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物言わぬ花嫁  作者: さい
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01.冒頭

ある『城壁宿』にて、煩い老僧と寡黙な美僧と訳アリ花嫁が、知恵を絞って脱走を謀ります。どこまで出せるかミステリ風味、とことん地味めの恋愛ファンタジー。

 これはある地方都市の物語。

 兄貴曰くヒトが蟻みたいに集る、やけど王都や聖都のヒトには凄く田舎のほうのことやね。うちが誰やろって言うんはおいおい分かるから飛ばして、先に退屈やろけど、重要な説明をひとつ聞いといて。

 

 話の舞台はそこの『城壁宿』。

 地方都市には付き物やけど、これが他所のヒトにはなかなか分からんみたいやなぁ。

 まず『城壁』について平たく言うと、街を丸ごと囲う壁やね。この国は昔から交易の道途中、広くて平らな土地が多いから、戦に巻き込まれ易かった。そやから、領主サンらの治める街はぐるっと分厚い城壁に囲まれて、街ごと篭城用の造りをしとる。山奥のうちの村なんかと違うとこやな。

 この高い煉瓦の城壁を外から見れば、上のほうだけぽつぽつと窓があって、これは見張りや弓を射るための窓。壁と言うても、中に空間があって、少なくとも城門付近は兵舎や見張りのための部屋があるんが普通なんやって。

 そうそう『城門』は、誰でも分かるやろけど、街と外を繋ぐ城壁の穴、出入り口やね。

 あんまり多ても仕方ないし、大抵は街の東西南北だけにある。

 

 戦乱の世はひい爺ちゃんの頃にいちおう終わった。

 けど、じゃあもう『城壁』なんか要らんよね、とはならんかった。

 帝国がこのへんまで治めることになった後も、それは皇帝サンに上辺ヘイコラすればええだけで、領主サンらはみんな自分がほんまの土地の王様やと思っとる。やのに領主サンの『自治』が認められるんは領主サンの『街』だけで、うちの村みたいなその外は、皇帝サンから『管理』を任されるだけになってしもた。

 そしたら、『街』に囲いがないのはなおのこと落ち着かん。

 それに城壁があるほうが、礫砂漠の土防ぎに役立つし、そもそも頑丈に作ったもんを頑張って取り壊すのも大変や。大抵の地方都市で、壁はそのまま残った。城門の兵隊さんの警備は、呼び名だけ代えて、やけに念入りな入国審査と関税審査になった。

 

 ……ウフフ、田舎モンの割にはうちも学があるやろ? って、商売人なら当たり前の話やけどなぁ。

 

 で、皇帝サンが領主サンの『関税権』に制限をかけたんは、爺ちゃんの時代や。

 場所を運んでかかる税が安くなったら、街の行き来も多くなるやろ言うんが皇帝サンの狙いやったらしいけど、実入りが少ないんは領主サンも困る。

 そやから別の方法で何とか絞りとったろという訳で、余所モンなんかを街に入れる時には一晩か二晩かけて審査をする。ほんまは手続きなんて大してしとらんけど、その間、相手には『城壁宿』にお泊りいただいて、税とは別に高い宿泊費を取るってわけやね。頻繁に行き来する商人なんかは、特別通行書を発行してもらうか(これもお金がかかる)、抜け道として賄賂で審査を免れる。何にせよ、街にええもんが無ければ誰もそんなん何も払わんやろけどね。そのへんは領主サンの手腕によるらしいなぁ。

 

 さてようやく出てきた『城壁宿』。名前は大層やけど、大抵どこでも、城壁の中の兵隊さんがおった部屋を、ちょっと掃除しただけのもんみたい。

 念を押すけど、話の舞台はそこ――街の内側でも外側でもないところ。

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