型的な感染媒体である。

 歴史的に有名な所じゃ、ペストなんかもネズミが感染媒体だった。

 欧米で多いライム病はマダニが原因だ。

 そこらへんにいる小動物や虫を調べて原因を突き止めるべきだろうか。

 俺は病人がいるという家々を回ってみた。

 症状は皆似たようなもの。おまけに皆呪いだなんだと言って、金のある連中はやっぱり詐欺師こと牧師を雇い、わけのわからない薬を飲んだり、汚い水を傷口にかけたりしていた。俺からすればトドメを刺しているようなもんである。

 彼らの管理は俺一人じゃとてもカバーできない。

 だからトシュナにもある程度任せているんだが……。

「トシュナ、あまり勝手に動くんじゃない」

 彼女は思ったよりも自分勝手に動いていた。

 俺の意図する範囲以上の仕事をしてしまう。

「ですが」

「患者がかわいそうなのはわかる。でもトシュナが倒れたら俺が困る。俺が困ったら、大勢が困るんだ。わかるな」

 街にはとある縦長のテントがある。

 俺はそこにトシュナが近寄らないよう指示していた。

 テントに近寄るとわかる悪臭。うめき声。

 貧乏人用の隔離施設である。

 普通の人間ならゲロ吐いて逃げ出すような場所だ。

 テントの中には左右に等間隔で並べられたベッドがあった。

 いや、ベッドといっても、ござレベルである。

 ほとんど地べたに寝かされているに近い。

 せめてもと下に枯れ葉が敷かれているが、良い状態とはいいにくい。

 やはり便はそのまま垂れ流しだ。

 一人一日十回の便を丁寧に始末するやつはいない。

 医者でもなければ、中を覗いただけで踵を返すだろう。

 このテント設営指示を出したのは俺である。

 なんといっても感染拡大だけは防ぎたい。が、これはどうかと思う。

 トシュナが懸命に世話をしているが、正直墓地手前である。

「隔離は正しい処置だけど、衛生状態が最悪だな」

 俺は一旦隔離テントから離れ、ダーコを呼び、話をつけた。

「便がそのままなのは特に良くない。下痢が酷いのはな、体が悪い菌を外に吐き出してるから、あんなに出まくるんだ。つまり便は菌の塊。ほうっておけば二次感染が起こる。原因はまだわからないが、少なくとも被害の拡大は防ぎたい」

「では神よ、我々はどうする」

「穴を掘って便を一カ所に埋めよう。もちろん健常者にも徹底させる必要がある。健康に見えても、実は発症するまでの潜伏期間だったりするんだ」

 現代日本人からすれば、トイレの指導なんかしなくてもと思うかもしれないが、彼らが持つトイレの概念は軽薄だった。

 桶にベッと出して、外にベッと撒く。

 これじゃいつ人や食物にひっかかって、二次感染が起こるかわかったもんじゃない。

「重大な被害を出す感染症のほとんどは野ネズミやダニ、ノミが原因だ。駆除を徹底したほうがいいな。そうでなくても、菌をまき散らすキャリアーになりかねない」

「よし。そのぐらいだったら我々にもできる」

「患者には十分な水分補給をさせるんだ。ただし全部一度沸騰させた水だぞ、生水だけは飲ますなよ。きっと新しい菌に対処できる抵抗力はないはずだ。もしかしたら日和見感染で死ぬ可能性もある」

 日和見感染とは、体が弱っていて、本来かかるはずのない病気にかかることである。

 水については俺が直接持ってきても構わないが、一人二人の病人相手ならともかく、住民全員を支えきる、なんて芸当はできない。

「すごいな……。我々にはどうして良いかまったくわからなかったのに、神は的確に我々を救ってくださる。やはりお告げは正しかった」

「人を救って当然だろ。だって俺はドクターなんだから」

 対処法を施しても、所詮は後の祭り。

 真の問題解決は犯人が誰か突き止めることである。

 ホームズか金田一ならそろそろなにか特定しているところだが、俺は一端の医者だ。

 さっぱり思いつきもしない。

 まぁ金田一が医学に詳しいと思えないけど。

 血液培養をしたい。

 糞便も採取しておきたい。

 証拠は山のようにある。必要なのは判断できる知識だけだ。

推理パートです

そんなに難しい感染症でもなく、わりとポピュラーなものなので、ちょっと詳しい人はすぐわかるかもしれません。

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