ep17: 少女との文通
ジョセフは家に戻ると、真っ先に書斎へ向かった。
エドワード調の家具が並ぶ落ち着いた部屋。港を見下ろす窓辺には双眼鏡が置かれ、カモメの鳴き声と潮の香りが漂ってくる。
重厚な机の上には──金髪の青年から受け取った、セイラの手紙があった。
―――
領主さまへ
風見鶏が壊れていて困っています。
修理をお願いします。
セイラ
―――
「……風見鶏が壊れていて困っている、か。となると、彼女とは利害が一致していそうだな」
ジョセフは便箋を取り出し、ペンを走らせた。
―――
セイラへ
塔のメンテナンスが不十分ですまない。
風見鶏だけでなく、階段や壁の修繕もしたいと思っているのだが、
君の意見を聞かせてほしい。
ほかに足りないものはないかな?
できるだけのものは準備しようと思っている。
ジョセフ・レイヴンショア
―――
書き上げた手紙を封筒に入れ、封をする。宛名には「セイラ」と記した。
「……さて、これをどうやって彼女に送ればいいんだ?」
港から吹き込む潮風に封筒をなびかせながら、ジョセフは首をひねった。
送り方をリチャード牧師に聞いておけばよかった──そう思いながら、庭へ出る。
東の塔まで自分で配達しようと歩き出したその時、目の前に金髪の青年が現れた。
「手紙の集荷に来たよ」
不意に声をかけられ、ジョセフは一瞬たじろぐ。
それでも封筒を差し出しながら名乗った。
「私はジョセフだ。君は?」
「ハロル」
名を告げると同時に、青年の姿はふっと、ほどけるように白い鳥へと変わる。
陽光を反射する翼が一閃し、彼は空高く舞い上がっていった。
ーー美しい羽根を持つ鳥の姿で飛来して、手紙を届けてくれるそうだよ。
人の言葉を話し、時には、美しい人の姿を取ることもあるそうだ。
ジョセフはリチャード牧師の言葉を思い出していた。
*
翌朝、ジョセフはベッドから体を起こした。
昨日の体験は夢だったのではないかと、寝ぼけながら考えていると、
部屋に、金髪の青年が立っていた。
「セイラから返信だ」
「あぁ、おはようハロル。ありがとう」突拍子もない光景だが、そのまま受け入れている自分にも驚きつつ、ごわごわした肌障りのラグペーパーの手紙を受け取った。
ベッドで、手紙を開いた。
―――
やさしい領主様へ
風見鶏の修理をしてくださるとのこと、とてもうれしく思います。
階段や壁には問題ありませんが、修理が必要な箇所があるとのご判断であれば、どうぞお願いいたします。
私はいまのところ、必要なものはありません。
風見鶏さえ戻れば、風の観測が再開できますので。
セイラ
―――
*
「セイラ、とてもいい子じゃないか。誰が悪魔だ。全く…」
そう呟いて、顔を上げると、ハロルの姿は消えていた。
窓の外には、彩度を失った青い海が遠くに広がり、東の塔の尖塔がかすんで見える。
ジョセフは椅子に座って、紙にペンを走らせる。
―――
親愛なるセイラへ
建物の修復に賛同してくれてありがとう。
工事の日取りが決まったら、改めて知らせるよ。
それとは別に、一つ提案がある。
今度の日曜、東の塔の最下層で小さな礼拝を開こうと思っている。
ハーバーライト教会の牧師、リチャードにも来てもらう予定だ。
もちろん強制ではないけれど、もしよければ君も参加してくれないか。
君がずっと守ってきた塔に、祈りの声を響かせたいと思っている。
君が賛同してくれるなら、きっと意味のある時間になるだろう。
返事を楽しみにしている。
ジョセフ・レイヴンショア
―――
封筒をジャケットにしまい、ジョセフは車に乗り込んだ。
港を抜けると、バックミラーの中に青くかすんだ東の塔の尖塔が揺れていた。




