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雲を渡る手紙  作者: tomsugar


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ep26: 南国でのミッション

朝早く、ニールとハロルは郵便局の外に立っていた。

それよりずっと前から、雀の兄妹チトとナツはそこで二人を待っていた。

久々の配達任務への同行を許され、二人はほくほく顔だ。


「さ、そろそろ夜明けだな。行こうか」

ニールがそう言って翼を広げる。

ハロルは軽くうなずき、静かにその後に続いた。


冷えた朝の空気を切り裂くように舞い上がると、東の空が淡い朱に染まり、雲の輪郭が金色に縁取られていく。


やがて眼下に、海に浮かぶ小さな島々が現れた。

深く澄んだ群青の海に、緑の小島が無数に浮かび、島ごとに形や大きさが違う。

ある島は白い砂浜が環のように広がり、別の島は切り立った岩肌を海に落としている。

潮風に乗って、椰子の葉がゆるやかに揺れ、マングローブの林が波間に影を落とす。


遠くの入り江には、カポックの巨木がそびえ、根が大地を抱きしめるように広がっていた。


その上空を、一行は大きく旋回していた。

眼下には、群青の海に散らばる島々がきらめいている。


「何が海だ、ジェロのやつ」

赤・黄・青の美しい羽を広げたニールが、潮風を切りながら毒づく。


「……海と島に、ばらけて落ちてるな」

ハロルは冷静に、翼を傾けて下を見やった。


「とりあえず、どこかの木に止まって作戦会議だ」

そういうや否や、ニールは翼をたたみ、急降下を始める。


ハロルも後を追うが、後ろの雀の兄妹を気にかけているのか、速度はやや控えめだ。

それでもチトとナツは必死に羽ばたき、潮の香りを浴びながら懸命についていく。

陽光を受けた小さな翼が、海面にきらきらと反射していた。


           *


褐色の木肌を持つ大木が、小さな南国の島の中心にそびえていた。

幹の根元からは、太い根がタコの足のように地面へと広がっている。


ニールはその木の頂上に近い太い枝に舞い降りた。

少し遅れて、ハロルが隣の枝にとまる。


「ハロル、君は意外と子煩悩だな」

ニールが口元をゆるめて声をかけた。

「そうか?」ハロルはそっけなく返す。


やがて、必死に羽ばたいてきた雀の兄妹が追いつき、ハロルのそばに並んだ。

小さな胸が上下し、まだ呼吸が整わない。


全員がそろったところで、ニールが切り出した。

「ざっと十の島が点在していて、手紙の気配は全体から感じた……俺の気のせいか?」


「いや、それで正しい」ハロルが短く答える。


「気のせいと言ってくれ」

「無理だな。で、どうやって回収していく?」


「手分けするか、全員で端から片づけていくか……」

ニールはしばし考え、枝の上で片翼を軽く伸ばした。


「チト、お前は俺についてこい。ハロルはナツを連れていけ。東側と西側から回収していくぞ」


「了解」ハロルが即答する。


「じゃあ、競争だね!」

チトの目がきらりと光り、ナツも思わず笑顔になった。


           *


話が決まると、ニールは翼をひるがえし、東の空へ飛び立った。

チトが慌てて後を追う。


「じゃあ、俺たちは西側からだな」

ハロルは軽く翼を打ち、海風に乗って舞い上がった。


上空から見下ろしながら、ハロルは手紙の気配を探る。

どうやら西側の大きな島に、もっとも多く集まっているらしい。

風や潮の流れが、そこへ運んだのだろう。


やがて島の白い砂浜が近づく。

波打ち際には、数十通の封筒が点々と散らばっていた。


「目に見えるやつは全部回収してくれ。俺は海の中のを取ってくる。終わったら、ここで休憩してろ」

そう告げると、ハロルは再び飛び立った。


低空を滑るように進み、翼をたたんで海面に突っ込む。

水しぶきが陽光を受けてきらめき、白い羽が一瞬だけ波間に消えた。

ハロルは意外にも泳ぎが得意らしい。


浜辺に残ったナツは、そのしなやかな動きにしばし見とれていたが、はっとして首を振り、封筒の回収を始めた。


浜辺と海の手紙をあらかた回収した二人は、人の姿になって、港町へ向かった。

日が傾き、赤道の島はゆるやかな風に包まれている。

海沿いの通りには、ヤシの葉を揺らす音と、屋台から漂うスパイスの香りが混じっていた。


「あの店だ」

ハロルが顎で示したのは、二階のバルコニー席がある小さなレストランだった。ハロルのなじみの店らしく、ハロルとナツは特等席に案内された。


木の階段を上がると、潮風が心地よく吹き抜け、目の前には群青から茜色へと変わる海が広がっている。


バルコニーの手すりには、ランタンがいくつも吊るされていた。


「ご褒美だ、好きなもの頼めよ」

ハロルがそう言うと、ナツは目を輝かせてメニューを覗き込んだ。

ハロルは魚のグリルとハーブの香り立つスープ、そして南国の果物を注文する。


ほどなくして、テーブルには色鮮やかな料理が並んだ。

黄金色に焼き上がった魚、透き通ったスープに浮かぶ緑の葉、真紅や橙の果物が皿の上で輝いている。


ナツは夢中で食べ、やがて満腹になった腹を手でさすった。

海風に髪を揺らしながら、暮れていく水平線を見つめる。

空と海の色がゆっくりと夜に溶けていく――そんな景色の中で、ふとチトのことを思った。


―チトも、今ごろこんなごちそうを食べられているのかな。


海岸に打ち寄せる波の音が、静かな夜を告げるように一層大きく響いた。

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