ep25: 消えた郵便袋
ある日、空に浮かぶ島の郵便局は、珍しく騒然としていた。
ざわざわと低い声が交わされ、書類の束が机から机へと行き交う。
局の外で掃除をしていた雀の兄妹、チトとナツは、ほうきを持ったまま足を止めた。
二人が整えた庭は、落ち葉ひとつ残らずきれいになっている。
雑用も、今ではすっかり板についたものだ。
しかし、今日は中に入る勇気が出ない。
そっと窓辺に近づき、背伸びをして中をのぞき込む。
そのとき、背後から声がした。
「なんだ、チトとナツ?」
振り返ると、赤い髪の青年――ニールが立っていた。
「あぁ、ニールさん。なんか中が怖い雰囲気でさ、入れないんだ」
「へぇ~」
ニールは口元に笑みを浮かべ、何か面白いことでも見つけたように、ひょいと中へ入っていった。
*
「あぁ、ニール、ちょうどいいところに来た。もう少しでハロルが戻るから、少し待っていてくれ」
今日はカウンター業務どころではないのか、奥からジェロの声が飛んできた。
「ん?なんだなんだ?事件か?面白そうだな!」
ニールは口元をゆるめ、エリオットに案内されて部屋に入る。
紅茶とクッキーを楽しみながら雑談していると、ほどなくしてハロルが現れた。
「なにかあったか?」
ハロルが入ってきて、椅子に腰を掛けた。
直後、ジェロが苦い顔で入ってきた。
「何が面白そうじゃ!郵便袋を下界に落としてしまったんじゃぞ!」
「拾ってくればいいじゃないか」
「まったくだ」ハロルはクッキーをつまみながら、当然のようにうなずく。
ジェロは深くため息をつき、言葉を絞り出すように続けた。
「……落とした先は、海の中だ」
「へぇ~」ニールとハロルの声がぴたりと重なる。
深刻さは、二人の耳には届いていないらしい。
「二人には悪いが、この郵便袋を回収できるのはお前さんたちだけなんだ。頼めんか?」
「別にいいけど」
「何がそんなに問題なのか、よくわからんな」
ハロルは、うんうんと、クッキーをくわえながらニールに同調した。
*
エリオットが、大きな丸テーブルいっぱいに世界地図を広げた。
その上に、赤い円がいくつか描かれている。
「配達員が、このあたりで袋を落としたと言っていました。落下地点はおそらく、このエリアです」
彼は円の一つを指先でとん、と叩く。
「袋が逆さまになり、中の手紙はすべて海中にばらばらと落ちていったそうです」
「おいおい……」
ハロルは次のクッキーに手を伸ばしながら、気のない声を漏らす。
「手紙の気配や、配達先の気配を察知できるのは、お二人だけです。
ですので、この回収任務はお二人にしか行えません」
「雀の二人は連れて行けるのか?」とハロル。
「はい。ハロルさんは引き続き二人の教育係ということになっていますが……役に立つでしょうか?」
「まぁ、手は多いほうがいいだろう」ニールが軽く笑って言った。
「で、回収対象の手紙は何通だ?」
エリオットは一枚の紙を差し出した。
「約五百通です。リストはこちらになります」
「ごひゃく?!」
二人の声がぴたりと重なった。
「……これは長期戦だな」
ニールは最後のクッキーをかじり、砕けた甘い香りを鼻から抜けさせた。




