ep49: ミルクティーと手紙
ゆったりとした街路樹が並ぶ郊外の一角。
そこから少し入った先に広がる公園の一角に、ガラス張りのカフェがあった。
朝の柔らかな光を受けて、芝生はうっすらと露に濡れ、歩道には焦げ茶色のタイルが整然と敷き詰められている。
チトとマリエルは、そのカフェの前に立つ一本の大きな樫の木にとまっていた。まだ鳥の姿のまま、枝の間から店内をのぞき込む。
開店から間もない時間だが、朝食を楽しもうとする客が続々と訪れ、カップの音や笑い声がガラス越しに微かに届いてくる。
「次の配達先は、ここなんだ」雀の姿のチトが言った。
「お客さん、たくさん来てるけど大丈夫?」
「うん、それが問題なんだよね。ほら、窓際でミルクティーを飲みながら本を読んでる男の人、見える?あの人が配達先なんだ」
「なんでわかるの?」
「前にも配達したことがあるからさ。最初は家で待ってたんだけど、全然帰ってこなくてね。あとで聞いたら、いつもここにいるって言うから、それ以来ここまで来てる」
「そんなにたくさん話したの?」
「昔は結構、普通に会話してたんだ」
「そういえばハロルさんも、そっけなかったね」
「ハロルはもともと、ああいう感じ」
チトはケラケラと笑い、少し楽しげな表情になった。
「ここでずっと待つの?」
「うん。あの人はもうすぐ店を出るから、そのあとについていく」
「わかった」
しばらく待っていると、チトの言う通り、ミルクティーの男性は店を出て歩き出した。二人はすぐ後を追い、男性が近くの森へ入ったところで地面に降り立ち、人の姿になった。
男性は公園を抜ける小道を進んでいた。
背後からついてくるチトの気配には、最初から気づいていたらしい。
やがて人気のない森の中に入ったところで立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「わざわざ来てもらって、すまないね」
彼はまずチトを見、それからマリエルに視線を移す。
「友達かい?」
「後輩だよ」
「そうか!君も先輩になったんだな!」男性は嬉しそうに笑った。
「手紙の配達だ」
チトが告げると、マリエルが手紙を手渡した。
「あぁ、ありがとう。返事を書くから、うちに来て待っててくれ」
それは慣れたやり取りのようで、チトも無言で頷く。
森を抜けると、やがて大きな家が並ぶ静かな住宅街に出た。
道沿いにはよく手入れされた庭木が並び、その奥に堂々とした日本家屋が建っていた。
玄関脇の砂利道を抜け、縁側の前に出ると、チトは迷うことなく腰を下ろした。
その様子に倣って、マリエルも静かに座る。庭の隅では、きれいに剪定された松の木の枝が、緩やかな風にゆらゆらと揺られていた。
ほどなくして、家の中から香ばしい香りが漂い、男性が湯気の立つお茶と彩りの美しいお菓子を盆に載せて運んできた。
「ありがとう!」チトはお菓子を一口で頬張る。
「ありがとうございます」マリエルもお茶を口にした。
「おじさん、今日のお菓子も絶品だ」
「はははは!それはよかった」奥から声が響く。
「ねぇ、こんなに仲良くしててもいいの?」マリエルが小声で尋ねる。
「わかんないけど、いまのところ怒られてない」チトはいたずらっぽく笑った。
やがて男性が封筒を手に現れ、「お待たせ」とチトに渡し、マリエルに「後輩君も頑張ってね」と声をかける。
「はい、ありがとうございます」マリエルはお辞儀をした。
チトはその場で鳥に変わり、空へと舞い上がる。マリエルも後を追い、二つの影は朝の空に吸い込まれていった。
男性は縁側に立ち、見えなくなるまで二人を見送っていた。
*
―――
安江へ
天国にいる君との文通も、これで何往復目だろうか。
君の手紙を、あの雀の男の子が届けてくれることが、今の僕の楽しみのひとつになっている。
今日は、彼がガールフレンドを連れていたよ。
「後輩だ」と言っていたけれど……あれは、きっとガールフレンドだね。
茂より
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