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物言わぬ花嫁  作者: さい
27/35

27.翌日

 夜が明け、ハイラハの街に百年続く伝統の竜神祭、最終日が始まった。

 街には市民の笑顔と喧騒が飛び交い、派手やかな催しと極彩色の山車、音楽と紙吹雪が晴天を彩る。その裏舞台で動く金と利権と暴力に関しては、大多数の市民の関与するところではなかった。

 祭は霊峰から湧く大河ウィグムの恵みに感謝し、荒れ狂う氾濫が起こらぬよう祈る。

 しかしながら祭りの夕、血のような太陽が沈む時間……領主が地下で人知れず婚儀を執り行うはずの『竜の花嫁』は、深夜になっても現れることはなかった。

 

 だがハイラハ西城門先の関所には、夜明けより二時間も前に、花嫁を捕らえるための知らせが回っている。曰く、人目を引く薄紫の目をした僧侶が居たら取り押さえること。服を替えている可能性はあるが、出家の切り揃えた髪やあの美貌が目立たない訳がない。

 花嫁衣装を脱いだ地味な小娘よりも、ずっと探しやすいはずだった。見つけたら、後は数人で取り囲んで殴りつけ、花嫁の居場所を吐かせればいい。

 さらなる用心として、関所にはリジムが張り付いた。

 関所への道中、彼らが花嫁と僧侶を見つけることはなかったが……礫砂漠が広がる周囲だ。夜が明けてしまえば、付近に身を隠す場所は少ない。

 

 当然といえば当然だが、自分達の保身のため、ダリバ達は城門の内扉が開くまで組織への報告を行わなかった。もう一度宿を捜索したがやはり花嫁は見つからず、追求を逃れるために、ダリバ自身も手下を増やして外へ出たくらいだ。

 だが夜が明け、人が動き出し、昼が来て再び日が暮れても、コナとイェドを見つけることは出来なかった。ダリバ達は昨夜から続けていた危うい綱渡りから、落ちた。

 

 ***

 

 そも竜神とは、ハイラハもそうであるように、水と河を象徴することが多い。

 聖都がその教えを幾ら広まろうとも、実際土地に横たわり、時に荒れ狂う河への畏怖は人々からそうそう消えるものではない。雨季になれば河は氾濫し、堤が崩れ、時に命を落とす者もいる。それでも皆、水なしに生きられないからだ。

 大きな街にはなおさら、多くの水が要る。ハイラハは大河ウィグムからの支流を引き込み、領民の生活を潤していた……だからこその『竜神祭』である。

 

 付近の地理を説明すれば、街のほぼ真北には山々が連なっている。

 そこから流れるウィグムは蛇行しながらも南へ向かう。河を避けて通る山からの道から、コナはハイラハへと連れて来られ、関所を通って西門へと着いた。エン達は別の場所から来たが、関所からの道は同じだ。

 そしてハイラハを貫くウィグムの支流は、北西から東へ流れている。

 

 人は暗闇の中、何の目印もなしに道なき道をそう長く進めるものではない。

 イェドはコナを背負い、右手に聳える城壁の姿を頼りに、ひたすら北へ礫(れき)を踏んだ。灯りの油が尽きた頃からはコナも自分の足で歩き、夜が白み。

 ようやく辿り着いた目的地から、二人は水路を取った。祭のために酒を運ぶ早朝の船に乗り、河の流れに沿って一度ハイラハに入り……下流から野菜を運んで来た別の船に乗り換えて、東へと抜けたのだった。


残り(多分)一話となります。

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