ep4:仕分け係の苦悩の日
ハロルは窓際のカウチで、ノートに羽ペンを走らせていた。
部屋に差し込む光が、長く細い影を床に描いていたが、今はもう、影はほとんど消えていた。
『消えた写真』『崖の上の少年』『迷い猫』──
タイトルを打ち、それぞれの出来事を書き終えると、ハロルはそっと立ち上がった。
「そろそろ配達の時間かな」
ひとりごとのように呟いて、玄関のドアを開ける。
*
島の中心にある木造の大きな建物──それが、集荷された手紙を扱う、鳥たちの郵便局だ。
扉をくぐると、局内は今日も賑やかだった。
紙のこすれる音、局員たちの声。みな、せわしなく行き交っている。
「今日は一段と忙しそうだね」
ハロルがカウンターの奥に声をかけると、ジェロが眉をひそめた。
「宛名不明、返送先不明の手紙が山ほど来てるんじゃよ。まいったね、こりゃ」
そう言って、ジェロは封筒をひとつ手に取って見せる。
「たとえば、これ。『ようせいさんへ』って書いてあるじゃろ」
「妖精……?」
「そう。だが、妖精なんて無尽蔵にいるじゃろ? どの妖精かもわからんから配達のしようがない」
ハロルは封筒に視線を落としながら、さらりと提案する。
「中を読んでみたら、だいたい見当がつくんじゃないか?」
「中を見るのは規定違反じゃ」
ジェロは即座に首を振る。
「じゃあ廃棄するの? それより、なかみを確かめたほうがいいと思うけどな」
ハロルの言葉に、ジェロは一瞬黙りこむ。
カウンターの奥で別の作業をしていた手を止め、ちらりと横目でハロルを見た。
「……木の葉の上に座ってる妖精な気がする」
「ほう、中を読んだんだね?」
ハロルがにやりと笑うと、ジェロは両手をぶんぶん振って否定した。
「読んでおらん! そんな気がしただけじゃ!」
ハロルは肩をすくめる。
「この手紙が誰かの人生を左右するかもしれない。届けられるものなら、届けたほうがいい」
その言葉に、ジェロの目がぱっと光る。
「あっ、いいこと思いついたぞ!」
そう言って、彼は宛先不明の手紙の山をごそっと袋に詰め、カウンターに持ってきた。
「ハロル、これ、ぜんぶ配達頼めるかい?」
ジェロは、上目遣いでにこっと笑う。
「おいおい……さすがに多すぎるだろ」
苦笑しながらも、ハロルは袋を受け取って肩にかける。
「頼りにしてるよ、ハロル!気を付けてな!」
ジェロの声が、局内に響いた。
ハロルは背を向けたまま、ひらりと手を振った。




