第一話 理由 問題編(2)
私の手札を見た水原が固まる。漫画ならば後ろに、ガーン! と描かれていることだろう。
「さて、これで水原が破産したけど、まだする?」
全員が無言で首を振った。まったく、これでは不完全燃焼だ。そう思っていたら一橋が口を開いた。
「ポーカーはやめにして、大富豪でもしないっすか?」
ふふ、私は一橋のこうやって墓穴を掘るところが大好きだ。弄りがいがある。
「いいけど、大貧民は大富豪にアイスを一本奢ることにしない?」
「はにゃ? 身ぐるみはがされそうな気が……」
「何よ? 私はさっきのポーカーでコイン一枚につき十円とかにしたかったのを我慢したのよ? ぼろ儲け確実なのに」
「そりゃお前なら大勝確定だからな。現に水原が破産したし」
「ぼー」
水原は今だに固まっていた。さすがに演技だろうが、ここで普通に振る舞っていたら金をむしり取られると判断したのだろう。宮門がいれば、嘘臭いと言われて攻撃されるのだろうが。
「学生が日本で賭け事はやばくないっすか?」
「別に一枚十円ならいいじゃない?」
「このコイン最低でも×100ってかいてあるんだが……」
「高峰君♪ 死んでみる?」
余計なことを言った高峰をに笑顔を向ける。いい加減口は災いの元なのだと叩き込むべきだろうか?
「し、失礼しました!」
まあ、素直に謝ったので今回は処刑を見送るが、注意はしておく。
「仏の顔は好きなだけだけど、私は仏ほど優しくないから次で処刑ね」
「わ、わかっ……ん? 意味が分からな――」
「さっすが高峰君! 予想通りの反応をありがとう! というわけで逝ってみましょうか?」
私はしてやったりの笑顔で高峰に微笑んだ。
「にこやかな笑顔が逆に怖い! つーかハメられた!?」
「大丈夫。考えられる限りの拷問を施した後に、狂死するまで寝かせないだけだから痛くないわよ」
「どこがだ!?」
「私が。想像するだけで楽しすぎるわ」 私から視線をそらして高峰が呟く。
「ドSが、いや悪魔がいるわ……」
「やあねぇ、悪魔ごときと一緒にしないでよ」
高峰の失礼な呟きに反論する。悪魔だなんて全然エレガントじゃない。せめて魔王ぐらい言ってくれないと。
「魔神がここにいる……」
魔神、ね。悪魔よりはましだけど、どうせなら魔をつけないでほしみものね。
「まあ、今回は見逃してあげるわ。だけど私は有言実行だからね?」
「さっき言ったことを……」
高峰が突然口を噤をだ。きっと、実行してないぞ、と言いかけたのだろう。惜しいものだ。
「そろそろ休憩を終わりにして大富豪をやらないっすか?」
休憩をしていたつもりは全くないが、高峰を見かねたというのならここらへんで終わりにしておこう。どうせこれからまたいじめるのだし。
「そこ、最下位だった奴が切りなさい」 「えー」
清水がシャッフルしようとしたのを止めて、水原に命じる。金を取らないのだからこのぐらいは罰ゲームとして当然だ。
「嫌なら良いのよ? 私が切るだけだから」
「切らせて頂きます」
一瞬で態度を変える水原。ちっ、私に切らせてくれたら手札が凄いことになったのに。誰も勝てない的な意味で。
配られた手札を見る。両極端な手札で、どちらかと言えば弱い札が多いが、勝てない手札ではない。
「さっき優勝したから私からいくわよ? 嫌なら私に勝ちなさい」
「無理でしょ!?」
一橋が反射的にツッコミをいれてくる。良い反応だ。
「そう? ならしょうがないわね。一橋、私が負けたらあんたが殺されるじゃんけんで決着を――」
「どうぞ初めてください!」
「……なんて横暴な……」
高峰がボソリと漏らす。残念ながらきちんと聞こえているので、後で死んでもらうとしよう。
「最初はなにを出しましょうかね?」
私は自問する。最初の内は誰しも出し惜しみするので強めの札を出すと序盤は簡単に優勢に立てるが、後半はつらい。だが、これを解決する方法を私は持っているので、飛ばしていく。
最初にJのカードをだすと、他の人間が眉を潜めた。
「パス」
「私も」
一橋、清水が私の読みどおりパスするが、水原はこちらの思惑に乗らなかった。さすがはこのなかで私に次ぐ実力者だ。
出されたのはQのカード。くくく、これで水原の勝ちはほぼ消えた。
私以外の人間は手札を綺麗に並べているため、どこから札を出すかである程度強い札と弱い札が何枚あるのか、読み取れる。これが宮門だったら、並べないのでこの手は使えない。
私にいたっては並べた振りだ。
御託はともかく、私の方が強い札が少なそうだ。まあ、水原が私のように並べた振りをしていないなら、だが。
私と水原が強い札を中心に出し合う。残りのメンバーもぽつぽつと出してくる。
「悪いけどこれで流して革命よ」
2の札で山を流して、5で革命を起こす。強い札、つまりは今から弱くなる札を出し惜しみしていた清水、高峰、一橋の顔が青くなる。
この後も私の作戦通りに進んだ。
誰も革命返しを行えず、弱くなった札を持たない私が一位、少し持っていた水原が二位で、他の三人に圧倒的な差をつけてあがる。後はダンゴだ。
高峰もあがり、一橋と清水の一騎打ちとなる。手札を覗いた限り、どちらが勝ってもおかしくない。
「イーちゃん、降参しなさい!」
「は、ちょ、何を言うんですか!?」
清水の唐突な言葉に一橋が驚く。
「さもないと……」 「さもないと?」
「私の持ってる本を読ませるわよ」
一橋の顔から血の気が失せる。清水の言う本とはまあ、男子が読むようなものではない。読むようならそいつは特殊な性癖の持ち主か、宮門のような活字ならなんでもいい読書中毒者かのどちらかだ。
「ぐ、誰がそんな脅しに……」
「いいんじゃないの清水? 私も手伝うわよ」
一橋の顔が面白いくらい青くなる。ゾンビも裸足で逃げ出すほどだ。
「……降参します」 頭をうなだれて、塩をかけたナメクジみたいに弱々しい一橋 を見ていると、心の琴線に何かが引っ掛かる。何故かは分からないが――こう、いじめたくなる。
「じゃあ、約束どおりアイス一個おごりということで」
「マジだったんすか!?」
「私は有言実行だって言ったはずだけど?」
「うう、良い言葉のはずなのになんではた迷惑に聞こえるんすか?」
「はた迷惑なことしか言わないからだろ」
どうもお久しぶりの土水一日です。
社会人の予想以上の忙しさに投稿が随分遅くなってしまいました。
そのくせ事件が起きるまでまだまだかかるという……
これが終わらないと「秘められしものは……」も進められないので頑張って早く第一話を終わらせられるようにしたいです