サクヤⅡ
第三話です。
「――というわけなので、明日庭を使うわね、お父さん」
コクトの言葉を聞くなり、アルアは微笑んで父に言う。
「ああ。二人とも頑張りなさい。」
「ええ!」
「はいっ!」
二人は意気込む。当たり前だ。お互いに、願いを叶えるために。
「ルールは…いつも通りでいいわね?」
「ええ」
「?」
アルアとサクヤのやり取りに、コクトは首をかしげる。いつも通り?
「あっそっか…コクトは知らないわよね。」
サクヤは納得したように言ってきた。アルアは慌てて謝った。
「ごめんなさいね。サクヤと私でよくやるのよ。」
「ほ~仲がいいんですね。」
「ふふ。本当にいい子。じゃあ、改めて説明させてもらうわ。よく聞いといてね。」
「はい」
「ルールは簡単。先に一本取った方が勝ち。または、降参と言わせれたら勝ちよ。」
「そんなに簡単なんですか!じゃあ、すぐ終われますね」
コクトは驚いた。勝負とは、そんなに簡単にできるのか。
「…そう思えるのは、今だけよ」
肩をすくめて言うアルアに、コクトは首を傾げたが、答える者はいなかった。
アルアは、さっと話を切り替えた。
「さ、そうときまったらもう寝ましょう。コクトくんも、疲れているでしょう?」
「は、はいっ」
なんか言ったのだろうか。申し訳ないです…。と、心の中で謝る。
すると、サクヤが姉の言葉にうんうんと頷きながら続けた。
「確かにそうよね。この町まで、ずっと歩いてきたんだもんね」
アルアは、軽く頷いて言う。
「じゃあ、コクトくんはサクヤの部屋で…」
それに、すかさずサクヤは言い返す。
「なんで私の部屋なのよ!」
アルアは、気楽に答える。
「だって、サクヤの部屋が一番広いじゃない」
サクヤはうっと詰まった。
父と母は同じ部屋だし、アルアの部屋にはサクヤ特製の試作品やなんやら置いてある。
一人が寝るのがやっとな小さな寝台しかない。
その点サクヤの部屋は、アルアと同じ広さだが、家具は少ないし、物もあまりない。
「そ、そうだけど…」
「決まりね。コクトくん、お風呂どうぞ。私たちはもう入ったから。残り湯で申し訳ないけど」
サクヤが詰まって、言葉を探していると、すかさずアルアは続けた。
「ありがとうございます」
コクトは、軽くお辞儀をして礼を言った。
「ふう…いいお湯だったなぁ」
コクトは風呂からあがると、母屋と風呂をつなぐ渡り廊下から外を見ていた。
廊下は、木でできており、床と天井は満遍なく木が敷き詰められているが、横は腰から上の高さぐらいから窓が天井まで伸びていて、外の夜景を堪能できた。
もう亥の刻をまわっている。街に灯りはぽつぽつとしかなく、静けさが漂っている。
それは、どこか、母と暮らした山を思い出させる。あの山も、静かだった。
物思いにふけるコクトに、少し離れた所から声が上がった。
「明日、本当にやるつもり?」
コクトがなかなか帰ってこないので心配だと姉に言われ、仕方なく見に行くと、コクトは渡り廊下から外を見ていた。
声をかけると、無表情だったその顔に、見る間に表情が戻っていく。
「サクヤさん…」
驚いていない彼の横にサクヤは立った。
「やっぱり、サクヤでいいわ」
年下には、『サクヤさん』と呼ばせてるのだが、彼ならいいかも。
「―この町は、とっても平和だわ。領主さまも、良い方だし。」
するとコクトは、早速敬語を止めた。
「―……この町を、離れたくないのか?」
サクヤはこの町を好きだ。ずっとここで暮らしたいとも思う。でも。
「…この町は好きよ。この町に住む人たちも。だけどね」
「……」
コクトは黙ってただサクヤをじっと見ている。
「私だって、この町から出て、旅をしたいと思ったことはあるわ。」
「なら!」
コクトは、ぱぁっと顔を明るくするが、サクヤは、下を見て、小さく言った。
「でも、出られないのよ」
「なんでだ?旅に出たいんだろ?一緒に行こう!」
コクトは、首をかしげつつも手を差し出す。
「-………」
サクヤは、なぜか、震えている。一体どうしたのだろう?
「大丈夫か?」
しかし、その言葉にこたえる間もなく、サクヤは気を失った。
大きく伸びをしながら、コクトは起きた。
「ふぁ~…」
結局昨夜は、アルアとサリーを呼んで、サクヤはサクヤの部屋で、アルアと寝ることになった。
コクトはアルアの部屋で寝た。最初この部屋に入った時は驚いたものだ。
部屋の半分を槍やこてなどで埋められていたからである。
「サクヤ、大丈夫かな」
こんなことがあったのだから、もう、遊びといえど、少し無理があるだろう。
そう思っていると、コンコンとノックがした。
「コクトくん、起きてる?」
アルアだ。
「はい、起きてます」
それを聞いたアルアは、入るわよ、といって中へ入ってきた。
「おはよう。突然だけど、聞いていいかしら?」
「いいですけど…」
「昨日、サクヤと何話してたか教えてくれない?サクヤ、まだ起きないのよ…」
「…!」
それで、コクトはすべてわかった。
「つまり、サクヤが目覚めない原因は、昨夜話した内容だというのですね。」
それに、アルアはこくりとうなずく。
「ええ。疑うようで悪いんだけど…」
「……わかりました。覚えている限り、全て話させていただきます。」
サクヤは、気絶するまで、元気だった。夕飯も残さず食べていたし、顔色も良かった。つまり、身体的に異常はなかったのだ。
だが、コクトと話したことによって彼女は震え、そして気絶してしまった。
きっと自分のせいだろう…そう思っていたから、コクトはアルアにサクヤと話した内容を言い始めた。




