表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲を渡る手紙  作者: tomsugar


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/58

ep7: 宛名のない手紙

取り留めもなく綴られた手紙の束を、ハロルはテーブルに並べていた。

特に誰宛というわけでもない。ただ、書かれずにはいられなかった言葉たち。


彼は窓際のカウチに触れ、腕を組んで思案する。

空は茜から群青へと、その色を変えていた。


「受け取り手の近くに行けば、手紙が勝手に反応する。……明日は、人の多い場所に行ってみようか」


そう決めると、ハロルは立ち上がり、ひとつ伸びをした。

鳥たちの朝は早い。彼もまた、夜の支度を始める。


           *


夜明け前の空を、ハロルは鳥の姿で滑空していた。

この時間帯、手紙の差出人たちはよく、外で待っている。

いつからか、そんな光景が増えたような気がする。


宛先不明の手紙はカバンの中。ハロルは、まだ人のまばらな街へと降り立つ。

金髪の青年へと姿を戻し、駅前のロータリーの片隅に立った。


「……ここで、1日待ってみるか」


それが最適な方法かは分からない。けれど、他に名案もなかった。


やがて空が白み始め、駅前はにわかに賑わい出す。

電車に急ぐ人、降りてくる人、バスの乗り降りにタクシー待ち。

人々が縦横無尽に行き交いながら、不思議とぶつからない。

ハロルはそれを眺めながら、静かに感心していた。


そんな中、ひとりの人物が、ふと淡く光を帯びて見えた。

かばんの中の手紙が、微かに震えている。


「受け取り手、ひとり発見」


満足げに呟き、ハロルは群衆をかき分け、その女性に手紙を手渡した。

スーツ姿の30代中盤くらいにみえる彼女は、怪訝そうにハロルを見たが、無言でそれを受け取ると、人波に流されていった。


ハロルはまた元の位置に戻り、人々の流れを見つめ続けた。


           *


深夜、最終電車が発車した。街にはまだ夜を楽しむ人々が沢山あるいている。

ハロルは小さく息を吐いた。


「……1日かけて、1通か」


それが多いのか少ないのか、答えは出ない。

そう思いながら、その場を後にしようとしたとき──


「あの……!」


女性の声が、背中から呼び止めた。


振り返ると、朝の彼女がそこにいた。

目には涙を浮かべ、けれど、まっすぐな表情だった。


「今朝いただいた手紙で、もう一度やり直してみようと思えました。ありがとうございます」


深々と頭を下げる彼女は、言葉を続ける。


「……なにか、察して届けてくださったんですか?」


ハロルは少し口を開きかけて、肩をすくめた。


「いや、まあ……うん。そんなとこかな」


「本当は、今日で全部終わらせるつもりでした。でも……あなたに会えて、救われました」


その声は途中から震え、最後は涙にかき消された。


「……俺は、ただ配達しただけさ。気にしなくていい」


ハロルの返事は素っ気なかったが、その声はどこか優しかった。


彼女はもう一度頭を下げて、今度はゆっくりと背を向けた。


ハロルはその背中を見送りながら、小さく呟いた。


「……1日1通でも、上出来じゃないか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ