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雲を渡る手紙  作者: tomsugar


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ep43: 桃色の雛

桃色の髪の少女は、まだあどけなさの残る寝顔で、かすかな寝息を立てていた。

ヴィオレッタは、傷だらけの小さな体をそっと拭い、前で合わせる柔らかな寝間着に着替えさせる。

長い髪に優しくオイルをなじませ、一つのみつあみにまとた。これ以上、痛まぬようにと願いながら。


やがて、ジェロの言った通り、少女はすぐにまぶたを開いた。


――ハロルのときは、一週間以上も目を覚まさなかったと聞いたけど、彼は、どれほど深い傷を負っていたのだろう。

目の前で瞬きをする少女を見つめながら、ヴィオレッタの胸に、静かな痛みが広がっていった。


「おはよう。ちょっと待ってて、今スープを持ってくるから」

そう言って、ヴィオレッタは静かに部屋を出ていった。


           *


少女は、まだ茫洋とした頭の中で、ここがどこなのかもわからずにいたが、光と雷鳴の轟きが、断片的に脳裏をよぎった。


やがて、黒髪の女性が優しい笑みをたたえ、スープを乗せたトレイを手に戻ってきた。

「私はヴィオレッタよ。あなたの名前は?」


桃色の髪の少女は、かすれた声で答えた。

「……マリエル」


ヴィオレッタは小さくうなずき、膝の上にスープのトレイをそっと置いた。

「自分で食べられる?」

「はい」

声は弱々しいが、マリエルは、しっかりとうなずいた。


           *


数日後、マリエルは自分の足で歩けるようになり、身の回りのことも少しずつこなせるようになっていた。

看病してくれた優しい女性――ヴィオレッタは、他にも仕事があるらしく、マリエルが動けるようになると、静かにどこかへ行ってしまった。


部屋を出入りする足音、優しく落ち着いた声、それが途絶えた時、ほんの少しだけ胸の奥に寂しさが広がった。


それからの日々、マリエルは郵便局の外を散歩したり、局員たちの働く姿を眺めて過ごした。

そんなある日、赤髪の青年が歩み寄ってきた。


「君が、今回堕とされた子だな?」

唐突な言葉に、マリエルはきょとんとしたまま答えられなかった。

「あっ、悪い。俺はニール。君の先輩だ。よろしくな」

軽く片手を上げると、彼はひらりと身を翻し、そのまま郵便局の外へ出て行った。


「彼は、うちのエースの一人、ニールだよ」

そばにいた教育係のエリオットが、少し誇らしげに説明してくれた。


「明日からは郵便局の雑用をやってもらうからね。今日は自由にしていていい。外にはマーケットや果樹園もあるんだ、行ってみるといい」

マリエルはこくりとうなずく。


           *


マリエルは勧められるまま局を出たが、島のみんなのように飛べないため、うっすら獣道と分かる道を歩いていく。

しばらく歩くと、賑やかな声と香りが漂ってきた。そこがマーケットだった。


「あら、見かけない顔だね。新入りさんかい?」

「はい」

そんなやり取りを何度繰り返したことだろう。


果物の屋台の前で足を止めると、山のように積まれた色とりどりの実の中から、店主が赤く熟れたひとつを差し出してきた。

「あら、新入りさんかい?これ、どうぞ」

「でも……お支払いはできないんです」

「いいのいいの」

気のいい笑顔に背中を押され、その場で口に含むと、甘い香りが広がった。


いくつもの店で声をかけられ、気がつけば両腕いっぱいの紙袋を抱えていた。

郵便局に戻るころには、空は茜色に染まっていた。


居住スペースから出てきたジェロが、目を細める。

「ずいぶん沢山もらったね」

「はい」

「さ、夕飯を食べて寝なさい。明日から仕事だろ」

促されるまま、マリエルは食卓へと向かった。


           *


夜明け前、ひんやりとした空気の中、マリエルは郵便局の庭に立っていた。

草むしり、庭掃除、水やり――一連の作業をエリオットに教わり、続けて局内の掃除や細々とした雑用も任される。

覚えは早く、一度教わったことは手際よくこなしていった。


やがて、朝の光が差し込み始めたころ、局の扉が開く。

金髪の青年が配達袋を受け取りにやってきた。


「あぁ、君が新入りの子か」

低く落ち着いた声に、マリエルは背筋を伸ばす。

「はい。マリエルです」

「俺は、ハロルだ」

短く名乗ると、彼は配達袋を受け取り、そのまま出て行った。


カウンターの奥で帳簿をつけていた古参の事務員の女性が、そっと近づき、口元を手で隠して囁く。

「ヴィオレッタさんの彼氏よ。ふふふ」


あぁ、お似合いのカップルだな――

マリエルは心の中でそう思いながら、小さく微笑んだ。


           *


一週間ほどすると、マリエルは鳥になって飛べるようになっていた。

全身は柔らかな桃色に染まり、胸元と羽先には淡いヨモギ色が差している。羽ばたくたび、陽の光を受けて色がきらりと揺れた。


初めて島の上空を滑るように飛んだとき、風が羽根をくぐり抜け、視界いっぱいに空が広がった。

島での生活は劇的に快適になり、マリエルは少しずつ、毎日が楽しいと感じるようになっていた。


陽光が畑一面を黄金色に染め、草原の広がる丘をやわらかな緑に輝かせる。

市場には赤や橙の果実が山のように積まれ、遠くには花の色が点々と咲きほころぶ。

そのすべての色が、心の奥にあった灰色をゆっくりと塗り替えていくようだった。


マリエルは翼をひときわ大きく広げ、色に満ちた島の上を、何度も旋回した。

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