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物言わぬ花嫁  作者: さい
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【蛇足.01】翌日とその後の間 イェド視点

 今更、恋について考えるのは馬鹿馬鹿しい、とイェドは首を振る。

 娼館育ちのせいか痴情の縺れなど、飽きるほど見て来た。僧侶になった後ですら、念弟(ねんてい)になれだのなるだの、人妻からの誘いだのと色恋の話は絶えなかった。何故皆が皆、それほど肉欲を満たしたいのかと疎ましく思いながら 大人になり、歳はすでに二十の半ばである。

 イェドはまったく精神の恋を信じていなかった。自分を見る者達の熱を孕んで粘ついた視線は到底、そんな清らかなものではなかったからだ。

 人もまた獣の一種である以上、心と身体を完全に切り離せはしない。どこかに精神のみの恋があるとして、恐らくそれはなかなか稀有な例なのだろう。

 よって恋とは僧侶の、否、自分に似あわぬ浮ついて醜いな何かだと避けて来た。

(……だが)

 それでもあえて再考するなら、恋とは、どうやら騙まし討ちで飲まされる酒に似ているようだ。

 気が付けば喉が熱に痺れて、なんとなく息苦しい。頭の芯がふらふらする。普段より口が滑って、自分でも妙だと思いはじめる。そのうち、周囲から頬が赤いぞなどと指摘されてしまう。

 まさか、もしや。酒でも飲まされたのだろうか?

 だんだんと自分は酔っているのかと疑いを持つはいいが、果たしていつ飲んだ何に酒精が入っていたか、答えてくれる者は居ない。

 結局、酔いは思い込みか何かの錯覚かもしれないのだ。

(……なのにどうやって)

 人はソレに落ちたと得心するのか。ソレが初めてだの二度目だのと吹聴できるのか。

 到底口に出すことなど出来ず、自身を嫌悪しながら、イェドは追い出されるのを承知で尼院の門を叩く。


「……彼女の具合は?」

「貴方もエン師から任されている立場があるんでしょうけど、こう毎日確認されては、我々に何か不信がおありなのかと思いますよ!」


 応対に出た副院長から、嫌味ののちにコナの熱は下がったと教えられて、安堵の溜息をついた。

 ハイラハから逃れた日、体調を崩して倒れたコナを尼院に預けたきり、イェドは彼女ともうまる三日顔を合わせていない。

 彼女は個性が強い容姿でもないので、そろそろ記憶が薄れても不思議はないはずだが、そうならないのは何故なのか。

 物憂いイェドの表情を、尼僧達が奥からこっそり覗いて退屈な日常に色を添えていることに気づき、副院長が彼を出入り禁止にするまであと数分の出来事である。



お約束の蛇足番外、というか本編補足です。

これでは補足になっていないので、もう少し蛇足は続く予定です。どの順番で出すか迷ったため時間がかかってスイマセン。

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