ep21: 港町の画家
真っ白な大きな鳥と、その後ろに小さな雀が二羽、港町の空を飛んでいた。
白い鳥は悠々と滑空し、雀たちは必死に羽ばたいてついていく。
白い鳥は、港から続く坂道の頂上近く──色あせた漆喰壁と色鮮やかな鉢植えの花が並ぶ、美しい一軒家の前に降り立った。
外のテーブルでは、三人の老人が井戸端会議の真っ最中。
一人が古びたギターを鳴らせば、もう一人が椅子を蹴って踊り出す。
残る一人は、二人を横目にスケッチブックを開き、軽やかな鉛筆の音を響かせていた。
陽光を浴びた三人は七十を越えているようだが、その笑い声と動きは若者のように軽やかだ。
上空から眺めていたハロルの視線が、スケッチブックを持つ老人で止まる。
その体がほのかに光って見えた。──配達先だ。
ハロルは急降下し、慌てた雀たちも続く。
足が地面を踏むや否や、白い鳥は銀髪の青年に変わり、後ろには十歳ほどの兄妹がついてきた。
「手紙の配達だ」
老人は不思議そうな表情で、手紙を受け取りながら、ハロルを見上げた。
「あんたは?」
「ハロルだ」
「そうか、俺はアントスだ」手を差し出した。
ハロルはアントスの手を握り返した。
ハロルは再び鳥となって空へ舞い上がる。雀たちも小さな翼を懸命に動かして後を追った。
手紙を開いたアントスは、最初の一行で息を呑んだ。
彼は目頭を押さえ、その肩は、静かに、しかし確かに震えていた。
―――
愛しきアントスへ
私が、あなたの元を旅立ってから、あなたの笑顔が瞼から離れません。
ワインはほどほどにして──その代わり、私を想いながらパンを焼いてください。
野菜も忘れずに。私がいなくても、あなたの身体は大事にしてほしいのです。
次に抱きしめるその日まで、
私はあなたの名を心の中で何度も呼びます。
この手紙に、キスを百回込めて送ります。
永遠にあなたを愛する ソニアより
―――
白いテーブルの上に、雀が二羽やって来た。
チュンチュンと交互に首を上げ下げし、
かしましく鳴きかわしたかと思うと、
羽ばたいてアントスの周りをくるくると二周し、
大空へ舞い上がった。
潮の香りに包まれた青い空を、白い鳥が大きく弧を描いて飛び去っていく。
その後ろを、小さな二羽が必死に羽ばたきながら、
きらめく陽光の中へと追いかけていった。




