ep8: 局長の秘密の部屋
都会の駅前や人の集まる場所を毎日のように渡り歩き──
ほとんどの宛名のない手紙を配り終えたハロルは、数ヶ月ぶりに、空に浮かぶ島へと帰ってきた。
向かったのは、島の中心にある、大きな木造の建物。
鳥たちが世界を駆けて集めてくる手紙の集積地──「空の郵便局」だ。
ハロルは、集荷してきた手紙の束と、数通の未配達の手紙をカウンターに置いた。
そして、そこにいた丸眼鏡の白髪まじりの男に声をかける。
「……少し残ってしまったよ、ジェロ」
「えっ? あれだけの宛名不明の手紙を配ってきたのかい? ……ほぉ〜。これだけしか残らなかったとは……」
ジェロは一瞬言葉を失い、感心したようにうなる。
「都会の森で眠るのは、なかなか骨が折れる。しばらく、のんびりするよ」
そう言って、ハロルは手ぶらで郵便局をあとにした。
*
数日後。
ふらりと郵便局を訪れたハロルは、カウンターの奥を覗き込み、少し眉をひそめた。
「ジェロは?」
近くにいた若い局員が答える。
「局長なら……数日前から、局長室にこもりきりです。しばらくお出ましにはならないかと」
「ふぅん……なら、また来るよ」
ハロルは肩をすくめ、踵を返す。
*
その頃、郵便局の最奥にある、ただひとつ──
局長のジェロしか足を踏み入れることを許されていない部屋。
そこは、外の光が届かぬはずなのに、どこまでも明るかった。
天井は見えず、光と風が上へ、上へと抜けていく。
常識では説明のつかない、まるで“世界の狭間”のような空間。
ジェロは、その「天井のない部屋」で、ある存在と対話していた。
「ハロルの処遇は……どうするつもりかね?」
低く穏やかなジェロの問いに、返ってきたのは、どこか静かで、しかし芯のある声だった。
「……そろそろ、戻してもいい頃かもしれないな」
その声の主は、ハロルのすべてを知っているようだった。
ジェロは眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、少しだけ難しい顔をする。
「資格を回復しても……あやつがどう動くか、のぉ……」
部屋の扉を開いて歩きながら、ジェロはぽつりとつぶやいた。




