ep22: 白い花の丘
一面に美しく整えられた芝生の墓地に、一人のスーツ姿の男性が立っていた。
手には、小さな白い花を集めた花束が握られている。
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Mary Grace Thompson
1995 – 2020
Forever 25
Loved and remembered always
メアリー・グレース・トムソン
1995年 ― 2020年
享年25歳
永遠に、愛とともに
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彼の足元の墓石には、その名が刻まれていた。
花束をそっと置き、彼は静かにその場を離れる。
彼の名はジャック・ハリソン。
金融街で働くビジネスマンだ。
5年前、婚約者を失って以来、毎朝こうして墓参りをしてから職場へ向かう。
それが、彼の日常となっていた。
かつての彼は、友人とバーに行き、旅行を楽しみ、休日は活発に過ごす青年だった。
婚約者の死後、友人たちは気落ちする彼を心配して何度も誘ったが、断り続けるうちに――
5年が経った今、誰ももう彼に声をかけなくなっていた。
*
職場は、灰色の高層ビルが立ち並ぶ金融街の一角にある。
「おはよう」と秘書に声をかけ、オフィスへ入る。
それから一言も話さず、定時になると席を立ち、エレベーターへ。
だが、その日は違っていた。
エントランスを出ると、白いシャツにカーキのパンツ、擦れた茶色のサンダルを履いた金髪の青年が立っていた。
金融街では異質な姿が、まっすぐ彼を見つめている。
彼が、何か用かと尋ねようとしたとき、
金髪の青年が、手紙を差し出した。
「愛するジャックへ」宛名の筆跡には見覚えがあった。
手紙を渡すと、青年はふっと消えた。
どこから来たのか、目の前を白い鳥が羽ばたいて空に飛んでいった。
目の前の手すりには、小さな雀がチュンチュンと鳴いている。
「えらく人懐っこいな」と呟いた途端、雀も羽ばたいていった。
ジャックは、もう一度手元の封筒を見つめた。
「メアリーの筆跡だ…」
大切なものをひとに見られたくない。
ジャックは封筒を握りしめ、急ぎ足で帰宅した。
居間のソファに腰を下ろす。
結婚を前に二人で選んだ、ソファだ。
―――
丘の花畑
ふたりのダンス
くるり くるり
満天の星の下
ごろりと寝転び
息まで星屑にまぎれた
私は蝶になり
空の色に溶けていく
あなたは丘の上で
その羽ばたきを見つめていた
蝶は どこまでも
どこまでも
光の向こうへ飛び立った
―――
何度も読み返すうちに、
ジャックの頬を熱い涙が伝った。
「君を手放せと、そう言っているのかい…メアリー?」
そのとき、窓ガラスをコツンと叩く音。
振り向くと小鳥が二羽、窓辺には白い小さな花が一輪、
まるで彼を慰めるように置かれていた。




