表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雲を渡る手紙  作者: tomsugar


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/58

ep15: 風見鶏の塔

尖った屋根の塔がいくつもそびえる、古くも美しい石造りの建物。

長い年月を経た外壁は、ところどころ苔や蔦に覆われ、石は風雨に削られて鈍く光を返している。


その一角、東側の細い塔に、十歳ほどの少女セイラは暮らしていた。

彼女が立ち入りを許されているのは、この塔の内部だけ。

外へ出ることはなく、日々同じ階段を上り下りし、同じ部屋で眠り、同じ窓から外を眺める。


セイラの日課は、塔の最上階まで行き、そこから見える風見鶏を観察することだった。

屋根の上に取り付けられたそれは、はるか街の象徴でもあったが──もうずいぶんと前から錆びつき、同じ方向を指したまま、ただ風に揺れているだけになっていた。


それでもセイラは毎日、風向きと風の強さを記録する。紙に残した数字や矢印は、いつか誰かが必要とするかもしれない、そう信じて。


この日も、狭い最上階の部屋から梯子をのぼり、屋根の窓を開けた。

外の空気が頬を撫で、少し冷たい風が髪を揺らす。

ふと見上げた瞬間、空から影が差し込み、大きな白い鳥が舞い降りてきた。


「やぁ、君がセイラかい?」


思わず目を丸くしたセイラは、しばらく黙ったまま、言葉を話す鳥を見つめた。


「……そうだけど?」

久しぶりに誰かと声を交わしたが、意外にも言葉はすんなりと出た。


「手紙の集荷だ」白い鳥は短く告げた。


梯子を下りるセイラの後を追い、白い鳥も軽やかに天窓から中へ入る。

床に降り立ったその瞬間、白い羽が舞い、鳥の姿は金髪の青年へと変わった。


「あなたは天使なの?」

「ただの配達人だよ。君からの手紙を集荷に来たんだ」

「手紙って?」

「さぁ」

「あっ、風見鶏が壊れてしまっているの。困っていたんだけど、そのことかしら?」

「うん、まぁ、それでいいんじゃないかな」


そっけない返事に、セイラは少し首をかしげた。

けれど、こんな機会はめったにない。すぐに自室へ戻り、机に向かって便箋を広げた。


ペンを持つ手がわずかに震える。

それでも、丁寧に文字を綴る。


―――

領主さまへ


風見鶏が壊れていて困っています。

修理をお願いします。


セイラ

―――


書き上げた手紙を持って戻ると、青年は窓際に立って外を眺めていた。

「こんな手紙を送って、怒られたりしない?」

「怒られはしないさ。大丈夫だ」


短く言い切ると、青年はそのまま手紙を受け取り、再び白い鳥の姿へ変わった。

羽音が塔の壁をかすめ、真っ白な影が空へと飛び立っていった。


その姿を見送りながら、セイラはふと、帳面の記録に目をやった。


―――


Observed this 23rd day of May, Anno Domini 1625,

at six of the clock in the morning.

Wind: East-North-East (ENE)Force: Light


観測日:西暦1625年5月23日 午前六時

風向:東北東 風力:弱風


―――


彼女の最後の観測記録がそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ