ep47: 担当の先輩
澄んだ空気の中、島を囲む雲海が淡い桃色に染まり、遠くの水平線には夜明けの光が帯のように広がっていた。
チトとマリエルは、早朝の空の島に降り立つ。
着地するやいなや、チトは人の姿になり、まだ朝露を含んだ道を小走りで郵便局へ駆け込んでいった。
カウンターの奥では、ジェロがいつもの落ち着いた様子で帳簿をめくっていた。
少し遅れてマリエルも姿を見せる。
「あぁ、二人ともご苦労じゃったの。やはり赤道付近は難所か?」
「うん、そうだね。でもハロルに攻略方法を教えてもらったよ!」
「うんうん、そうか。――ふたりとも、話がある。こちらに来なさい」
ジェロは二人を奥の別室へ案内した。
朝日の差し込む部屋で待っていると、ほどなくしてエリオットも静かに入ってきた。
「マリエル、これからしばらくはチトの配達についていきなさい」
ジェロの言葉にマリエルが瞬きをする。
チトは翼級こそ下から二番目の〈白翼〉だが、ここ一か月の配達件数は局内トップクラス。将来を有望視される配達員の一人だった。
マリエルと相性も良さそうだ――そんなエリオットの進言もあり、当面は簡単な配達エリアをチトと回ることが決まった。
*
――おまえの役目は、マリエルに下界の人との接し方の見本を見せることじゃ。
チトは、配達先へ向かう途中、ジェロの言葉を何度も反芻していた。
郵便局の規約は、このところ一層厳しくなっている。
配達先の人間以外とは会話してはいけない。
配達先の人間に感情移入してはいけない。
配達先の人間に郵便物以外の物を渡してはいけない。
――禁則事項は山ほどある。
だが、机上の空論だけでは対応できない事態が、現場では起こり得る。
だからこそ、今マリエルはチトのそばで仕事を見学し、実地で学んでいるのだ。
*
二人は大きな島の上空へと差しかかり、最初の配達先を目指して降下を始めた。
「マリエル、規約のこと、ちゃんと頭に入ってる?」
「たぶん…」
「あれで一番難しいのは、配達先以外の人間と話しちゃいけないってところなんだ」
「話しかけられたら?」
「無視するか、首を縦か横に振るだけ…どう考えても変だよな」
「うん、本当に難しそう」
「だから、できるだけ配達先の真上から着陸して、人と会わないようにしてる」
「そうなんだ」
「マリエルは、配達先の人って光って見える?」
「え…?見えないけど。チトには見えるの?」
「違う違う、ハロルがそう言ってたんだ」
「私には見えないみたい」
「そっか!じゃ、行くよ!」
二人は、ある商店街の裏通りへと降り立った。
――商店街には、すでに朝の買い物客がちらほら歩いている。
誰とも話さずに配達を終えることなんて、本当にできるのだろうか。
マリエルはそんな不安を胸に、チトの背中を追って歩き出した。




