ep28: 独り立ち
ニールとチト、ハロルとナツは、東と西に分かれて、配達員のミスで落ちた大量の手紙を回収していた。
初日は東西合わせて百通以上を拾い上げ、幸先のいいスタートを切った。
だが日を追うごとに、目に見える手紙は減り、回収数は一日あたり二桁まで落ち込んでいた。
碧く澄んだ海には、いくつもの島が浮かび、水面には強い陽光が反射して、幻想的な景色をつくり出していた。
その上空を、別々の方角から飛んできたハロルとニールが、同じ軌道に入り、左へと旋回する。
彼らの後ろには、小さな雀の姿をしたチトとナツが、細かく羽ばたきながらついてきていた。
「やぁ、久しぶりだな、ハロル」
「あぁ、久しぶりだ」
二人は、眼下に白い砂浜が環を描く小島へ向かって、翼を傾ける。
その急な降下に、チトとナツは慌てて羽ばたきを強め、必死に後を追った。
「今、回収済みの手紙は何通だ?」ニールが尋ねた。
「286通です」答えたのはナツだった。集計は彼女の担当らしい。
「こちらは290ほどだな」ニールが言うと、
「ほどってなんだ?ならこちらも290“ほど”だぞ」ハロルがにやりと返す。
「残り20から30通…ここからが手ごわいな」
これまでは空からざっくりと気配をたどって拾ってきたが、これからは島一つ一つを念入りに捜す必要がある。
「では、チトナツは二人で陸の手紙を回収しろ。俺とハロルは、見つけにくい場所を当たる」
どうやらニールは、二人をまとめて“チトナツ”と呼ぶことにしたらしい。
「了解」ハロルが即答し、
「はっ、はい!」チトナツは声をそろえた。
二人だけで挑む初めての任務に、少し緊張した面持ちだ。
ハロルはちらりと二人に目をやり、「宿屋の泊まり方はわかるか?」と優しく尋ねた。
「うん!ニールに教えてもらった」チトが胸を張って答える。
*
ハロルとニールは大きく羽ばたき、上空へ舞い上がった。
高度を上げて全体を見下ろすと、島々と碧い海が広がり、その中にまばらな手紙の気配が点在している。
二人はその数を静かに数えた。
「十通以上、西に流されているな」ハロルが言う。
「あぁ、残りは諸島のあちこちに散らばってる。どっちに行きたい?」ニールが問いかける。
「どちらでも」ハロルは淡々と答えた。
「じゃあ、波に流された分は頼む。俺は海に揺られて眠るのはごめんだ」ニールが軽く笑った。
「了解」
ハロルは大きく翼を立て、風をつかんで旋回すると、そのまま西の海へ向けて飛び立った。
*
一週間ほどかけて、すべての手紙を回収し終えた一行は、空に浮かぶ島へと帰還した。
局員全員が総出で迎えに出て、拍手と笑顔で一行を歓待する。
「これほど早く回収が終わるとは思っておらんかったぞ。ありがとう、ありがとう」
ジェロは声を弾ませ、深く頭を下げた。
ニールとハロルの報告によれば、回収した手紙のうち半数以上を、チトとナツが集めていたという。
その数字に、ジェロは目を丸くした。
「後半は二人で単独行動を取らせていたが、問題なさそうだぞ」ニールが付け加える。
「そうか、そうか…」ジェロは何度もうなずいた。
二人の教育係を務めていたエリオットは、その話を聞くなり、もう目頭を押さえていた。
その日の夕方、郵便局前の広場では盛大な宴が開かれた。
思っていた以上に今回は危機的状況だったらしく、一行はまるで英雄のように讃えられた。
解放感に包まれた笑い声が、黄昏の空へと吸い込まれていく。
空の島は、久しぶりに熱気と灯りに満ちていた。




